第24話
ランクインの通知が来てびっくりした作者です。
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だそうですが特別アクセスが増えた、なんてこともなく肩透かしでしたとさ。注目度ランキングとは一体……
ダンジョンの入り口近くに設営された仮設キャンプ。
そこには大型の車両がずらりと並んでいる。
それぞれ仮眠用のベッドが備え付けられた仮眠用、Dデバイスの修理や調整を行う簡易工房、予備の装備や回収した資源を管理する輸送車両といったダンジョン攻略に必要な施設が用意されている。
ダンジョンは頻繁に現れるが決まった場所に現れるわけではない。時には人里離れた場所に発生することもある。そのため前線基地を構築するのも効率化していった結果がこの車両の群れである。
シオンが黒鵜に襲われた時のような規模が小さく数時間で攻略する予定だったため監視員ぐらいしか置いてなかったダンジョンとは違って、ある程度の規模があるダンジョンではこれぐらいが一般的だ。
それこそ資源を根こそぎ回収するのを目的とした攻略ならばもっと大規模になることも珍しくない。
とはいえ、今回の目的は学生シーカーによる現地での演習。既に内部の探索は終えており、あとはコアを回収してダンジョンの機能を停止させるだけという状況となっている。
なのでこの場に居るのは最後の処理に必要な人員と入れ替わりで来た演習の関係者のみで、現在は学園の教官と外部から雇ったシーカーの引率の下、学生シーカーが交代でダンジョンに潜っている。
学生シーカーといっても中等部の頃から異能の制御や戦闘訓練を受けてきた子供たちだ。Eランクのダンジョンに出るモンスター程度なら苦戦することもなく、順調に進んでいた。
そして一週間経ってもこれといった大きなトラブルも無く、何度目かの私の番がやって来た。
「噂には聞いていたが随分と冷静沈着だな。戦い慣れてるように見える」
「姉たちに鍛えられたので」
私には引率の必要はないということで今回、教官が一名同行するだけとなった。
同行者はミカゲのことも担当している実技系の教官、工藤恵美教官二十六歳(独身)。
統括機構の身辺調査でも星月公司等の怪しい組織との繋がりはなく、完璧な白だとわかっているので警戒する必要のない相手――だったのだが、どうやら別の意味で警戒が必要のようであった。
「……実戦経験はないのか?」
「この子たちのテイムに少しだけダンジョンに入っただけですね。もちろん申請は出してありますよ?」
これ実力怪しまれてない?
ランク詐称を疑われてる気がする。
『退屈なのじゃ』
魔王さん? ちょっとはこっちにも興味持とうか。
一応、事前に打ち合わせしてあったのは、
タマはタンクとして前線の維持。
ポチはメインアタッカーとして前線でモンスターを排除。
アオは遊撃として上空で周囲を警戒しつつ討ち漏らしの排除。
私はテイマーらしく、主人としてタマの後ろで指示を出しながら、時折ライフル型のDデバイスで援護。
と、パーティの役割としては特に奇を衒ったものではない。ミラが退屈するのもわかるが、Cランクの戦いとはこういうものだ。
『知るか。お主は実力を隠したい系主人公じゃろ? 余、ああいうのはじれったくて性に合わん』
いやいやたしかに否定できない部分もあるよ? けど転生とかバレたら面倒事になるからって隠す方向になったよね?
『なら今からダンジョンを潰して演習を有耶無耶にするか? 致命的なボロを出す前に強制的に終わらせてしまえばよい』
確かに本気を出せば私でもミカゲでも、こんなダンジョン単独で一時間と掛からず攻略できる。
まあそれをやったら有耶無耶になるどころかより疑われるだけだろ。魔王も退屈だからって投げやりになるな。
何のためにCランクに見えるよう戦ってると思ってるんだか。
工藤教官も何を嗅ぎ取ったのやら。最初から私の実力に違和感を持っていた様子。
生真面目そうな人だから興味本位というわけではないだろうが、企業の思惑が地雷原のように埋まってるこの場所で一生徒に深入りするのは自殺行為だろうに。
『それより気付いておるか? 奥からおかしな気配がある』
ああ、うん。妙に禍々しいけど天使に似た魔力が複数。なんか《《背後の》》とは別に唐突に現れたね。
『唐突? まだまだ甘いのう。《《最初から》》潜んでいたぞ?』
え?
『隠れたモノを探すときは全体を意識しろ。魔力を遮断したり誤魔化そうとすれば不自然な魔力の流れが浮かび上がる。故に隠れるなら如何に自然と周囲に溶け込むかなのじゃ』
へいへい。ありがたいご助言感謝しますよっと。できれば気付いた時点で言って欲しかったのだけど?
『あの時点で知ったところでおぬしは静観しておったよ。演習が中断になったら、仮免許発行も延期になっておったかもしれんのだからな。今なら合格に十分な実力は示しただろ』
全部魔王の掌の上というわけですか。
とりあえず、ポチとアオはあっちから異変を察知した態で演技よろ。
「「グルルルルルルルル」」
「また敵か?」
「……いえ、何か違う異常――今までに無い脅威を察知したようですね」
ポチとアオが今までにない警戒した様子で唸り声を同じ方向へ上げたことで、教官にも自然と何か異常が起こったと伝わったようだ。
教官は通信機で他の教官と連絡を取った後、
「私は異常とやらを確認してくる。お前たちはここで待機、危険だと判断したならば私のことは気にせずダンジョンから撤退しろ」
そう言ってポチたちが警戒していたほうへ向かっていく。
それを見届けて私は後ろを振り返り、近づいてくるもうひとつの気配に向かって話しかける。
「そろそろ姿を見せたらどう?」
その言葉をきっかけにぞろぞろと現れる仮設キャンプで見た居残り組のシーカー集団。本来であれば演習が終わり次第、ダンジョンを攻略するはずの連中だがあちら側の人間だったらしい。
正規のシーカーと入れ替わりで侵入したのか、あるいはもともと正体を隠して潜入していたのか。その辺りの調査は統括機構の仕事だな。
「ほう、我々の存在に気付いていて一人になるとは威勢の良いお嬢さんだ」
「一応聞いておくけど、どちら様かしら?」
「我らは自由解放戦線、企業に奪われた主権『人民の、人民による、人民のための政治』――民主主義国家を取り戻さんとする者だ」
「……一部の特権階級の支配と圧政からの解放、要するに民主化運動というやつね」
「そう世界の混乱に乗じて世界を乗っ取った世界統括機構による独裁体制を許してはならない。どうだ我らの同志にならないか?」
なぜ国家という枠組みが崩壊したのかを見て見ぬふりをし、まだダンジョンが存在しなかった時代の民主主義こそ正義という思想に取りつかれた連中。
それが自由解放戦線である。
『民主主義のう……所詮、多くの大衆はパンとサーカスさえ与えておけば満足するものよ。よほど成熟した文明でもなければ衆愚政治にしかならんと思うのだが?』
今の社会はとにかく合理的なシステムを優先した結果だからねえ。
その地を統治する企業が無能なら顧客である住民に逃げられるか、現地のシーカーに反乱を起こされて別の企業が成り代わるだけだ。前者なら良くてランク落ち悪くても倒産程度で済むが、後者は物理的に首が刎ねられることになる。
大して責任も取らず結果を出さなくとも許される民主政治の政治家と違い、中世よろしく暗愚は簡単に淘汰されるのが企業統治だ。
そもそも魔王が言うように、パンとサーカス――食うに困らずちょっとした贅沢さえできるなら政治に対して興味を示さないのが民衆である。
自由解放戦線はそんな大衆の未来を憂いて立ち上がった組織――では決してない。
「尤もらしい大義を掲げているけど、実態は企業から依頼を受けて敵対企業に攻撃するただのテロ屋でしょ? 昔は環境問題を隠れ蓑にした環境テロリストなんてのもいたいらしいけど、昨今の流行りは企業支配からの解放を謳った民主化テロリストというわけね」
「……」
「そこで黙っちゃ駄目でしょ。というか、あなたたちの居た国って民主主義じゃなくて一党独裁政治だったじゃない。ねえ? 星月公司の工作員さん」
原作同様なら星月公司が裏で支援しているテロ組織のひとつでしかなく、彼らを隠れ蓑に非合法なことも行うために作られた組織でしかない。
中には本気で都合の良い民主化思想に染まった馬鹿もいるだろうが、中枢は星月公司の人間ばかりである。
「目的は勇者と魔王との交渉材料となる私の誘拐、そして天使化兵器の実戦データ採取と言ったところ?」
「何の話だ」
証拠さえなければ問題ないとでも言いたいのか?
残念だけど惚けたところでこっちは全部わかってるから関係ないんだよね。
「悪いけどあなた達の相手をしてる暇はないの。ミカゲ、あれの処分と一応教官のこと頼める?」
「わかった」
この場をミカゲに任せ、私は外へと向かうことにした。
本命はおそらくダンジョンには居ない。




