第22話
「こんなに大人しいのにCランクモンスターなんだ。こうしてみると可愛く見えるかも」
「ほら犬猫も野良とそうでないので顔つきが違うっていうじゃん? モンスターも野生を失うと可愛くなるんだって、きっと」
「羨ましい、でもテイマーとかサモナーって希少だよね。たしかAランクの【竜姫】とか【死者の軍勢】が使役系界隈のトップだっけ」
「テイマー界隈どころか、Aランクの中でも上位じゃん」
「ミナトちゃんのほっぺたやわらかーい。スライムみたい!」
「ってかこの組み合わせ可愛過ぎて反則じゃない?」
「こんなことならもっとはやく話しかければ良かったじゃん」
「休み時間とかいっつも草壁さんと一緒だから話しかけるタイミングがないんだよねー」
「わたし、草壁さんとも仲良くなりたい!」
これが一〇人以上の女子高生が集まった姦しさか。
はい、なんか知らないけどいつの間にかうちのモンスターと一緒に、他の同級生(女子)に囲まれて頭を撫でられたりほっぺをぷにぷにされてるミナトさんです。
私、ペットじゃねーです。
ポチが「自分らと同じっすね」って顔をしてたから、「お前帰ったら一週間聖女の抱き枕の刑な」って念話で送ったら口をあんぐり開けて絶望していた。ちなみにポチとアオの性別は雌ね。タマは不明、というかスライムに性別ってあんの?
そうしてる間も次々と話題が変わってはその度に私を膝に乗せて撫でる人間も交代する。
だんだん遠い眼をし始めた私を見兼ねて九条院エリカがパァン、と手を叩いて注目を集めた。
「皆さん、水無瀬さんが困っていらっしゃるのでほどほどにですわ」
「「「「はーい」」」」
九条院さんマジ天使。今度《《トラブルに巻き込まれる》》かもだから、その時は助けるね♪
『ふっふっふっ、少しお姉さん味に欠けるがおねロリ百合は良きものなのじゃ。これをリアルタイムかつ主観視点で体感できるのならば、徹夜した甲斐もあるというもの』
※私は男です。これはおねロリではありません。
『肉体はロリじゃから問題無しなのじゃ! というかそろそろパーフェクトお姉さんモードの実装も考えるべきか……』
そういえば今まで勇者が好きそうなロリだったけど、それに対して魔王は何も言ってこなかったな。
『そろそろその体や仕草にも慣れたじゃろ?』
こいつ……! 男だった頃の《《オレ》》が薄まるのを――自分の理想の年上お姉さん像を演じられるまで待ってやがった。
って薄々わかってたというか暗黙の了解だったというか。私がロリ化してるのはやっぱりお前らの仕業だった、ってことだよな?
『なにをいまさら最初から分かり切っていたことだろうに。そしてそのお子様ボディは勇者の願望が反映された姿、ならば余の願望が反映されたお姉さんボディになってもよかろうなのじゃ』
それ反映されてるのは願望じゃなくて癖だろ。
『元凶が何を言っておる。余らがオタクとなった責任は体で取ってもらわんとな』
まるで私が傷物にしたみたいな、責任転嫁しないでくれますう?
九条院さんの一声で落ち着いた同級生が元居た場所に戻っていった。その九条院さんは去り際に、
「おひとりではないのはわかりましたが、もし力が必要とあればいつでも声を掛けてくれて構いませんことよ」
そう偉そうといか、上から目線で言い残していく。ただし内容自体は純粋な心配だ。
『これがギャップ萌えというやつか』
魔王も彼女の本質を理解したようである。
高貴なる者の義務。
公家に連なる九条院家に生まれ、さらには欧州のとある名家の血筋も引くという血統のサラブレットとも言える彼女は幼き頃からそう育てられてきた。
そんな九条院にとって私もまた庇護すべき存在なのかもしれない。たぶんこの見た目のせいかな。
だとしたら私、あなたと同学年。子供じゃないから。むしろ前世含めたら年上だからね?
「次からはミカゲが居ても関係無しに来そうだけど、大丈夫?」
「だいじょばない」
足元から項垂れてそうな幼馴染の声がした。
私に同行してるのは魔王だけでない。
本人は魔王がいることを知らないがミカゲも私が同級生にもみくちゃにされる前から、どころか最初からずっと私の影に潜んでいたのである。
「助け船は出さないから、頑張って自分でコミュニケーション取ろうね」
「うぅ」
陰から護衛をしているミカゲが姿を見せるわけにはいかないことはわかっているが、それでもこうして見捨てられたら恨み言のひとつもぶつけたくなる。
そこに個人端末から新着メッセージを知らせる通知音が鳴った。
「あっ……」
「どうしたの?」
「リトンが欧州のお客さんに見られたって」
それはフレイから聖女にゴート娘たちの存在を教えても良いか確認するメッセージだった。
『リトンの変装が見破られたのか?』
そうみたい。
こっちの内情を教えるのはもう少し先のつもりだったんだけど、どうしようかな。




