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一般人ですが、頭の中に勇者と魔王を飼ってます。  作者: 本間□□
メインストーリー:人造天使編
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第20話

 ポチとアオから「このケモナーなんとかしてください」と助けを求める視線が送られてきたが、それを無視して私はミラの居る工房に来ていた。


「魔王然り、勇者然り、聖女然り、みんな私を置いて死んで(キャラ崩壊して)いく。一体どうしてなの?」


 個人端末の前で例のデバイスに組み込むための魔術を構築しているミラに向かって私はそう零す。


「来て早々何をおかしなことを言っておる? あとゾエ! おぬしがコーヒーを淹れるでない! またダークマターを作るつもりか!」


 工房に居たのはミラだけではなかった。マゾエ(三女)グリとネア(五女)の姿もあった。ゾエは偶然夕食を運こんできたところだったらしく、食後のコーヒーを淹れようとして魔王に怒られている。


「うっ、ひどいです魔王様」

「ひどいのはおぬしじゃ! 毎度毎度不意打ちでダークマターコーヒーを出しおってに、余の舌が馬鹿になったらどうしてくれるのじゃ!」


 さすがメシマズのマゾエ。コーヒーすら淹れるとなぜかやばい物質に変換される。


「ゾエ姉様はなぜ頑なに自分は料理ができないと学習しないのでしょう?」

 

 助手として呼ばれたと思われるネアは姉に対して素朴な疑問を投げ掛ける。何気に辛辣なことを言っているが、そう思われても仕方ないぐらいゾエはやらかしているので自業自得である。


「ネア、ゾエだってしっかりネットや本でレシピを調べてから作っています。ただ壊滅的に不器用なのかはわかりませんが、《《レシピ通りに作っても》》ダークマターが出来上がるのです」

「モルゲン姉さん!」

「モル姉様!」


 途中でゲートのある部屋からモルゲン(長女)が来て、ダークマター(コーヒー)をゾエの口に突っ込む。


「○ヹ×△☆♭●♯⒥▲★※」


 声にならない悲鳴を上げてその場で倒れるゾエ。


 そのダークマターってもはやスキルの領域に入ってるよね。勇者の鑑定で調べたら≪ポイズンクッキング≫とか≪ダークマター生成≫とか出ない?


「周辺に三合会のシーカーと思われる連中が潜んでいるようですが、いかがいたしましょうか?」


 そして倒れ伏せたままピクリともしないゾエに見向きもしないで、本題に入る長女モルゲン


 ゾエ、強く生きろ。


 それにしてもモルゲンは優秀だな。私が魔王に確認しておこうと思ったことを先回りして調べてるんだから。


「ふむ、襲撃の線はまず無いとして監視程度だろうな。邪魔なら排除するが、どうするのじゃ?」

「あれには役割があるから、仕掛けてこない限り積極的に排除する必要はないよ」

「回りくどいのう。ミカゲのスキルでひっそり消してしまえ」

「私の親友を汚れ仕事に使わないでくれますう?」


 結局モルゲンたちに監視の監視を頼みつつ、排除はしない方向で決まった。


 ここで何の情報も与えず排除すると次のイベントで星月公司がどう動くか予想しにくくなる。


「ではそのように」


 モルゲンは意識の無いゾエをお姫様抱っこで連れていく。一応モルゲンも妹たちが可愛くて仕方がない娘だ。ただ姉妹愛(それ)忠誠心(これ)は別なようで、私《主》たちに何かやらかすとこうしてしっかりお仕置する。


 私はゾエの冥福を祈りつつ、ミラのほうへ向き直る。


「それで開発のほうは順調?」

「余を誰と心得る。術式自体は既に九割方は完成しておるわ。あとはネアのデバック作業が終わるのを待つのみじゃ」


 それを聞いた作業中のネアから「ひいぃ」という可愛らしい泣き声が上がる。


「変な圧を掛けてどうすんのよ。急がなくていいから丁寧な仕事をしてよ」

「ありがとうございます主様」

「それで本題はなんじゃ。無駄話がしたいなら勇者とでもしておれ」

「わかる?」

「もう何年の付き合いだと思っている。それぐらいわかる」


 不審者の対応も本題ではあったのだが、それ以外にもここに来た理由があった。


「本当に使徒のクローンはあの子ひとりだけだと思う?」

「そんな都合の良い話、あるわけなかろう。被検体は多ければ多いほど良い」

「やっぱり……なんらかの手段で聖女の探知を逃れたクローンが残ってると考えるべきか」

「魔力が外に漏れなければ引っかからないのではないか?」

「なるほど、そうなると最初からあの子は囮だった?」

「タイミングを見てモンスター化させるつもりだったようじゃな。その細工は既に無力化しておいたが」

「さすが魔王、略してさすまお。たぶん三日後のダンジョン演習に合わせて、こっちで騒ぎを起こして攪乱、その間に私を拉致って勇者と魔王の交渉材料にするってところかな」

「それは……大企業の考える作戦にしては頭が悪くはないかのう」

「星月公司の常套手段よ。そうやってAランクを何人も囲ってきたから感覚が麻痺してるんじゃない?」

「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶというわけか。それにしても分身に言うことを聞かせるために本体を狙うとはなんというか本末転倒というか……」

「因果応報だろ」

「それもそうじゃな」


 こちらとしては欠片ほどの同情もない。むしろざまあ! としか思わない。そういう連中だからな。


「それはそうと問題は星月公司が天使を使って何をしようとしているかだ」

「おぬしはなんだと思う?」

「研究の横流しがあったのが数年前だとしても、そこから長期的な計画を立てて兵器開発する余裕は星月公司になかったはず」

 

 モンスター化という想定外のトラブルがあったにしても、天使はS級企業である欧州教会がその巨大な資本力を以て解析と実用化を目指したにも関わらず断念した研究である。


 同じS級企業といっても星月公司自体は三合会を構成するA級企業の一つに過ぎず、天使の軍事転用を目論んだとしてもこの短期間で欧州教会以上の成果を出せるとは到底思えない。


「連中は短期間で尚且つ目先の戦争で使える兵器を開発しなくてはならない。手っ取り早いのは使い捨ての特攻兵器ぐらいじゃない? 制御不能のAランク人造モンスターでも意図的に暴走させられるなら、敵陣に特攻させるだけで十分な脅威となる」


 最終的には何かしらの兵器を作るつもりだったのだろう。しかしそれを開発する猶予を欧州教会が与えるわけがない。


「それが妥当なとこじゃろうて。故に余は天使化を抑制する魔術を開発していたわけだが」

「こんなこともあろうかと、を言うために?」

「のじゃ」

「じゃあ三日で完成させるからよろしく」

「のじゃあああああ!?」

 

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