第2話
どうも赤さんに転生したと思ったら、今度は赤さんから金髪美女にTSして、さらにはこの世界が実は前世でファンだったゲームの可能性があるでござるよ、という衝撃の展開続きに意識が現実逃避しているオレ氏です。
青天の霹靂とは、晴れ渡った空に突然雷が鳴る様子から、思いがけず起こる突発的な出来事や変動、突然の衝撃などを意味する(脳内wikiによる概要)わけでありますが、雷鳴でビートを刻め! ってぐらい怒涛の勢いで霹靂ってます。
大丈夫? この世の終わりみたいな光景になってない?
――――――と、現実逃避はここまでにして現状を整理しよう。
現在の体の優先権は勇者にあり、こちらの意志は一切反映されない。頭の中で居候するのはこんな感じなのか。ただオレの場合、強く意識すれば制御は取り戻せそうなので、そこまで焦りない。
自動車教習所の教習車で助手席に座ってるようなもので、その気になればいつでも助手席から運転は代われる状態である。
『余に体を寄越せなのじゃ!』
そんなふうにぼけーっと不思議がっていると、普段からこの現状に不満を漏らす魔王が体を奪おうと頭の中で暴れ出す。
『≪解析≫を持つあなたならいずれわかるでしょうが、三位一体の主体は彼。いくら一時的に体の自由を得たところで彼の意志ひとつで簡単に取り返されます。無駄な努力はやめなさい』
『ぐぬぬ』
この魔王、≪勇者≫の≪鑑定≫と同系統の情報系スキルである≪解析≫を持つのだが、視ることが発動条件の≪鑑定≫と違って魔王の≪解析≫は解析に要する時間だったり解析の基となる情報であったり条件が揃わないと真価を発揮できないのである。その分、最終的な情報量は≪鑑定≫の比ではないのだが、即応性にはどうしても欠けるそうな(勇者談)。
だからこれまで一切使わなかったオレのスキルを魔王は全く知らなかったのである。
勇者が今までオレのスキルを隠していたのは、純粋にスキルを使うには幼過ぎるというのもあるが一番は魔王にバレたくなかったからだろう。こうなるのがわかってたから、
『ちょっとぐらい体貸してくれたっていいじゃろーに。ってかかーせかーせかーせーなのじゃー』
魔王がスーパーのお菓子コーナーで駄々をこねるただのガキと化した。
貸すのは良いがそれで何すんだよ。
『世界征服! 良いじゃろ? 気に入った女も金銀財宝も、お前の好きにせい』
はい却下。誰がそれで体を貸すと思ってんだ。世界の半分をお前にやろうってか? 一般人には半分でも重いわ。
『それは一般人じゃなかったら手を貸してた、というわけではありませんよね?』
勇者が底冷えのするような声で言う。
いやだなーそんなことあるわけないじゃないっすか。
『目に余るようなら魔王ともども滅しますよ。この身この魂全てを賭してでも』
うわあ、勇者さんマジ勇者。
とはいえこの勇者さんは頼りになる。
この世界が本当にあのゲーム通りの世界なら、いずれ|世界の命運を賭けた戦い《ラスボス戦》が起こる可能性もあるんだよなあ。ただスキルの主体がオレにあると勇者は言うがそれも絶対とは限らない以上、今の魔王にゲーム情報を与えるのはなあ……とりあえずこの問題は先送りしよっと。
『それとさっきから魔王の干渉が鬱陶しいのですが』
『なら代わるのじゃ』
はあ、母さんや。それで満足するなら少しぐらい貸してやっても……。
『いけません! 甘やかすとこれは調子に乗ります。駄目なものは駄目と毅然とした態度で示さなければなりません。って誰が母ですか!』
『勇者はうるさいのじゃ! こいつが良いっていうなら良いではないか』
『なりません! 良いですか? あなたはいつもいつも――――――――』
また喧嘩が始まった。人の頭の中で騒ぐのはやめてくださーい。
『あ……その申し訳ありません』
『やーい、怒られてやんのー』
『魔王!』
もうなんでもいいからさっさと移動しません?
変身って制限時間とかあったりするよね。
『そうでした。今の君の力ですと、戦闘無しで三時間、全力戦闘でしたら持って三分といったところでしょうか』
オレってば光の巨人でしたか。まあ普通にして三時間持つならお釣りがくる。勝ったな、ガハハッ。
ということでどっか赤ん坊を引き取ってくれそうな施設まで連れてって。
『何を言っておる。行くならダンジョンに決まっておろう』
ほわい?
『ダンジョンを攻略してコアを手に入れるのじゃ』
いやいやいやなんでわざわざそんな危険な場所に行かなきゃならん。そのうちいくつもりではあるけど、まだ時期尚早だよね!? なんならオレ今日公園デビュー(保護者無し)したばっかよ?
勇者さんも全力戦闘は三分しか持たないって言ったじゃん。それに優先すべきは衣食住の確保からでしょ。
勇者さんも言ってやってよ。
『あまり魔王の言うことに従いたくありませんが、背に腹は代えられません』
勇者が不承不承ながら魔王の提案に賛成してしまった。ひどい信じてたのにッ! 裏切ったのね! 勇者は魔王のいうことには絶対反対するって思ってたのに。いやちょっと丸くなってくれる分には歓迎するんだけど。
『安心しろ。ダンジョン如きに全力を出すことはまずない』
そうだとしても普通に考えてそういうのって入るのにも、換金するにもいろいろ手続き要るじゃん。
無戸籍の君たちいけんの? ここ地球に似た世界よ? いや詳しい法律とか知らんけど。赤さんの戸籍は使えないってことだけはわかるよ。
『そうでした。ダンジョンというのは大抵は国で管理されるものでした。コアにしても場合によっては違法ということも……』
『緊急事態だぞ? 多少のことは目を瞑らんか。それに安心しろ。発生したばかりのまだ見つかっていないダンジョンならどうとでもなる』
『むむむっ』
そもそもなんでそこまでしてコアが欲しいわけ?
確かゲームだとコアはDデバイスという機械に使われている。そのため売れば金になるモノではあるが、さっき言ったようにすぐ換金できるという保証はないのだ。
『余は魔王! そんじょそこらのスキルとは格が違う、なのじゃ』
ふんすっ! と自信満々に言ってくる魔王に『わからせ』たい欲が沸々と湧いてくる。
『これの≪魔王≫には≪迷宮創造≫というスキルがあります。簡単に言うとコアを使ってリソースの許す限り好きにダンジョンを弄れる、というものです』
『余! 余が言おうと思ったの! なのに、なのに、のじゃーーーーーーッッッッッッ!!!!』
しかし魔王が意気揚々と自分のスキルを披露しようとした直前、勇者が一番良い所を奪った。魔王の意気はみるみる萎み、スーパーハイテンション系魔王からダウナー系魔王にクラスチェンジした。
『まさか……ダンジョンを家に、いえ隠れ家にする気でしたか?』
『むう……のじゃ』
おおおおおおッッッッッ!!!!
浪漫じゃん! 自分で好きに作ったダンジョンに住むなんて浪漫じゃん! ぼくの考えたさいきょうの秘密基地じゃん!
魔王先輩すげええ!
『のじゃ? のじゃ……のじゃ!?』
『何です、この著しく知能指数が死んでる会話』
ただの我儘なガキんちょじゃなかったんすね。
『のじゃ……? っておいッ! 誰はガキんちょだ!』
『あ、戻った』
まあ勇者が反対しないってことはそこまで危険じゃないってことか。
『お任せください』
『《《余の》》体を失うわけにはいかんからな。協力してやるのじゃ。感謝せい』
ありがたや、ありがたや。あと魔王は勝手にオレの体を自分の物にしないでね?
んでどうやってダンジョンを見つけんの。
『勇者のスキルでは広域に渡っての感知は苦手じゃろう。余に体を寄越すのじゃ♪』
『仕方ありませんね……ですが、余計なことはしない。良いですね――――ッ!?』
いきなり身構えてどしたん?
勇者が突然、あらぬ方向に視線を送る。
そこには“次元の穴”とでも称すべき穴が空いていた
『なぜじゃあああああああ』
あー、これがダンジョンなのね。
ちょうど目の前にダンジョンが現れたことで探す手間が省けた=出番を失った魔王の悲鳴がオレの頭の中で木霊した。