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第1話

 オレはよくいるオタクだ。


 大学生として就活しつつもオタ活に勤しむ、そんな日本ではよくいるオタク男子学生だった……たぶん、おそらく、maybe。


 なぜ曖昧なのか言うと、それを証明する術がない上に記憶もはっきり残ってるわけでもないからだ。


 そうオレはいつの間にか転生していた。前世の地球によく似たダンジョンのある平行世界――赤ん坊(さん)の行動範囲でできる情報収集ではそんな感じだった――に。


 これがラノベやらアニメやら漫画やらなら赤さんの頃から鍛えてチート成長したり、生まれつきのチートスキルでひゃっはーするのだろうが、残念ながらそんなご都合主義は無かった。


 あるのは二匹の居候(脳内)と家無し子の実績解除のみである。居候が居るのに家無し子とはこれ如何に。はい、チートどころか家族も家もありませんでしたとさ。


 お昼寝してる間に公園のベンチに置き去りです。鍛えるどうこう以前の話だ。明日のまんまも怪しまれる。


『子供を捨てるなんてひどい親も居たものです』

『ふん、世の中所詮己と他者のどちらかなのじゃ』


 おそらく捨てられた原因のひとつであろう自称勇者と魔王の居候二人が脳内で話しかけてくる。この二人、異世界で戦っていたことは憶えているらしく、自分たちは異世界の勇者(魔王)であると主張している。


 いや、こんななんかよくわからん連中が憑いてるせいでおかしな言動してる上、こちらで使われる言語も日本語で明らかに『わかってる』赤さんだったろうし。こんな前世持ちの不気味な赤ん坊、捨てられても文句言えんよ? 


 これでもう少し赤さんらしく泣いたり笑ったり、演技すれば良かったんだろうが、人生二周目の身で赤ちゃんプレイはいやーきついっす。


『そんなことよりこれからどうしますか?』

『都合よく誰かに拾われるか、凍え死ぬか。まあまず後者じゃろうな』


 知ってる。だって周囲は人が住んでるか怪しい廃墟ばっかだったし。こちらハイハイもままならない赤さんよ。いやそろそろ頑張ればできるのか? 気合と前世ボーナスでハイハイを今から習得……うん、できたところでだ。


 とはいえこのまま何もしなければ「もう疲れたよふふラッシュ」エンドで天国直行は確定である。ここは恥を忍んでプレイに興じるしかない。


 奇跡的に近くに人がいて気付いてもらえる可能性に掛ける。この先生きのこるにはこれしかない。


『それならまずはスキルを使ってみては?』


 生き恥をさらす覚悟を決めたオレに勇者がおかしな提案をする。


 この世界にはダンジョンなんて不可思議な物があるのだから、魔法や超能力みたいな力があってもおかしくはない。

 

 だからといって使ってみろといきなり言われて使えるものじゃないと思うんですよ。そもそもスキルってなに? この世界の人間はスマホみたいに一人一個は持ってます系なの? 


 ――――てか、こいつらがそのスキルじゃね!?


 そんなことを考えていたら勇者からスキルについて説明があった。


『わたしには≪勇者≫というスキルがあります』


 正確には≪鑑定≫≪光魔法≫≪聖剣技≫など複数のスキルを内包したスキルが≪勇者≫というスキルらしい。


 この中の『鑑定』を使って私のスキルを調べたようだ。


「魔王にもあるのか?」

『余の≪魔王≫も似たような物じゃ』


 なるほど。で、オレのスキルって?


三位一体ザ・トリニティ


「それが君の持つスキルの名のようですね」


 勇者と魔王、そして一般人オレで三位一体? このトリニティ大丈夫? 一人あきらかに足引っ張てますけど。この中に一般人混ぜるってある種のいじめやん。


 諸葛亮さんもこれで天下三分の計だ、とか言い出したら三顧の礼までした劉備さんが助走つけて殴りかかってきますよ。


 まあバランスの悪さは今は置いておくとして、そうなるとやっぱりこの状況は一般人なオレのスキルが引き起こしたものだったりする?


『赤子がこの超絶スーパー強い魔王であるこの余と一応対になる勇者とを同時に身に宿して平然としてられる時点で一般人は無理がある気がするが……ちなみにどういうスキルじゃ?』


 はいはい、メスガキは黙ってようね。


『それではわたし(勇者)に身を委ねてください』


 へ? 勇者とおぎゃりの自産自消ですか? 自分、美女(声だけ)のASMR聴きながらなら、おぎゃるのも吝かではないですよ?


『何を言ってるのか理解不能ですが、体の操作権をわたしに預ける、と意識しながら体の力を抜いてください。あとはこっちで処理するので』


 勇者に言われるがまま、体の自由を勇者に預けるイメージで脱力する。こちとら二度目の赤さんなんでな。こういうのには慣れてんだ。


 へい、勇者。スキルの使い方教えて(某音声認識サービス風)。


『……主人格より了承が得られたので、トリニティ・モードブレイバー』


 一瞬の暗転ののち、体に違和感が――というか体の感覚が消失した。視線の高さも前世に近づいている。


 勇者が光魔法の応用して鏡のような物を作り出す。

 

 すると、なんということでしょう。そこに居たのはくっころ女騎士そのものな金髪碧眼のどえろー美女だった。


 私、TSしてしまいました。

 なあにこれえ?


『召喚系スキルの亜種――いえ降霊術のほうが近いでしょうか。これがわたし、勇者のアバターのようですね』


 勇者が何か言ってるが、オレはそれどころではなかった。


 オレはこの世界の正体に気付いてしまったのだ。


『なん……じゃと……』

 原作有り……だと……。


 勇者が体を得たことに驚愕する魔王の声とオレの心の声が同時に漏れる。


 オレには彼女の姿に見覚えがあった。


 【蒼き勇者フレイア】、とあるゲームに登場する《《最強候補》》のキャラクターだ。その彼女と瓜二つの姿。


 なんとオレが転生したのは地球によく似た『ダンジョンのある平行世界』――――ではなく原作が有る、『ゲームの舞台となる平行世界』だったのである。


 ごめん。生まれつきチートスキルあったわ。

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