八話 異世界でも腹は減る
『……』
俺の隣にふわふわと浮いて、ズーンと肩を落としたように落ち込むセロー。
イタチ姿だからそれすらもかわいく見える。
ひとまず、気まずいながらもセローの力を借りられることとなった俺たちは、一旦村へ戻りエルフの長老らへ報告することに。
どうやらセローのように精霊としての名前を持つ者は上位の存在らしい。
ミラウッドさんをはじめ、俺以外の者はみんな萎縮して言葉を発さない。
ずいぶんと静かな帰路はあっという間に時が過ぎ、エルフの村へと戻ってきた。
「注目されてるな……」
ただでさえ謎の人物扱いの俺。
帰ってきたと思ったら、さらに謎の可愛らしい生物を伴っている。
そりゃ目立つだろう。
ミラウッドさんに指示を受けた警備の一人が、再び長老たちの元へ走って行く。
「コーヤ」
「あ、はい」
ミラウッドさんがなんだか申し訳なさそうに言う。
「精霊様にお寛ぎいただける場所を用意するには、少し時間がかかる。私で良ければ、村を案内したいのだが……」
未だズーンと肩を落とすセローの様子をうかがいながら、言葉を選びつつ提案してくれるミラウッドさん。
『コーヤの好きにしてくれ……』
「だそうです」
「そ、そうか」
半ば投げやりになっているセロー。
飛ぶ気力すらも尽きたのか、俺の肩に細長い体を引っ掛けるようにぐでんと乗ってきた。
霊体と実体を自在に使い分けることができるのか、意外と彼の身体は温かい。
『……ん?』
セローのだらんと伸ばした尻尾が、ピクッと反応する。
「どうした……んですか?」
『あーオマエ主なんだから好きに話せ。それより、コレ』
セローの長い尻尾が掴んだのは、俺が腰のベルトに刺していた聖樹の枝だ。
「あ、それは」
俺はミラウッドさんが把握している程度の自分の身の上話を、セローにも話した。
『ふーん? なんか似てるな』
「似てる?」
『ああ。オマエの魔力に』
「そ、そうなのか」
やっぱり俺は聖樹に召喚されたのか?
「似ている……」
「ミラウッドさん?」
「いや」
セローの言葉に反応を示したミラウッドさん。
一瞬だけ考え込むと、すぐに話を戻した。
「では、村を案内しよう」
「ありがとうございます」
精霊であるセローを伴っているため、謎の人物ながらもすっかりエルフに受け入れられた俺。
村を案内してもらえるということは、当初の俺の望みどおり敵意がないことは伝わっただろう。
そこはひとまず安心した。
「──あっ」
「……」
『人間はメンドーだよなぁ』
ミラウッドさんの後ろに続こうと一歩踏み出すと、お腹がぐぅっと鳴った。
恥ずかしくなり顔に熱が集まる。
だが、お腹が鳴るのも仕方ない。
俺は日本で午前に山へ入って、そのまま異世界に来て、そしてエルフたちとあーだこーだやって今に至る。太陽はちょうど上にあって、お昼ごろだ。
朝、家を出る前にインスタント味噌汁と納豆ご飯を食べて以来なにも口にしていない。
お腹が減るにはちょうどいい頃合い。
それも、異世界でずっと気を張っていたならなおさらエネルギーを消耗しているだろう。
というか異世界でも太陽とかは同じなんだな。
「……まずは、食事にしよう」
「すみません……助かります」
『オレもたまには食べるか~』
「セローは食べなくてもいいんだ?」
『そりゃ精霊だしな』
人の食事というものに興味があるんだろう。
幾分か元気を取り戻したセローは、再び俺の隣でふよふよと浮いた。