四十六話 ナガテ弦、完成!(仮)
「はぁ……っ、はぁ……。やった、ぞ……」
「で、できました……わ……」
「そんなに息を止めてやらなくても」
一巻き一巻きを針に糸を通すが如く集中し、なんとかウィンハックにOKをもらえる長さにまで達した。
疲労感が半端ない。
体は大きく動かしたわけではないが、集中による脳の疲れと手元以外を動かさないようにするための緊張感からくる疲れだろう。
しかし同時に達成感も大きい。
風の矢を放った時は苦手なものを克服した時のそれに近かったが、今回は大きな目標を成し遂げた喜びだ。
「よーし、お疲れさん。ルナリア様もありがとうございます」
「いえ……」
「じゃあ後は僕に任せてくれ」
「おお……」
なんでも、ここで完成! でももちろんいいのだが、より強度を増すためにさらに一手間掛けるらしい。
お湯で煮て、この状態でさらに撚りをかけて弓に張って、一度乾燥。
もう一度同じ工程を繰り返して、最後に表面に樹脂を塗って補強と繊維の毛羽立ちを防ぐらしい。
元の世界の麻弦でも、『手ぐすねを引く』の語源である薬練を最後の仕上げに塗る。こちらと原料は違うだろうが、同様の意味があるのだろう。
「できましたらぜひ、ルナリア様の力をお貸しいただけるとありがたいのですが」
「? わたくしの?」
「はい」
「よく分かりませんが、もちろんですわ!」
「ありがとうございます」
ひとまず俺たちが関われるところまでは何とか出来た。
改めてその大変さと繊細さに弦職人への敬意を感じた。
作り手が弓を引くことで感じることがあるように、引き手にも道具に想いを馳せてもらえたら嬉しい。この世界では、それが日常だと改めて実感した。
「今日はこの辺にしておくか」
「いろいろありがとう、ウィンハック」
気付けばすっかりお昼も過ぎた頃だった。
「人間は昼食も食べるのをすっかり忘れてたよ」
「いやいや! 俺も集中し過ぎてお腹が減ったのも気付かなかったから……」
「お詫びと言ってはなんだが、果物でよければたくさんあるぞ」
「いいのか?」
「ミラウッドに頼まれてるからな」
今日のところは作業も一段落。
午後はウィンハックが作業する様子を見学させてもらって、明日は弓作りについて改めて教えてもらえるみたいだ。
あれだけ自分に異世界の弓作りは出来ないと思っていたが……一緒に生活して価値観を共有していく中で、徐々にその心は『彼らの役に立ちたい』という思いにより薄れていった。




