三十一話 迷いながらもできること
ご機嫌な様子だった泉と花の精霊は、セローとケンカしつつもルナリアの仲介により引き続き泉の保全に努めてくれるそうだ。
ただ、ルナリアのように俺と契約しているわけではないので、力が弱まってきたと感じたらすぐに休むよう頼んだ。
俺が村に居る間ならエルフに頼んでまた聖樹の枝から力を分け与えていいとも伝えた。
「……」
「どうした? コーヤ」
泉からの帰り道。
いろいろなことをぼんやり考えながら歩いていると、次第に歩くスピードが緩やかになった。
精霊二人は相変わらずケンカしながら先を進んでいるものの、心配したミラウッドが振り返ってたずねてくる。
「いや……。俺が村に居る間なら、って」
「……ああ。そのことか」
以前にもミラウッドに打ち明けたが、俺は自分が元いた場所に戻りたいのか。
はたまたこのまま村に残りたいのか。まったく分からない。
それは恐らくどちらの世界の良さも分かっているからこそで、『弓師』としての自分というよりは一人の人間として判断ができない。
加えてエルフの者たちも精霊たちも、俺によくしてくれて村の住み心地が抜群にイイ。
元の世界に戻ったところで、この温かさを手にできるだろうか?
しかし、弓師として祖父から学んだことを継いでいきたい気持ちだって大きい。
選べない。
俺の脳内には同じ問題がずっと居座っている。
エルフたちには時間があるかもしれないが……人間の俺には、言うほど時間は無いはずなのに。
「……」
「私は──」
次の言葉が思い当たらずに目線を下げていると、ミラウッドは優しい声色で言ってくれた。
「長い時の中に生きる種族。コーヤの心を本当に理解することは、恐らくできない。……ただ、分かることもある。コーヤが弓に興味を示したり、セロー様やルナリア様と交流する姿は、人間だからというわけではない。……コーヤだからこそだ。だから、その……上手く言えないが……ここはもうコーヤにとって見知らぬ土地でも、見知らぬ人々との生活でもない。ここがもう一つの帰る場所だと、思ってもらえたら嬉しい」
「ミラウッド……」
口数もそんなに多い方ではないのに、ミラウッドは迷いなく言ってくれた。
それが間違いなく彼の思いからくる言葉だからだろう。
真面目なミラウッドらしい。
もう一つの故郷……か。
「うん。ありがとう。ちょっと、気が楽になった」
「ああ」
村の住人であるミラウッドにそう言われると、なんだか本当に自分がこの村の一員になったような気がする。
ここがもう一つの故郷だというなら……。
俺は、元の世界と同じように自分の心に従って生きてみたいと思う。
仮に元の世界に戻るとして、エルフ達と今しかできないことをやってみるのもいいと思う。
彼らの望む弓は作れない。
その心に偽りはないが、技術としてエルフの弓師にいろいろ教えてもらいたいな。




