二十五話 着替えの服と、ハーブティー
「────。……? コーヤ?」
「……えっ!? ご、ごめん。なんだっけ」
ミラウッドが戻ってきて、最初の一言を聞き逃す。
先ほど村のエルフが言っていたことを考えていたからだ。
「どうかしたか?」
「ちょっとボーっとしてて……悪いがもう一度いいか?」
「ああ、もちろんだ。村の者にいくつかコーヤの服を見繕ってもらった」
そう言うとミラウッドは干場の紐にいくつか服を引っ掛けて、一枚一枚広げて見せてくれる。
「おお……! ミラウッドたちとお揃い風のもあるんだな」
「万が一森で魔物と遭遇した時のことを考え、なるべく緑色を取り入れている。村にいる時や、外で過ごす場合は色使いも多種多様だが」
「保護色ってやつか。なるほどなぁ」
『オレがいるからムリに合わせなくてもいいんじゃねぇか?』
『わたくしもおりますわー!』
「たしかにそうですね、セロー様、ルナリア様。精霊のお二方が付いているコーヤなら、私たちに合わせる必要はないだろう」
「精霊ってやっぱすごいな……」
腰元まで覆う緑の上着に、長いズボン。
その上から羽織る用の外套。
はたまた動きやすさ重視のノースリーブに、腰全体を覆う巻くスカートのようなものまで。
いろいろあるな。
「一通り持っておくといい。また自分好みのものが欲しい時には言ってくれ」
「え? 全部いいのか? ……ありがとう!」
てっきりどれか一つ選ぶのかと思ったが、全部使っていいようだ。
ここで遠慮してもどうせ後で用意してもらうことになる未来が見える。
俺はありがたくミラウッドの持ってきた衣類を一通り使わせてもらうことに。
「さて。セロー様のおかげで洗濯物はほとんど乾いている。あとは陽の光にしばらく当てておけば、取り込むだけだ」
「エルフ流の洗濯、興味深かったよ。あとでコレも自分で洗っておく」
「ああ。桶の水は好きに使ってくれ」
元の世界で山に入った時に着ていた服は、汗やら汚れやらで満身創痍だ。
あとで洗ってセローに乾かしてもらおう。
◇◆◇
「ふぅ」
異世界に来てからというもの、どちらかといえば気疲れの方が多かった。
緊張疲れというか、不安と好奇心とが混ざった不思議な感覚が常にあった。
力仕事で体が疲れていると、しばし思考も停止する。
それがなんだか心地よく、俺は干場近くにあったベンチで一休みしている。
セローがエルフの村をあちこち見ている間、そよ風が村を駆け巡る。
扇風機の一番弱い風がずっと吹いているようで、それも気持ちがいい。
このまま寝てしまいそうだ。
『コーヤさま、コーヤさま!』
「ん? どうしたルナリア?」
『エルフのお方、ミラウッドさんにいただきましたの!』
どうやら今日の目的は達したらしく、ミラウッドは一旦他のエルフや長老たちと情報共有をしに席を外していた。
「ミラウッドが?」
『ええ! こちら、おいしいんですのよ! ええ、とっても!』
そう言いながらベンチに降り立ち、何かを俺に渡してくれるルナリア。
「飲み物か?」
陶器のコップに注がれた液体は、なんだか甘い香りがした。
魔術で作ったのか氷も入っていて、冷たい飲み物のようだ。
『あまーい木の蜜に、おいしいハーブティーのこらぼれーしょん? ですのー! コーヤさまもぜひ!』
「へぇ! どうりでいい香りだ」
ルナリアからコップを受け取る。
カラン、と涼しい音がした。
あまーい木の蜜というのは、メープルシロップのようなものだろうか?
ハーブティーに甘さを足した飲み物……そりゃぁ美味しいに違いない。
「じゃあ、いただくよ」
『ええ、ええ。どうぞ!』
口元に近付けると、たしかにハーブのような植物由来のスッキリとした香りと、甘いシロップのような香りが同時に漂った。
まずは一口、ゆっくり飲む。
冷たさが一気に口の中に広がり、動いて火照った体を冷やす。
「──ん!」
『どうでしょう、どうでしょう?』
「甘くてさっぱり、美味しいな!」
『ですのー!』
ハーブとシロップのバランスがちょうどいい。
あまーいらしいシロップが、ハーブの清涼感により甘ったるさを緩和。
おまけに汗をかいた後の冷たいドリンク。
それだけでゴクゴクと喉を潤したくなる。
「ありがとな」
『どういたしまして、ですの! エルフのお方、ミラウッドさんにもお伝えしましょう! ええ、そうしましょう』
本当にミラウッドは周りをよく見ているというか、気が利くな。




