二十話 ワイルドボアのステーキ~果実ソース添え~①
『どぉーだ』
「おお。豪快だなぁ」
ドヤ顔でセローが披露してくれたのは、肉に添える野菜のカットシーン。
まな板の上に横たわる葉物野菜を、風の刃でザクザクと切っていった。
『まぁ~~荒っぽいですこと! ええ、荒っぽいですわ』
『うるせーな。手伝う気がねぇならどっか行け』
『わたくしの方が芸術的なお手伝いができますわよ! ええ、できますとも』
『芸術的~? 意味わかんねぇー』
『きぃーー!!』
「なっ、なんだかんだ、ケンカするほど仲がいいってやつなのかな?」
「私にも分からない……」
二人揃えば口論が絶えない二人。
エルフのミラウッドすら物珍しさを感じているんだから、きっと良くあることではないんだろう。
まぁ、元気が無いとか、険悪すぎて無言とか……それよりはマシか?
「ところで、この肉って?」
「魔物肉だな」
「……デスヨネー」
うん。なんとなーく、そんな気はしていた。
先日の鶏肉のステーキと思っていたアレも、実は魔物だったかもな。
弓の材料じゃないからか、鑑定をするって意識がどっかにいっていた。
次は自分でも気を付けて視てみよう。
「なんていう魔物なんだ?」
「ワイルドボア。荒々しい気性の持ち主で、エルフの戦士たちが遭遇する魔物の代表格だな」
「おお」
名前から想像するにイノシシっぽい魔物……?
「エルフはどんな風に食べるんだ?」
「以前は森に自生する香草や、果物をソースにして食べていたな。今では塩や砂糖といった、外の調味料もある。人気なのは塩をよく振って焼き、肉汁に果物と酒類を混ぜて煮立たせたソースをかける食べ方だな」
「うわ……聞いてるだけで美味しそうだ……」
「では、それにしよう」
ミラウッドはメニューが決まるや否や、テキパキと行動開始。
俺はばあさんが旅立つまで、ずっと料理はしてこなかった。
まだ最低限の自炊しかできないから、自炊男子ってのに憧れがある。
その点、エルフのミラウッドの一人暮らし歴は相当長そうだ。
一日一食とはいえ、俺よりもはるかに料理を作ってきただろう。
もちろん元の世界ほど手の込んだものを毎回作るわけではないだろうが……それにしても、手際がいい。
「えーっと……」
「?」
脂身の多い赤い肉の塊を、人数分に綺麗に切り分けるミラウッド。
「その、俺も手伝いたいんだが……」
「コーヤは客人なのだ。ゆっくりしていてくれ」
「セローたちも一応手伝ってくれてるし、俺だけなにもしないってのは……」
自分で言って、ハッとした。
これじゃあ善意の押し売りだ。
まるで俺が自分のためにエルフたちの役に立ちたいと思うのと同じ。
エルフたちにとって俺は精霊と契約した稀有な存在で、もてなしたいというのは本心だろう。
「……あ~~、むずかしいな……」
「?」
こう、落としどころを見つけるっていうのが得意ではない。
もっと思うままというか、素直に「じゃあ頼んだ!」と言える人で在りたかった。
余計なことをグルグルと考えてしまって、結局何もできないということが多い。
早気だってそうだ。
いろいろ考えて、試して。でも結局治らない。
そしてまたドツボにはまる。
自分を責めることを止めない。
他の人にとって恐らく簡単に答えが出るようなことを、ずっと考えてしまう。
難しくとらえすぎてしまう。
それが人生、人間らしい。……といえば聞こえがいいけど。
こんな心の調和を取れない俺が、聖樹の枝で弓を作るなんて……やっぱり無理だよなぁ。
「えっと、じゃあ。見学しといても?」
「もちろんだ」
間をとって、こう言う他ない。
最初からアレコレ考えずこう言える人間で在りたかった。




