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二話 聖樹の枝を折った弓師と、エルフの邂逅

 恐ろしいほど美しいとはこのことか。

 と、そんな場合でもないのに考えてしまった。


 金の糸のような長い髪を一つに結った男。

 ……男、だよな?

 そんな彼は俺を軽々持ち上げている。


 ずっと見ていたくなるような緑の瞳は、さきほど触れた枝葉のように澄んだ色。

 不機嫌そうに寄せられた眉間のシワさえも価値があるのではないかと思うほどに整った顔立ちだ。

 というか、肌キレイだな……。

 黒髪黒目のごく一般的な日本人男性の俺とは、ずいぶん特徴がちが…………ん?


 なんか……耳の先、(とが)ってません?


「──!!」

「──!?」


 ふと周りを横目で確認すれば、意外と多くの者に囲まれていることに気付く。

 俺は慌ててイケメンお兄さんに、目で降ろしてと訴えかけた。

 同時に、聞き慣れない言葉が耳に届く。


「──人間! なにが目的だ!!」

「!?」


 に、人間……?

 人間に『人間』って、わざわざ言うか……?


 ふとお兄さんの耳の形状を思い出す。


 そうだよ、突然過ぎて反応が間に合っていないが、色々おかしいだろ……!

 というかここ、どこだ!?

 海外だとしたら言葉が通じるのはおかしい!


 何で? どうして?

 そんな言葉ばかりが駆け巡る。

 まるで、早気(はやけ)の治らない日々を過ごす俺の胸中と同じだった。

 焦燥感が募る。


「逃げようとは思うなよ」


 イケメンは声まで美しい。

 しかしこの時ばかりはその美しさが恐怖となる。

 美しくも冷たい声の持ち主は、俺をその場に降ろすと逃げないようにと釘を刺した。


「あ……」


 一応、誰かは分からないが自分の体勢的に助けてもらったのは事実。

 混乱している頭で礼を言うために気を持ち直すと、右手に違和感を覚えた。


「……ん?」


 そこには、枝が一本。


 なんだかうっすらと発光しているようにも思える。

 俺がそれに気付くと、周りもつられてガヤガヤと騒ぎだした。


「まさか、人間が聖樹の枝を折るとは……」

「そもそも彼はいったい……」



 せ、聖樹──!?



 慌ててイケメンの背後にある、大きな存在を見上げた。


 木だ。


 それも、バカでかい木。

 もし日本にあれば、世界でも有数の観光名所となっていたかもしれないほどの。


「聖樹……」

「そうだ。そこから落ちてきた貴様は──いったい何者だ?」

「え!? 俺が!?」


 木から、落ちてきただって!?


「? 覚えていないのか?」


 何度か先の見えない木の上方と地面を見比べて、その高さを目測する。


 改めて怪我をしなかったのはイケメンお兄さんのおかげだなと感謝しつつ、こんな見たこともない木から落下するような覚えはもちろんない。


「お、覚えていないというか……」


 俺は直前の、不思議な木に触れたら光に包まれた状況を必死に話した。


「……」


 再び眉間にシワを寄せたイケメン兄さん。

 不機嫌、というよりは考え込んでいるのだろうか。


「にわかには信じられん」

「しかし、儀式を中断したのは事実……」

「それも人間が」


「え、えっと……」


 俺は方々から聞こえる声の中から、わずかな情報を得るしかない。

 どうやら俺は木から落っこちてきて、イケメン兄さんにお姫様抱っこされ、儀式を邪魔したようだ。


 どんな状況だそれは。


「ともかく」

「っ!」


 先ほどと同じ冷たい声が場を制する。


()()()の神聖なる儀式を邪魔したんだ。相応の処遇は覚悟しておけ」

「えっ、エルフ──!?」


 エルフったらそんな。


 そんなのもう、異世界転移ってやつなのでは?



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