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十七話 異世界の射術事情

「【ミライ草】、か」


 ミラウッドが手配してくれた昼食を食べ、俺たちはさっそく彼の手伝いをしている。


 なんでも、ミラウッドはエルフの村でも数少ない冒険者ギルドに登録している『冒険者』らしい。

 普段は村にて薬草採取や魔物討伐を行い、定期的にギルドへ売りに行っているようだ。

 村の守衛を兼ねることができ、外部でお金も稼げる。一石二鳥。

 そのお金で装備や道具なんかを買って村に持ち帰るんだろう。


 ミラウッドがエルフというこの世界でも珍しい種族ながら、比較的面倒見がいいのはそういう事情があるようだ。


 現在俺は、ミラウッドの備蓄用薬草採取の手伝いをしている。


「その草が元気に上に伸びていると晴れ、しな垂れていると雨を察知している証拠だ」

「へぇ~! 天気予報か」


 ノビーっと空に向かって伸びる薬草。

 今日は雨の心配はなさそうだ。


「魔力伝導効率がいいだろう? 繊維(せんい)を糸のようにして、弓を握る部分に巻き付けることもある。薬の材料にもいい」

「! ほんとだ」


 ミライ草と教えてもらった草を鑑定してみると、


 【魔力伝導効率B】


 とあった。


 仮にAが一番良い値なら、今までで一番高い。


「……そうだ。魔力伝導効率って……結局なんだ?」


 なんとなく字面から意味は予想できるが、そもそも魔法が一般的でない俺に理解は及ばない。


「魔力伝導というのは、……そうだな。簡単に言うと、自分の思うままに魔力を出力できるかどうか。人にも物にも、少なからず魔力に抵抗する力があるからな」

「ふむふむ」

「魔法を扱う上で、自分の持つイメージの力が最も大切だ。だが、もちろんその他の要因で上手くいかないこともある。精霊魔法でいえば、精霊様にお借りした魔法を自分が扱うというのは、それだけで大変なことだ」

「たしかに……」

「エルフがそれを得意とするのは、生活の中に精霊様への祈りの場を多く設け、自身を自然と一体化する習慣があるからだ。……それでもなお、彼の方々の力を借りて制御するのは難しい。こういった魔力伝導の性質を持つ物の力を借りて、より制御しやすくする。……というのが目的かな」

「なるほどなぁ。精霊魔法でいえば、精霊が好むような材料、かつ魔力伝導効率がいいもの……っていうのが理想なのか」

「そういうことだな」


 つまり、魔法を扱う際の補助的な役割。

 弓道で言うところの、右手に付けるグローブのような『(カケ)』にあたるだろうか?


 弓を引く時に右手指を保護しながら矢を固定しつつ、弦を引っ掛け引く力をコントロールしやすくする。

 (カケ)無しで(つる)を引っ張るのは、それだけで手が痛くなるからな。


 射術に与える影響も大きい。


「こっちは【アカリダケ】、周囲の明るさに応じて自身を発光させるキノコだ。精霊様にお力添えいただければ、明るさの調整もできる」


 ミラウッドがとある木の根元を指差す。

 俺も近づいて見てみると、ランプシェードのような傘を持ったキノコだった。

 しかも──バカでかい!


 光るキノコ、あるいは魚やサンゴなど、元の世界にも似たような性質を持つものはいた。

 だが、このアカリダケに関してはその大きさからしておかしい。

 文字通りランプのようなキノコだ。


「これって、食べる……のか?」

「いや。食べてもいいが、村では灯りとして利用する。不思議なことに、場所を変えても問題ないキノコなんだ」

「へえええぇ……」


 なんかもう、いろいろとすごい。

 そういえば夜、エルフの家の玄関先が淡く光っているのを窓から見た。

 このキノコ以外にも、光る植物があるのかもしれないな。


「面白いな」

「コーヤも、タケ? のような、私たちも知らない植物を多く知っていただろうな。早く記憶が戻るといいが」

「あ、ああ。そうだな」


 記憶があいまいという設定で居続けるのがどうにも心苦しい。


「……ん?」

「?」


 そういえば。俺が転移した元凶ともいえる、謎の木。

 山で初めて見たあの木は……どこか聖樹の枝に似ていると思った。


 そしてルナリアの言葉からして、聖樹は大地の神とやらが創り出し、さまざまな場所に根を張るという。


 さすがに木の根が世界を跨ぐとは思わないが、……可能性はゼロではないか?


「どうかしたか?」

「いやっ、なんか、思い出しそうな気がしたけど……気のせいだ」

「そうか」


 もしうちの山に生えていたのが聖樹の一部だったとしたら……俺を転移させたあと、消失してしまったんだろうか?


 それはなんだか少し、寂しい気がした。









『あん? やんのか?』

『望むところですわ! ええ、望むところです』


 少し離れた場所では、相変わらずケンカしている精霊二人。


「セロー様、ルナリア様。ご協力ありがとうございます」

『! いえいえ。エルフのお方、ミラウッドさん。共に森に生きる仲間ですもの。当然ですわ。ええ、当然です』

『その仲間が眠りについてりゃ世話ねぇな』

『きぃーーーー!!』


 終わりが見えない戦いはそっとしておくことにした。


 あまり遅くなると森ではあっという間に暗闇が襲ってくる。

 俺たちは早めにエルフの村へと帰還した。



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