困った方々
善行を積んだとある女性が死んだ。
彼女は天国に行き神様に会うと神様は彼女へ言った。
「あなたはとても良い行いをしました。だからこそ、あなたに一つ褒美を授けましょう。望みをなんでも良いから言いなさい」
すると彼女は迷いもせずに言った。
「生まれ変わっても彼の役に立ちたいです」
それを聞いた神様はものすごく複雑な顔をして言った。
「あの男の下にですか?」
「はい!」
キラキラとした目で言う彼女に対して神様は腕を組んでうんうんと悩み続ける。
実に困ったことだ。
彼女は短い生の中で困っている人を助けることに人生を捧げた。
そんなにも素晴らしい魂に報いてやらなければならない。
しかし、かといってこの願いを叶えるのは出来れば避けたい。
「ダメなのですか? 神様」
そう言って目を潤ませる女性に神様は遂に折れた。
「分かりました。あなたの望みを叶えましょう」
下界。
とある男が飲み仲間に自慢していた。
「聞いてくれよ。こないだまで貢がせていた女がよ。死んだんだよ」
「お前、本当に鬼畜だな。もう何人目だよ」
「もう数えちゃいえねえよ。俺が覚えているのはその女がいくら俺に貢いでくれたかだけだ」
「で、その女はどんだけお前に貢いでくれたんだい」
男はニヤリと笑うとスマホを取り出して一枚の写真を見せる。
そこには銀行には預けておけない……つまり、大っぴらに出来ない札束が入ったアタッシュケースが幾つも置かれていた。
「数えきれねえよ。何せ、俺が『困っている』と伝えればアホほど持ってくるんだ。どっから持ってきているかなんて分かんねえし、聞くつもりもねえけどさ」
金がどこから確保されたかなんてどうでもいいのだ。
女がどんな末路を辿ろうとどうでもいいのだ。
自分に迷惑さえかけてくれなければ。
そう言って一人の女性の死を犠牲にして得た金で男は享楽に心身を委ねていた。
再び天国。
下品な男を見下ろしながら神様は呟く。
「全く持って度し難い」
その隣に居た天使がため息交じりに言った。
「さっき転生させた彼女はあんな男に貢いで死んだのですか?」
「その通りだ。その本質を見抜けぬまま最後まであの男に尽くして死んだ。利用されつくしてな」
「困った人ですね」
天使の言葉に神様は頷いた。
「全く持ってその通りだ。いっそ記憶を決して転生させるべきだったか」
頭を抱えてうんうんと唸る神様に天使は小声で呟いた。
「こんな事で悩んでいるなんて困った方ですね」
敬愛する神様の悩みをどうにか解消出来ないかと天使はため息をつく。
良い心を持つ者ほど困り果てる。
こんな現実に本当に困ったものだ、と。
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