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感染者(ゾンビ)と死者(ゾンビ)と追放された悪役令嬢とその他大勢 第7章

 天城は現実セカイでいうところの京都御所と同じ場所にあった。現実セカイで、修学旅行前に叩き込まれた京都知識(テスト付き)が思わぬところで役に立つ。

 おそらくこの街も、天城を中心に発展したのだろう。

 ただ、その規模は現実セカイより大きく、天城の中で多くの人間が生活しているようであった。


 今康大達の前にいる門番もその1人だろう。


 門番と呼ぶにはあまりに貴族チックで、良く言えば典雅、悪く言えば滑稽な格好をしているが、門の前に棒を持って立っているのだからそう呼ぶしかない。門も彫刻は精緻で流麗であるが火が出れば即燃え尽き、攻められることは絶対にないとタカをくくっているのか()()()()の防備である。


「これはエリザベス殿下からの書状です。フジノミヤ王の書状もあります。どうぞウエサマにお目通りを」

 康大は門番に両腕で抱えるほどの書状を見せながらそう言った。


 本来ならこういう役は見た目も重視してザルマがし、康大もそうするつもりだった。

 だが今回はこの後ウエサマに会わなければならない。

 詐術のような交渉をするのは問題があると、ザルマが事前に康大自身がするよう警告していた。

 そのため出発前に必要な礼儀作法を叩きこまれ、出発は翌日の朝になってしまった。


 そこまでした正式な面会だったのだが――。


「丁寧なあいさつ痛み入るでおじゃる。然れども、通すこともそれを受け取ることもまかりならぬ」


 にべもなく断られる。


 康大は頭の片隅で「おじゃるって話す人間と初めて会ったけど、どういう翻訳なんだろ」と考えながら、その理由を問いただす。


「今は非常に()()な時でおじゃる。聖主より許可がある者のみ書状を受け、通すよう言付かっているでおじゃる」

 話の流れから聖主というのはウエサマのことだろう。

 ここではそう呼ぶのがセオリーなら自分もそれに倣った方がいいのかなと思いながら、康大は話を続けた。


「ですがエリザベス殿下は実の娘では?」

「それは麿も分かっておる。しかし聖主が受け取ることを拒否しているのでおじゃる。麿にとってはそちらの事実の方が重要でおじゃる」

「・・・・・・」

 実の父親の取り付く島の無い態度に康大は絶句し、エリザベスに同情した。


 まさかここまでこじれた関係だったとは夢にも思っていなかった。

 康大も両親との関係が必ずしも良好というわけではないが、メールを送れば必ず返事はもらえる。


 パンデミックが始まってから完全に途絶してしまったが。 


(しかし今は同情している場合でもないんだよな……)

 康大は頭を切り替え、もしものためにとザルマに用意させられたもう一つの手を使う。


「ならばこれを……」

 そう言って、康大はアイチでもらったあの真珠を門番に渡そうとした。


 いわゆる袖の下だ。これはこのセカイでは不正というより慣例で、渡し方もザルマからレクチャーされていた。

 とはいえ、まさか自分がそういう事をする人間になるとは、現実セカイにいた頃は夢にも思わなかった。


 けれど、門番はそれが金品だと分かると、受け取るどころか居丈高に放り投げる。

 康大は慌ててそれを拾うだけであったが、ザルマは違った。


「門番風情が我が国の子爵を愚弄し、ただで済むと思ったか!!!」

 ザルマは門番を睨みつけ、剣に手をかける。


 ザルマの実力を知っている人間なら鼻で笑うところだが、頼りない門番にはその脅しは十分で顔を青くさせる。

 このままでは刃傷沙汰に発展すると思わったのか、もう1人の同じく貴族風の門番が康大の袖を引き、建物の脇に移動させ耳打ちした。


「(申し訳ないが、こういう事をされると本当に困るのでおじゃる)」

「(困る?)」

「(聖主にもし麿が買収されたと知られれば、首を斬られるのは必定。故にこうして誰の目にも分かるよう断る必要があるのでおじゃる。こちらもつらいのでおじゃる。どうかここは穏便に済ませてたもれ)」

「(そりゃまあ困るよな)」

 康大は今の話を慣れない殺気を放っているザルマに耳打ちし、構えを解かせる。


 その様子に喧嘩を売った門番も、明らかに安心したようであった。


 しかし、実際本当に怖かったのはザルマなどではなく圭阿だ。

 彼女は密かに爆裂苦無に火を点けていた。


 ザルマの様に単純に腹が立ったわけではないが、血生臭い戦いになることを予想し、先手を取っていたのだ。


 事が穏便に収まったと判断すると密かに火種を指でにじり消した。


「……まあそういうわけで、申し訳ないが今日は帰ってもおじゃれ」

「分かりました」

 これ以上はお互いの為にならないと判断し、康大は門番の提案を受け入れる。

 使命感が強いザルマは不服そうであったが、康大の意思を最優先させた圭阿に物理的に止められそうであったため、行動には移さなかった。


 康大が引いたことに門番はホッとする。

 居丈高な彼らもまた被害者のようなものであった。


「とりあえずいったん戻ろう」

 結局当たって砕けろと赴いた天城は文字通り当たって砕ける結果となった。

 他に手もない以上、またやり直しだ。


「戻ってどうするつもりだ?」

「うーん、実は歩きながらいろいろ考えてたんだけど、ちょっとソンチアーダに聞きたいことが浮かんでさ」

「ならば早めに戻った方がいいな。あいつがいつまでもあの場所にいるとも限らん」

 そう言いながらガルマは率先して先頭に立つ。

 帰り道が全く分からない康大と違い、ザルマはしっかり道順を覚えていた。

 遠目でもわかる天城までは誰でも行けるが、あの廃屋までの順路を覚えるのは大変だ。


 こういうまめな点は役に立つ。

 そう思いながら康大達はザルマの後について行った。

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