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感染者(ゾンビ)と死者(ゾンビ)と追放された悪役令嬢とその他大勢 第5章

 馬車は山道を進む。

 ボロネーゼが言った通り、この辺りは兵士どころか人間すらまばらで、遠まきに見えるモンスターや獣の方がはるかに数が多かった。


 そして何事もなく馬車は昼過ぎ頃に一般的な認識の都に到着した。


「ここがこのセカイの都かあ……」

 康大は現実セカイの京都を思い出しながらつぶやく。


 京都に言うまでもなく年季を感じさせる和風建築が立ち並ぶ純日本的な空間だ。ビルなど近代的な建築物を建てる際にも、条例で景観を損なわない外見にするよう厳しく規制されているほどである。

 康大も中学生のころ卒業旅行で一度だけ行ったことがあるが、さすがに小京都(かわごえ)とはレベルが違うなと、しみじみ思った。


 そんな京都が、ここでは完全に西洋の街と化していた。

 日本列島の気候の性質上家の材質は木が多いのだが、外見はヨーロッパのそれだ。


 とにかく、どの家も屋根に瓦がないのが大きい。

 板葺きで、入り口は引き戸ではなく開き戸、玄関が扉なのだから上がり(かまち)など存在しないのだろう。


 そもそも康太はこのセカイに来てから、滅多に靴を脱ぐ機会がなかった。

 そのため、隙を見つけては脱いでハイアサースあたりから奇異な目で見られている。


 そんなセカイだから、畳も障子も、とにかく日本を感じさせるものは何一つなかった。


「圭阿、お前の目から見てこの街はどんな感じだ?」

 同じような価値観を持つ()()の圭阿に、康大は尋ねずにはいられなかった。


「拙者が知っている都とはだいぶ違いますな。然れども、それはここに来てからずっと思っている事故、今更これといった感銘も受けないでござる」

「まあそれはそうだけど、さ……」

 どうやら康大ほど驚いてはいないらしい。

 康大の場合、川越と京都以外歴史を感じさせる街並みを知らないため、より感慨深かった。


 街は城壁で周囲を囲まれているものの、その高さは低く、また厚さも薄い。――いや、城壁と言うより塀と言った方が適切だろう。頑張れば康大でも乗り越えられる程度の防備だ。


 そして東西南北にそれぞれ入り口となる門があるが、どこも常に開かれており、警戒心はかなり薄い。

 街行く人々もどこか呑気なように康大には見えた。

 今まで長い間戦果にさらされたことがなかったのだろう。ドゥイエ村が目と鼻の先にあるとは到底思えない。


 到着と同時にボロネーゼ達とは別れる。

 彼らにもここでの商売があり、いつまでも康大に付き合っているわけにもいかなかった。


 ボロネーゼ商隊と別れた後、道の真ん中でさてどうしようかと康大は腕を組む。

 アムゼンの話では現地員から接触があるとの事だったが――。


「冷静に考えるとこんな広い場所で、どうやって見つけてもらうのかって話だよな……。迂回した上に一泊したし」

「うむ」

 康大のつぶやきにハイアサースが自信満々に頷く。

 当然特に意味はない。


 別れたのは街の南側の入り口付近で、とりあえずそこでしばらく突っ立っていたのだが、一向に話しかけられる気配はない。


 ザルマとハイアサースのおかげで目立つ一団ではあるのだが、あくまでそれだけだ。


「それじゃ適当に街を歩いてみない?」

「そうだな。ここにいても埒が開きそうにない」

「ならばあそこに行ってみるのはどうだ?」

 男性陣2人にハイアサースはある場所を勧める。


 そこは、例によって食べ物屋の屋台だった。

 肉を焼く良い匂いが、康大達のいる辺りまで伝わってくる。


 康大は苦笑しながらも、ハイアサースの言うとおりにした。

 別にこれといって行く場所も決まっていないのだから、どこへ行こうが断る理由もない。


「然らば拙者は偵察に――」

「いや、ここでは何が起こるか分からないから、しばらくは一緒にいてほしい」

 康大はいつものように偵察行動を開始しようとした圭阿を止める。


 見た限り街は平和そのものだが、外ではウエサマとアルバタールの小競り合いが起こり、不穏な空気が漂っている。またドゥイエ村のように狭くもなく案内人もいない。そしてこれは完全な勘だが、この街は何か嫌な予感がした。

 現在の戦力が圭阿しかいない以上、せめて現地員と接触が取れるまでは一緒にいてほしかった。


 圭阿は「畏まりました」と答え、康大達と並んで屋台の席に着いた。


 屋台には自分達以外にも何人か客がおり、やや遅い昼食をとっている。

 康大達は並んで座り、注文はハイアサースがとった。

 大量に注文を取った後、「コータ達は何を頼む?」と聞き、仲間と店主を唖然とさせたが、都における初めての食事はおおむね平和に進んで行く。



「あっ」

 ハイアサースが4本目の鳥の骨付き肉を食べようとしたとき、不意に隣に座っていた男と腕がぶつかった。


 その瞬間男はハイアサースの方を見てはっとなる。


 ――いや、ハイアサースを見たわけではない。


 確かにハイアサースは類まれな美女ではあるが、男の視線はその先のハンサムに向かっていた。


「……おい、君ザルマじゃないか!?」

「?」

 不意に名前を呼ばれ、ザルマは不思議そうな顔をする。

 しかし自分を呼んだ男の顔を見て、すぐに男同様はっとした表情をした。


「お前はソンチアーダ!?」

「久しぶりだな!」

 旧来の親友なのか、2人は固い握手を交わした。


 どこかで聞いたような名前の気もするが、康大のゾンビレベルの記憶力では全く思い出せない。

 とりあえずインテライト家関係の人間なのかと、圭阿に確認を取ってみる。


「知らんでござる」


 返事はそっけないものだった。


 けれども男――ソンチアーダは圭阿のことも知っていたようで、「ケイアちゃんもひさしぶりだね」と親し気に話しかけてきた。


「……誰でござるか?」

「え……誰ってソンチアーダだけど……。ほらよくザルマと一緒にいた……」

「基本この役立たずは無視しているので、そう言われても困るでござる」

「・・・・・・」

 ザルマが俯く。


 ただその顔は少し興奮しているようでもあったが。


「ザルマ、いい加減紹介してくれないか?」

「ん、ああ、そうだな」

 5本目に伸ばした手をいったん止めたハイアサースの言葉に、ザルマは頷く。


「こいつはソンチアーダといって、インテライト家に仕えているわけではないんだが、まあ腐れ縁の関係だ。元々関所の警備隊長をしていたが、何の因果かこんな所に居たとはな。こいつが職務を続けていたら、俺達はあんな苦労して山越えをすることもなかったわけだ」

「ああ、そういえば……」

 フジノミヤの王都に入る際、ザルマは知り合いがいるから関所は簡単に通れると言っていた。

 その知り合いの名前がソンチアーダだったことを康大はようやく思い出す。


 それと同時に、ジャンダルム山での理不尽ともいえる苦行も蘇ってきた。


「つまりこの人がいれば、俺もあんな死ぬような思いをしなかったと……」

「まあそうなるな」

「・・・・・・」

 康大は無言でソンチアーダを見る。


 その目には恐ろしいまでの非難があった。


「な、なんで初対面の人間に恨まれてるの俺!?」

「お前が役に頓着しなかったせいだ。それで、なんでこんなところに?」

「ああ、それなんだけど……」

 ソンチアーダはそう言うと、改めて康大達を見る。


「ここでは少し話しづらいかな。ちょっと移動しよう」

『・・・・・』

 康大達は黙って先を歩くソンチアーダの後へとついて行った……。

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