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感染者(ゾンビ)と死者(ゾンビ)と追放された悪役令嬢とその他大勢 第1章

 都は現実のセカイでは京都にあたり、その南側は当然奈良である。奈良はほとんどが山地で、それはこのセカイでも例外ではない。

 康大達が通っている道はそんな山の中に強引に作ったような山道で、とても快適な旅とは呼べなかった。


「――痛っ」

 この道を通ってから、もう何度も繰り返しているセリフを康大は言った。

 全く舗装されていない道を進む馬車が受ける衝撃は大きく、どんなに豪華な荷台でもコルセリアの様な魔法がなければ、その衝撃はダイレクトに乗客に来た。


「いい加減慣れることができないのか……」

 ザルマが呆れながら言う。

 受ける衝撃は仲間達も同じだが、痛い痛い言っているのは康大だけだ。

 リアンでさえ、文句も言わず酔いもせず集中して本を読んでいる。


 ……彼女の場合、本さえ読んでいればどんな場所にいても文句を言いそうにはなかったが。


「いやでもさ、この揺れホントもうちょっとどうにかできないか?」

「できん。コルセリアの魔法のようなものは期待するな」

 ザルマは断言する。

 コルセリアの魔法は特殊で、ザルマにしてもあんな魔法が使える人間はコルセリア以外知らない。


「お前が尻の皮を厚くして慣れるしかないな」

「そうだ、康大はまだまだ軟弱すぎる」

 ザルマだけでなくハイアサースも康大の態度をそしる。


 生まれも育ちも異セカイの住人にとって、康大の愚痴は軟弱すぎた。

 このセカイの常識で考えれば、こうして馬車に乗って移動できるだけでも厚遇なのだ。文句など言っていいものではない。


 康大の反応にいちいち恐縮しているのは、ボロネーゼぐらいである。


「そうは言ってもようやくここに来て1ヶ月経ったぐらいだし。そうそう慣れるもんじゃないぞ」

「じゃあもっと頑張って慣れるようにしろ」

「他人事だと思って……」

 康大は不貞腐れながらため息を吐く。

 この生真面目貴族は、日常生活における態度に関しては最近非常に口うるさい。

 それもこれも子爵に()()()()()せいだ。

 それにふさわしい振舞をしろと、言内にも言外にも言いまくっている。


 康大にしてみれば爵位は頼んで叙任してもらったのではなく、無理やり押し付けられたものだ。

 そんなものに見合った態度を取れなど、迷惑以外の何物でもない。


「あー、とにかくとっとと休みたい。ボロネーゼんさん、そろそろ休憩しません?」

「でしたら後少し行ったところに、村があるのでそこに行きましょう。時刻も時刻ですし、とりあえず今日はそこで一泊しますか」 

 ナゴヤを出発してからかなり時間が経ち、もう夕暮れ近くになっていた。

 迂回しなければとっくについてた頃だが、今の状況では一晩中走って夜明け前につくかどうかというボロネーゼの試算である。


 ザルマあたりはそれでも夜通しで都まで進むべきだと主張したが、康大はとにかく休みたい。


 そして基本方針の決定権は常に康大にある。


 康大にとって唯一の慰めは、自分の不甲斐なさによる選択でも仲間達に強制できる立場にあるということだった。


 反対意見を黙殺し、馬車は少し道を外れボロネーゼが言う村へと進んでいく。

 


「あそこです」

 それから1時間ほど経ったころだろうか。

 遠くにわずかに見える篝火を指さして、ボロネーゼは言った。

 

 そこからさらに道なき道を進み、康大にも村の全容が見えてくる。

 その村の様子を見た康大の第一印象は、


「変わった村だな」


 だった。


 そもそも普通なら、利便性を考え道の近くに集落がある。――いや、道があるから人が集まりそこに村ができるのだ。

 しかしその村は、こうして道を外れてそこそこ進まねばならない。さらに、見張りの櫓のようなものがいくつかあり、家々は斜面に柵と一緒に作られていた。まるで村全体が砦のような構造である。


 害獣や魔物対策にしてはあまりに物々しすぎる備えである。 


「ここには強力なモンスターやたくさんの狂暴な野獣が出たりするんですか?」

 康大は疑問に思ったことをすぐにボロネーゼに聞いた。

 ボロネーゼはその丸い顎に手を当て、考えながら答える。


「自衛のためだと聞いております。昔はこの村ももっと道沿いにあったらしいのですが、ひどい略奪に遭って村が壊滅し、その後今の場所に、より防衛力を強化して新しく作ったと。また、この村――ドゥエイ村の住人は過去の教訓から子供の頃から修練に励み、多くが傭兵のようになったと言われています」

「なるほど、村に歴史あり、ですね」

 こんな所でも康大は現実セカイと異セカイの価値観の違いを実感させられる。

 現実セカイなら利便性だけ考えればいいが、ここではまず安全を第一に考えなければならないようだ。


 ただそれは、ゾンビウイルスの蔓延した現実セカイなら同等の価値観ではあったが。


 やがて馬車は村の関所のような入口を通る。

 さすがに国境の備えとは雲泥の差だが、それでも櫓上で矢を番えた番兵や門番もおり、今まで通った村にはなかった物々しさだ。


 尤も、厳重にチェックされることはなく、ボロネーゼが顔を見せるだけですんなりと通してくれた。

 過去に何回も商売でこの村に訪れているのだろう。

 物理的にだけでなく、形容的にも顔が広い商人に康大は頼もしさを覚えた。

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