感染者(ゾンビ)と死者(ゾンビ)と追放された悪役令嬢とその他大勢 第11章
《来ましたね人の子よ》
いつものように呼んでもいないのに女神的な何かが現れた。
まだ仕事中なのか、背景はいつものオフィスで恰好も女神のそれだ。
今日はちゃんと仕事として会いに来たのだろう。
それはそれとして。
「いや、呼んでねーし」
鬱陶しいことに変わりはない。
それでも無視すれば余計に長引きそうだったので、仕方なく康大は話に付き合うことにした。。
《ていうか最近ご無沙汰じゃん。まーデコ眼鏡みたいにしょっちゅうコンタクト取ってるのも気持ち悪いけど》
「あれ、センタとタツヤって未だにそんなつるんでるんだ?」
《うん。なんかもうモンペとバカ息子って感じ。2人してアンタの悪口言いまくってるみたいよ》
「ふーん」
陰口をたたかれたところで何も思わない。
今更タツヤに何かできる可能性などない。あれはそういうバカだ。
しかし、そこまで親密となると。
「女神も結婚するのか?」
《それは「お前なんて大ユガ(432万年)が1周しても行き遅れだよ」って遠回しに馬鹿にしてる?》
「違うわ。変な被害妄想爆発させるな。ただそこまで親密だったら、異……種族でも結婚したりすることがあり得るのかなって」
康大の頭の中には先ほどのハイアサースの話があった。
もちろんハイアサースは異種族どころかゾンビという点でも共通しているが、セカイは違う。そして世界が違えば異種族も同じだ。
そんな異なる者同士の結婚観について、いろいろな意見が聞いてみたかった。
《少なくとも人魚とショタはしてたでしょ》
「いやまあそうだけどさ」
康大は言葉を濁した。
さすがに自分とハイアサースの話だとははっきり言えない。
素直に言ってミーレにからかわれるのも癪だ。
康大はとりあえず余計なツッコミをいれられないよう、あくまで別人の話として聞いた。
「とにかくセンタとタツヤが万が一結婚したとして、うまくいくのかなって」
《そうねえ。人間と結婚した女神はごく少数だけどいるわ。ただ結婚すると女神パワーとか資格とか健康年金とかいろんなものが失効されるから、センタが結婚することは絶対ないと思うけど》
「失効って、それはつまりほぼ人間になるってこと?」
《そこまで弱体化はしないわ。基本的な身体能力だけでも女神の方がはるかに上だから。それでも失うものは少なくない。それでも結婚する女神はいるのよね。正直アタシには理解できないわ》
「むしろ男より女の方が好きそうなロマンスだけどなあ」
ミーレは女神の中でもかなり現実的なのだろうか。
「いや、それ以上にただぶっきらぼうで女性ホルモンが少ないだけか」
《そういう事は心の中で想うだけにしとけや小僧。まあこの世界じゃ会話もほぼそうだけど》
康大の独り言にミーレは即文句を言う。
ミーレの言うとおり、ミーレとの会話はすべて頭の中で完結し、実際には一言もしゃべっていない。
頭の中で口に出そうとした言葉がそのまま言葉になり、あくまで考えているだけのことはミーレにも聞こえなかった。
ミーレも康大の頭の中の全てを把握できるわけではない。
「あーわるいわるい」
《超心が籠ってねえぞこの童貞。とにかく女神と人間に限らず異種族間の結婚は大変よ。同じ種族だって分かり合えないのに、違う種族だったらさらに相互不理解が生まれる。長いこと一緒にいるとそれが余計浮き彫りになる。人魚とショタもきっと死ぬほどきつい目に遭うでしょうね》
「だよなあ。やっぱりその覚悟がないと――」
《とはいえ、それはあくまでアタシら他人から見た話。本人からすれば別れて生活する方が地獄かもしれないし。結局そういうのは当事者になって見ないと分からないもんよ。ま、アンタがあの巨乳ちゃんとの関係で悩んでることぐらいは分かるけどさ》
「ぐ……」
図星を突かれ、康大は思わず口をつぐむ。
どうやらミーレの掌で踊らされていたらしい。
尤も、今までの行動の全てが観察され、いきなりこんな話をされれば誰でもある程度予測はついたが。
《アドバイスになるかどうかわからないけど、このセカイじゃアンタが考えるほど結婚は重要なイベントじゃないわ。その日初めて会った許嫁と即日結婚とか珍しくもないしね。そんな関係にお互い責任なんて持てるわけないでしょ》
「そう、か……。そういうもんかな……」
《まああの巨乳ちゃんも現状アンタ以外との結婚は厳しそうだし、お試しでしてみてもいいんじゃない? それで嫌なら彼女の方から離れるわよ、性格的に》
「……うん」
珍しく康大はミーレの意見を全面的に受け入れる。
相手が独身の女神でも人生経験は豊富で、童貞の自分よりはるかにその道を理解している気がした。
《まあ初体験のときはアタシも気を使ってみないでおいてあげるから、その時はちゃんと言いなさいよ》
「最後は結局下ネタに話し持ってくのな。女神が聞いてあきれる」
《女なんて30越えれば中身は男と変わりないわよ》
「30どころか300超えてそうだけど」
《え、まだその程度のに見えるの? ちょっと自信ついたんですけど》
「女神の基準は分からん」
その言葉を最後に辺りが真っ暗になり、深い闇に沈んでいく意識と共に会話も終わる。
結局役に立ったのか立たないのかよくわからなかった。
その間何が起こっているかも知らずに……。




