感染者(ゾンビ)と死者(ゾンビ)と追放された悪役令嬢とその他大勢 ――プロローグ――
国境の高い壁を抜けるとそこは都だった――。
……と某文学作品的な展開が待っているわけでもなく、壁の先には街どころか山の中を延々道が続いているだけだった。京都は盆地のため、滋賀からくれば当然こうもなる。
また、この国の行政区分では国境を抜ければすぐに都になるが、人々が住み、このセカイで最も発展した街である都はまだまだ先にあった。
また国境を越える際、あの猫娘将軍であるロシコにあいさつでもしておこうかと思ったが、残念ながらこの数日の間に配置換えがでもあったらしくあり、不在であった。
「このまま問題がなければ、あと数時間で天城がある街です」
御者役を務めているジャムおじさんことボロネーゼは、荷台にいる康大達に向かってそう言った。
ちなみに天城とはウエサマがいる場所、現実セカイの言うところの皇居にあたる場所だ。この道中でボロネーゼはそのように説明していた。
康大は話を聞きながら、「その問題がなければ、が一番ありえないんだよなあ」といつものフラグが立つのを感じずにはいられなかった。
そして今回もそれはしっかり機能し、さっそく康大達の前に立ちふさがる。
「……いきなり戦争?」
「血の臭いはしない故、ただの睨み合いでござろう」
康大のつぶやきに、ようやく嫌味を言い飽きた圭阿が答えた。
街道の先の方、やや開けた場所で、大勢の人間の怒鳴り合う声と、甲冑が鳴らす金属音が聞こえてくる。
まず間違いなくウエサマの兵士とアルバタールの兵士だ。
康大からすれば一触即発と言った空気である。
しかし圭阿の言うとおり、ただ睨み合っているだけのようで怪我人は見られない。
とはいえ、まともな神経をしている人間なら、この中を突っ切って行こうとは思わないが。
「この道は通れませんね、別の道を使いましょう」
幸いにもボロネーゼはまともな神経の持ち主で、康大達に迂回を提案する。
同じくまともな神経の康大も彼の提案を全面的に受け入れた。
「この道を通らず街へ行くには、少し戻って南に向かい、そこから西へ進んで南から街に入ります。街の南側は山奥で何もありませんから、厄介ごとに巻き込まれることもないでしょう。ただその分大幅に時間もかかりますが……」
「そこまで急ぐわけじゃないんで、それでいいです。みんなもそう思うよな?」
念のため仲間達に確認を取る。
『・・・・・・』
ボロネーゼの安全策に反対する者はいなかった。
ゾンビ化はできるだけ早く治したいが、それよりまずは身の安全の方が大事だ。
こうして馬車は元来た道を戻る。
都の第一歩はこんな幸先が悪いものであった。
けれども、今あった事などすぐに忘れてしまうほどの数々の困難が、この先康大達を待ち構えていた……。