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初恋の相手

 声の主の正体に驚いた。低めの声からして、てっきり男だと思い込んでいたが、しかし目の前にいるのは我が校の制服を着た女の子だった。


「………………どちら様ですか?」

「ひどいな。どちら様ですかって、まるで初対面のような言い草だね」

「えぇ?」

「おいおい、まさか僕のことを忘れたって言うんじゃないだろうね?」

「……………………………」


 いや、マジで誰? ていうかボクっ娘⁉


「……………え、本当に覚えてないの?」

「はい!」


 すると、ボクっ娘ちゃんは悲しそうにまぶたを伏せるや、長いまつ毛を微かに震えさせた。

 うーん、しかしまあ良く見ると、彼女はナンテ完璧な顔立ちをしているのだろうか⁉ 少女漫画家が描くようなパッチリしたお目めに、スッキリした鼻とプクリと濡れた唇! だけど最も魅力的なのは彼女の髪だった。思わず手に取り撫でてみたくなる、ふわ~りと伸びた栗色の髪………あと、あのぼい〜んなデカパイ‼︎ つい視線が釘付けになるぅ!

 全くわからない。こんな可愛い女の子の知り合いがいたか? 童貞の俺に⁉


「昔は良く一緒に遊んだのに……。ほら学校でサッカーしたり、カードやゲームをしたり……そういえばアリンコの巣に、一緒にオシッコをかけたりもしたねwww」

「いやすみません! 全く覚えがないです!」

「ほらほら、僕んちにだって遊びに来たじゃん。境内で爆竹を打っては妹をビビらせてさ! あっ、そうそう夏休みに三人で冒険の旅に出たりもしたよね。うは、懐かしい~」

「知りません! あなた誰ですか⁉」


 怖い! ここまできたら最早ホラーだ。この子、もしかしたら頭がパーなのかもしれない⁉


「まあ……僕、確かに昔とは見た目が、ちょこっとだけ変わったかもしれないけど……それに最後に会ってからだいぶ経つし……わからなくてもしょうがないか…………」

「なっ⁉」


 ボクっ娘ちゃんはいきなり俺の両手首を掴むと、楽しそうにぶらぶらと揺らす。


「竜ちゃん、僕だよ。安藤健」

「……………………健ちゃん⁉」

「あはっ! 竜ちゃん、やっと思い出してくれたようだね」


 ナント彼女は…………彼女⁉ いや彼は、幼馴染の健ちゃんだった!


「ど、ど、どうしたの、その格好⁉」

「ん?」

「な、なんで女の格好をしているの…⁉」

「ああ……逆に何で君はしてないの?」

「はい?」

「まあ竜ちゃんは、まだ一年生だから仕方ないか」

「仕方ないって、何が⁉」

「でも素質あると思うな~。竜ちゃんには女装の!」

「えっ? ええっ⁉」

「だけど君は、女心というものは致命的にわかってないようだね!」

「いいや何の話しだよ⁉」

「僕の妹の話しだよ」

「愛美ちゃん?」 

「うん。ズバリ! 妹は君に惚れている‼」

 

 衝撃が電光石火となって俺の額にキスをする。

 それから思い出の中の、彼女の笑顔が脳裏で花を咲かせては散っていく………。


六才俺「ち、ちびまる子ちゃんのキャラクターで誰が好き?」

六才愛美「え……」

六才俺「お、おれは、永沢くん。し、知ってる? 永沢くんの家って一回火事になったんだよ。だからね、アイツ火を見るとすごく怯えるんだ! ははっ、おもしろい‼︎ それでね、『永沢君』っていう漫画があって、アイツが主人公の漫画なんだけど、これまたおもしろいんだ!」

六才愛美「ふーん…」

六才俺「あっ…………愛美ちゃんは? 愛美ちゃんの好きなキャラ……何?」

六才愛美「………………たまちゃん」

六才俺「へ、へー。何で?」

六才愛美「わたしに似てるから……」

 

 恥ずかしそうに頬を染める少女。

 それが俺達の初めての会話だった。

 

七才健「おい竜介~野球やろうぜ~」

六才俺「お、おう…!」

 

 健ちゃんに呼ばれて駆け出す。だけどどうしてか、ふと後ろを振り返った。

すると愛美ちゃんが優しい笑顔を俺に向けて、

 

六才愛美「リュウスケ君って、藤木君に似ているね!」

 

 その瞬間、俺は恋に落ちたのだった………。甘い、淡い、初恋に……。

 

「…………ちょっと、竜ちゃん? もしもーしー、大丈夫~?」

「はうあ⁉」

「え、どうしたの?」

「過去にトリップしてた」

「そ、そう……」

「そんなことより、さっき何て? 頼む、もう一回言ってくれ!」

「あ、ああ…。ズバリ! 妹は君に惚れている‼」

「馬鹿なこと‼」

「本当だよ」

「あ、愛美ちゃんが……こんな! 陰キャで、ぼっちで、童貞な俺に惚れる訳ないじゃんか!」

「いや、陰キャとかぼっちとか、まあそれは置いといて。ほらさっきも愛ちゃんと滅茶苦茶良い雰囲気だったじゃん。ずっと二人っきりでさ!」

「そ、そうか?」

「うん! それに……ああっ何てことを! 君は何で気付かないのか⁉ 妹は君と一緒に帰りたがっていたのに!」

「いやいや、何でそんなことがわかる⁉ さっきから無責任なことばかり言って!」

「いや僕からしてみれば、君は余りにもわからなさ過ぎているね。ハッキリ言って鈍感も良いところさ」

「はぁ?」

「妹の表情や仕草を見れば子供だって勘づくことを、君は愚かにも全てスルーしているんだからね。アプローチだって……そうアプローチだって彼女はしていたんだぜ。今までずっと……。まあ、どうせ君のことだから微塵も気付いていないと思うけど」

 

 健ちゃんはあからさまに不機嫌な顔をして、それでいて明らかな敵対心を示しながら俺を見つめた。


「はっきり言って僕は妹が可哀想で仕方ないよ……」


 けれど、さほど長くはもたなかった。彼はすぐさま表情を和らげ、元の優しそうな健ちゃんに戻ってくれた。

 

「ごめん。久しぶりにおしゃべりが出来たのに何か嫌な感じになってしまって」

「そんな……」

「でもね、もう僕はこれ以上見ていられないんだ。愛ちゃんの悲しむ姿を。だから今日、竜ちゃんに思い切って話したんだよ」

 

 言い終えると彼はきびすを返し、そのまま別れの挨拶もせずに部屋から立ち去ってしまった。

 一人残された俺はただ呆然と立ち尽くしていた。

 それからしばらくして、いつまでもこうして学校に残っていたら生徒指導の先生からお説教の言葉をくらうことになる、と我に返る。さすれば慌てて戸締りをして誰にも見つかぬよう職員室に忍び込んではそっと鍵を返却し、後は暗闇に紛れて校門をかいくぐり学校から抜け出した。


 しかし自宅に帰るとヤツがいたのだ。

 

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