はい~二人組作って
「はい~じゃあ、二人組作りなさ〜い♪」
この世の中で一番嫌いな言葉かもしれない。実に寒気のする、おぞましい言葉だ。
一限目は体育だった。勿論、体育も嫌いだ。大嫌いだ‼ バスケット、サッカー、バレー等の球技はもちろん、ダンス、縄跳び、体力測定、果てや準備運動にまで、チームやらペアやらを組まされて苦手なチームプレーを強いられるからだ。そんなの普通の人からしたらなんてことなくても、コミュ障ぼっちの俺には死ぬほど辛い。
そして今日の体育は始まりから地獄。
準備運動をしようと冒頭の言葉が先生の口から発せられたのだが…………
「先生……」
「ああ、雨神君~♪」
だが幸い、このクラスの人数は奇数。つまり、どうしても一人余る。また俺以外は全員女だ。となると………当然のこと、準備運動ではペアの相手と体が触れ合うが、だけど、いくら体育の授業とはいえ、JKの発達した体に触れるなんてとんでもないことだ。俺には、とても出来やしない……だって
絶対勃ってしまうもん‼
「うわぁ~オタク君ヤバッ♡ 何それ、きも~www」
早乙女が俺のとんがり○ーンを指差すや、両手を叩きながら嬉しそうに笑う。
「きゃーーーーーーーーーーー‼」
続いて、女子達の悲鳴。
「オタク君さぁ………何だいこれは?」
ニヤニヤ笑いの止まらない早乙女が、とんがりコ○ンを指ではじいてみせる。
「あっ…ううん……♡」
「あはっ☆ てか、デカくね? ヤッバw ねぇ、あーし達にもっと見せてよwww」
そして脱がされるズボンとパンツ。
「きゃーーーーーーーーーーー‼」
とんがりコー○が、お鼻の勃ったゾウさんになってしまった︎⁉︎ すると、メスの顔をした野獣達が獲物のゾウさんを囲いだすが………………………
「え、包茎?」
「噓………」
「ヤダ、かわいそう………」
「…………………………じゃあ、みんなで剥いてあげよう? せぇ~の……うわわわああぁぁぁぁぁぁぁwwwww」
『完全主観 憐憫地獄! ~いつもM男の僕をいじめるくせに‼ 何故か今日だけは彼女達が優しくて⁉ えっ、ハッピーバースディおめでとう?~』
…………………………………………だから、まあ仕方ない。俺はいつも通り体育の先生(男)とペアを組むこととする。
「雨神君~♪ あなたは転校生とやるのよ~♪」
しかし人生には予想外なことが起きるものだ。
神様の悪ふざけか。確立されていたはずの安心安全神話は突如として崩され、思いもよらぬ窮地へと立たされる。
「て、て、て、て、て、ててててテンコウセイとですか⁉︎」
「ええ~♪ そうしないと一人余ってしまうからね♪」
だったら準備運動ごときで二人組を作らせるんじゃねえ!
「竜介………」
突然、ひんやりとした感触。
「ハッ⁉︎」
そう、まるで死人のよう、少なくとも生身の人間ではあり得ないぐらいの冷たさ………。
ゾッとして振り向いてみれば、夜空マリエが俺の腕を掴んでいる。
「しくよろ」
「はぁ?」
「準備運動のペア」
幽霊のような薄笑いを浮かべる彼女。
……………………………………………………。
なんてね。馬鹿な、何が幽霊だ。
確かに彼女の体温は驚く程に冷たいが、まあ冬だしな。きっと極度の冷え性か何かなのだろう。俺の気にし過ぎ♪ 気にし過ぎ♪
で、結局、準備運動は夜空と組むことになったのだが、グヘヘ……。今、俺の指先には、なまめかしい生脚が……………。
ストレッチのため夜空には仰向けになってもらって、一方俺は足元に座って彼女の脛と膝を掴んではゆっくり引き寄せて伸ばしている。季節が冬とはいえ彼女は半ズボンの体育着姿、当然脚の素肌がさらけ出されていて、柔らかなムチムチとした感触が俺の手の平で滑りゆく。
たまらん! エッチです‼
おんにゃの子に触ることがこうも……こうも愉快だとは! 僕、知りませんでした!
グふふふ……。上半身から下半身、下半身から上半身と何度も視線が泳いでしまう。
うーん、こうして見るとエチエチ百点満点なボディをしていますなぁ~。んむぅ、上半身の方は長袖のジャージを着てしまっているから一見わかりづらいが、それでもはみ出るラインが全てを物語っている。あれは恐らくC……いやD‼ うは〜おおきぃねぇ〜!
「何ニヤついているの?」
「はうあ⁉︎」
我に返ると、夜空がジト目でこちらを睨んでいた。
「………セクハラ」
「そ、そんなんじゃないよ!」
「でも目付きがイヤらしい」
「目付き⁉︎」
「それに脚への触り方も何となく邪なものがある」
「ご、ご、ご、ゴカイだよ!」
「ううん。私には、あなたの考えていることが手に取るようにわかるから」
夜空は指で輪っかを作ると、出来た小さな穴を覗きながら俺のことを隅々観察し始める。
「ふふっ、でも発情しちゃうのもしょうがないか」
「えぇ⁉︎」
ふと指の輪っかが股間のところで止まる。そして彼女はそこをズームイン‼
「だって私のナイスボディが、あなたの好みに叶い過ぎるのは当たり前のことだもん」
ここで夜空が俺を押し倒す。ストレッチの交代である。俺は仰向けとなり、彼女に脚を取られた。
「足フェチ、巨乳好き、JK大好き、尚かつ清楚主義、処女崇拝……なのに自分に対してだけ都合良くビッチ………………。そんな………全てはあなた好みの設定…………」
「夜空さん?」
「だけど、やっぱりキモイ」
「あっ、ちょ。んぅ⁉︎」
激痛うううぅ! いきなり脚に激痛が走る!
「夜空さん、やめて! 痛い…! 抜けるぅ!!!」
「こんなんでヌケるなんて、やはり変態か……」
「違う! 脚が、脚が、ぬけちゃううううのおぉぉ‼︎」
そう、今にも脚が持っていかれそうだった。しかし抵抗しようにも、なんて馬鹿力! これが女の力か⁉
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
どうにもこうにも、力では勝てぬとわかり、ならば大声でとにかく喚く。すると、ただならぬ気配に周囲の人間がざわざわとこちらに注目した。
「ど、どうしたの~雨神君⁉」
慌てて先生も駆けつけて来る。が、途端に痛みがスゥーと引いていく。
「大丈夫~⁉」
「夜空さんが…俺の脚をもごうと……すごい力で!」
「ありゃ、ごめん、ごめん。そんなに痛かった?」
彼女は澄ました顔をしながら…………いや! むしろ蔑むような意地悪い笑みを浮かべながら表面的な謝罪の言葉を述べる。
「私としては、ちょっとだけ強く伸ばしたつもりだったのに…………雨神君には強過ぎちゃったのかなw」
こんちゅくしょう、この女め! 睨み付けてやる!
「キッ!」
俺は夜空を睨み付けた。
「オタク君さぁ~どんだけひ弱なのw」
くそギャル早乙女の一言にクラスメイト達が一斉に笑い出す。しかも見れば、先生まで笑ってやがる。
「まあまあ~♪ 夜空さんも準備運動だからね? 優しく~優しく~」
「すみません、気を付けますw」
「うん♪」
何が、うん。だ! 先公がよぉ……それだけかよ?
「よおし~! じゃあ準備運動はそこまで~。今日はバスケットをやるからね。ええっと…バスケ部の……佐藤さんと鈴木さん。じゃんけんして勝った方から順番にチームメイトを好きなように選んでいってね~♪」
はぁ…今日は最悪な一日だ。まだ午前中だけど。
その後、案の定俺はどちらのチームの選手選考からも漏れ続け、最後になってようやく罰ゲーム的に仕方なく一方のチームに拾われることとなった。
ならばこの雪辱をバスケットではらしてやる! なに、相手は所詮女、力では男に勝てん! それに身長だって俺の方がだいぶ高い。こんなの訳ないさ! っと、女性蔑視を豪語して軽くイキってみたものの……既に察してくれているとは思うが、俺は陰キャだから運動が出来ない。だから当然のこと、試合では活躍の場などあるはずもなく、むしろ足手まといにすらなってしまって、結局自チームは惨敗して終わったのだった………。