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未来からの転校生

 長野私立バビロン商業高校。全生徒数二〇〇人に対して、女子生徒は一九三人、男子生徒は七人。学年別で見ると、女子は一年生から三年生まで均等に配置されているのに対して、男子は三年生に四人、二年生に二人、そして一年生に一人となっている。

 そう、この学校では男子という生き物は絶滅危惧種に指定されていた。

 まあ元々男子が少ない傾向の高校ではあったが、それにしても年々と男の入学者は減少していくばかりであり、そしてついには今年の春、新一年生の男子はたった一人だけとなってしまったのだ。

 ああ…ソイツはなんてかわいそうに……。同学年同性なしでどうやって華の学園生活を楽しめば良いのか………………

 

 てか、ボッチ確定だろ、こんなの‼

 

 だって考えてみろよ! 自分以外に男がいないという状況を! 女子と話すのが苦手な一般的思春期男子の取り巻く状況を‼

 そうさ、一緒に学校の屋上で昼飯を食う仲間もいなければ! 放課後の帰りゲーセンに寄って格ゲーを遊ぶオタク仲間も、修学旅行で女子の風呂を覗く変態仲間も、部活をサボって陰でこっそりとタバコ吸う不良仲間も………タバコ……不良仲間………そう、それで監督に怒られて、すると返って反発して、それでも監督の熱心さに心を入れ替えて、果てや真剣に甲子園を目指す…………


 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン(サイレンの音)


俺「ちぃ…!」

相棒「ここまでか……」

警察「犯人二人に告ぐ! 建物は既に包囲されている。速やかに投降しなさい!」

俺「うるせぇ! 監督殺しのサツどもがぁ!」


 マシンガン、ドドドドドドドドド。


相棒「ふっ、甲子園目指して鍛えた投球見せてやるぜ!」


 手榴弾ぽん。

 パトカー大爆発‼


相棒「へへへっ……ざまっあ…ヴっ⁉」

俺「相棒⁉」

相棒「やっ、やつらぁ撃ってきやがった……」

俺「大丈夫か⁉ い、今、救急車呼んでやるからな!」

相棒「馬鹿野郎‼」

俺「⁉」

相棒「ここは…携帯の電波が通じないだろ……」

俺「相棒……」

相棒「竜介……タバコはあるか………?」

俺「そんなもん、持ってねぇよ。だって俺達、あれ以来禁煙しただろ?」

相棒「ふっ……そうだったな…」

俺「おい! 相棒……相棒っ⁉」

相棒「お、おれたち…監督が女子トイレ盗撮で捕まって……結局甲子園にいけなかった…が………。でも…お前と一緒だった……………三年間……わるく…なかった………ぜ」

俺「あいぼぼぼおおおおおおおおうう‼」


 『日本版、理由なき反抗』 完。


 ………………と、そんなかけがえのない青春を共に送る仲間達が一人もいないんだ! 

 エッ、僅かながらも男の先輩がいるじゃないか? そいつらと、つるめば良いじゃん? ああ、確かにそうだ。だが問題として、彼らはどこに存在する? 実際、甘い匂いでむせかえる校内中を歩き回ってみても、あるのは女の姿のみ。

 

 どういう訳か、この学校には男子がいないんだよ! どこにも‼

 こんなことってあるか⁉︎ いくら絶滅危惧種だとしても一切エンカウントしないって、それどころか、いる痕跡すら見当たらないなんて⁉


 Whyどうして? これは俺の推測だが、先輩達が見つからないのは彼らが全員女装をしているせいだ。

 なぜ女装をだって? そりゃあ、このジェンダー大多数派の女の世界で男が三年間生き残るには、なるべく彼女らから目立たないようにしなくてはならないためだ。当然、第一条件に女子様の機嫌を損ねてはならないが、しかしながら元来女子というのは集団を組むことを好む生き物であり、しかも厄介なことにその自分達の集団から外れる者に対してはひどく攻撃的になる、と俺は考える。

 だから、まず男であること。それ自体が女の集団から外れることであり、よほど処世術に長けている者でなければターゲットにされてしまう。

 そこでひとつ女装をしてみる。女子集団からの理不尽な迫害を避けるためにも、まずオスの匂いを消すべく彼女らの姿を真似たのだ。たとえ効果の程が定かでないにしても、わざわざ女生徒の制服を注文して、ウィッグまで被って、それから化粧もしてみせよう。

 こうして、やがて学校では男達の姿を見かけることがなくなったのさ…………え、馬鹿げてる? みんながみんな女装までして学校に通おうとは思わない?

 うーん、そうだな……。じゃあ女装が出来ない者は、早々と不登校になってしまったのだろう。知らんけど。

 ともかく、まあ要はなんて言うか……とどのつまり俺が言いたいことは……………

 

 俺のこれからの三年間も、そうした先輩方と同じクソの末路を辿るということだ‼

 

 女装をしてまでクラスに居座るか、それとも退学にならない程度に登校してあとは自宅に引きこもるか、そろそろ選択しなければならない。だがどちらにせよ陰の生き方であることには変わりない。所詮、俺は日陰者なのだ。


日陰者、悲しきかな、我が人生。

竜介、心の俳句


「何さっきから独りでブツブツ言ってんの?」

「はうあ⁉︎」

「何? 相棒って……心の俳句って……」

「べ、べべ、べべべべべべ、べつつに……!」

「きも」

「……ううっ…」

「オタク君さぁ、なんでビクビクしてんの? 超イラつくし」

「す、すいません……」

「す、すいません……、だって。きもw ねえ、もっと男らしくしなよ?」


 けたたましい笑い声が教室中に響く。気付けばみんなが俺に注目している。


「オタク君もたまには、あーし達と交じって会話しよ? ね、ほら妄想の中でアニメの女の子ばっかとおしゃべりしてないでさw」


 再び湧くクラスメイト達。


「あやちゃん、ひど過ぎ!」


 一人が笑いながら煽る。

 

「あーしが? オタク君の将来を心配して言ってあげてるのに? このままだと一生彼女とか無理だしw」


 突然、机にドカッと振動が起きた。それからドキドキっとする香りが鼻の中に広がる。

 見上げてみれば、金色に染まったふわふわセミロングの髪と派手な盛り盛りメイクをしたギャルが一人、マスカラとシャドウが施された二つの眼で獲物を見据えては、退路を阻むよう俺の机の上に尻を付いていた。


「ね、オタク君☆」


 早乙女文子さおとめあやこはこのクラスのリーダー格であり、無論不良だ。クソ根性の不良のくせにーー化粧の効果かもしれないが、それでも顔は学校一と言っても良いぐらい、すこぶるかわいい。

 

「か、かぁカノジョなんて……」

「か、かぁカノジョなんて……w」


  再度オウム返しを喰らって顔が茹でたつように熱くなるのを感じる。


「ばーかー。いくら努力しようが、あんたに彼女なんて出来る訳ないじゃんw」

「んぅう……」

「あ、でもさぁオタク君。あんた好きな子とかいるの?」

「エッ⁉︎」

「いくら二次元に夢中だからって、流石にリアルでも気になる子ぐらいいるんでしょう? ねえ、あーしに教えてよw」


 唐突に何を企んでいるのか、早乙女はニヤニヤと憎たらしい笑みを浮かべていた。

 

「ね、ねぇたら!」


 ふと香水の甘い匂いがフワッと強くなった、と思ったらピアスの空いた彼女の耳がこちらに差し向けられていた。


「誰にも言わないから~。おねが〜い」


 耳にも、鼻にも付くあま〜いあま〜い猫撫で声。

 わかったぞ。彼女は俺から好きな子を聞き出して、それをネタにからかおうというのだ。しかも誰にも言わないと言いつつも、絶対にクラスのみんなに暴露するに決まっていた。

 だったら俺は無言を決め込むまで!

 

「…………………………おい、あーしがこんなに頼んでいるのに教えないつもりかよ」

 

 すると一転、早乙女の表情は世にも恐ろしいものに変貌する。

 

「す、すすすすすすみませんんんぅ‼︎」

「さっさと教えろだし」

「いや…あの……」

「あっ?」

「好きな子なんて………いません……」

「あ、そうー」


 次の瞬間、彼女の蹴りが俺の下半身にヒットする!


「あああうううぅあうぅ……んぅ……♡」

「噓つくなし」

 

 痛い、物凄く痛いけど……。

 

「…………あんた、何ニヤついての?」

「ほぇ?」

「まさか……あーしに蹴られたのが、嬉しいの?」

「違います‼」

「即答すんなよ。なんかムカつくし」

 

 そう言って、さらにもう一発おかわりが来る!

 

「おっ…♡ やっば♡ ああっ…♡ あぁ……」

「きも。喘ぎ声なんて上げて、オタク君やっぱりドMじゃんw」


 まあ正直に白状すれば、ちょっとだけ興奮した…………じゃなくて!

 違う、俺はただビビってしまっただけだ! 

 いや、そんな誇らしげに言えたことではないが………だけどそのせいで変な声が漏れ出てしまったんだ! だって、いきなり理不尽な暴力を受けたんだぜ⁉ いくら相手が女の子でも、すごく怖いに決まっているだろ⁉︎

 え? むしろご褒美? 

 

「で、あーしの質問の答えは?」

「いえ…だから……」

 

 ギャルの脚が蹴りの体制に入る。

 

「わかりました」

「ふっ、従順でよろしい」

「だけど本当に誰にもバラさないんですね?」

「当然! オタク君とあーしの二人だけの秘密にするし」

 

 絶対噓だ。でも、ここで逆らったらどんな仕打ちを受けることになるか……。

 

 早乙女に好きな子を教えますか?

 はい

 いいえ

…………………………………………………………………。

 はい←


 けど、まあ良いか……。百万分の一でも、ひょっとしたらが、あるかもしれないし。

 

「ねえ、ほら早く、早く!」

 

 彼女は馬鹿みたいにはしゃぎながらグッとこちらに身を乗り出す。

 すぅううぅううううううぅぅうう‼(鼻を吸い込む音) はい! 正直、ムラムラしています! すみません‼ でも、おにゃの子に、こんなに接近されたら、ぼくもうダメですぅ! お鼻の奥の奥までおにゃの子の匂いで充マンマンして! 頭がボッーと、もう何も考えられませんぅぅぅ⁉︎

 だからどうにでもなれ!

 俺は胸が緊張で張り裂けそうになりながらも、とうとう秘密を告白してしまう。

 すると…………

 

「はっ……はぁ~⁉ て、てめぇふざけんなし‼」

 

 早乙女は激しく赤面しながら、今度は手加減なしで思いっ切り俺を何度も蹴る。

 

「おっ…♡ おおっ……♡ おおおっ………♡」

「つまんねえ、噓付くな!」

「う、噓じゃないですよ! マジです!」

「ッ……⁉ うるさい!」

「ぐう⁉︎ うぅ…♡」

 

 その内、痛恨の一撃が急所に!

 

「ああっあああああああああああああ‼ ゴボッ……♡(血反吐)」

「わかった! お前、あーしのこと馬鹿にしてんだな? 良い度胸じゃん、オタク君のくせに……w」

「ち、違います……ただ面食いなだけです‼ 性格なんてどうでも良いんです!」

「は⁉ てめぇ、それどういう意味だよ⁉」

 

 早乙女は俺の胸ぐらを掴むと、

 

「やっぱお前、馬鹿にしてんだろ‼」

 

 握りしめた拳を上げて思いっ切り振り落とそうした。

 

「ひ、ひいぃぃー! ごごごごめんなさいいぃ⁉︎」

「いい加減にしなさいよ!」

 

 しかし、ここで救世主が現る。

 

「はぁ?」

「もうすぐ先生が来るわよ」

 

 安藤愛美あんどうあいみ。俺を助けてくれたのはクラス委員長である彼女だった。

 

「うるせぇんだよ委員長! だからどうしたんだよ、でしゃばるなだし!」

「うるさいのは、あなたでしょう?」

「何?」

「クラスメイトをいじめて何が楽しいの? いい歳して馬鹿みたい」

「どこがいじめてるんだよ? あーしはただオタク君と楽しくおしゃべりしてるだけだし」

「どう見てもいじめじゃない!」

「あぁ? あんたが勝手にそう思っているだけじゃん。ねえ、オタク君?」


 いえ、どう見ても暴力を振るっていました。完全にいじめです。本当にありがとうございました。

とは言う余裕もなく、俺は急所の激しい痛みに悶えて頭をダラリと俯かせていた。


「もしかして、あんたさぁ、あーしがオタク君と仲良いからって嫉妬してるの?」

「はぁ……えっ⁉︎」

「てか絶対そうでしょうw 委員長、あーしとオタク君が話している時、いつもちょっかいかけてくるもんね」

「そ、それは、あなたがリュウスケ君をからかうから……!」

「マジかよ、リュウスケ君だって。あんた、そんな下の名前で呼ぶ程コイツと親しいわけ?」

「別に…ただ幼馴染なだけで……」

「はぁー⁉︎ 幼馴染?」


 それの何が悪いのか? 早乙女の声色にイラつきの変調がはっきりと感じられた。


「何? あんた、オタク君のことが好きなの?」


 驚愕の言葉が耳に入り、俺は伏せていた顔を上げる。


「え……ええっ⁉︎」

「図星だしw」

「ちぃ、チガウ!」


 これは不味いことになった……。早乙女があんなことを言ったせいで、クラスのみんなが俺と愛美のことを好奇の目で眺めている。いっそいつもみたいに、みんなしてゲラゲラと笑ってくれればいいものを…………最悪だ。


「チガウ…チガウ…チガウぅぅ……チガウもん…!」


 だけど一番の被害者は彼女だ。俺と関わったばかりに愛美は不名誉な言い掛かりを必死に否定しなければならないなんて。


「絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ…絶対チガウ」


 …………………………そこまで否定する?

 ちくしょう、こうなったら俺が何か一言‼ 

 

クラスメイト達にガツンと言ってやりますか?

 はい

 いいえ

………………………………………。

 いいえ←


 言ってやれば良いのに………それなのに怖気ついてしまって、俺はただ黙っているばかり……。

 くそっ、なんてザマ! この意気地なしの卑怯者めが! 

 と、そんな無様な自分を情けなく思っていた時、タイミング良く担任の先生がやって来て、早乙女を含むクラスメイト達が一斉に自分の席へと戻った。


「ん、どうしました?」


 けどただ一人例外、愛美だけは頭を垂らしながら未だ俺の席の側で立っていた。

 俺はチラっと彼女の顔を覗き込む。

 だがそうしなければ良かった。たちまち胸が苦しく締め付けられる。愛美の掛けているクソダセェー丸メガネの奥に、悲しく潤んでいる瞳が見えてしまったからだ。

 

「りゅ…リュウスケ…君………」

「え?」

「どうしました、安藤さん?」

 

 立ち尽くす彼女に先生が問いかけた時、前の方に座る早乙女が不機嫌そうに振り向いて、

 

「さっさと席着けだし……」

 

 一番後ろの席の俺にすら聞こえるよう呟いた。当然、愛美の耳にも入っただろう。やむなく彼女は口に出しかけたことを引っ込めて自分の席へと戻る。


「………………………えっと、では朝のホームルームを始めますが、その前に今日は皆さんに新しいクラスメイトを紹介します」


 教室のあちらこちらでソワソワと話し声がしだす。もう誰もが先程の騒動のことなんか忘れて、新たなクラスメイトのことで頭が一杯になっているようだ。


「はい、静かに」


 そう言って先生は騒ぐ生徒達を沈ませる。

 ドゥン‼

 見せしめに一人、頭を机の上に叩き付けられた。


「………俺じゃなくて良かったぁ……」


 そうして先生は教室が急激に静まり返っていくのを見守り、


「ヨシ、では入って来てください」


 それからドアがガラガラと音を立てて開く。

 さあ、運命の瞬間。どうだ?


「トコトコ」


 ……………ちぃ、なんだ……。

 残念ながら転校生は女子だった。


「早速、自己紹介を」


 すると転校生は、まず教室をぐるりと眺め出した。それからクラスメイト達の顔をじっくり一人一人見つめていき、そして最後に唯一の男子生徒である俺のことを珍しく思ったのか随分長く視線を送る。

 でも実際はそんな大した時間じゃなかったかもしれない。それでも真顔でジッと見つめられるのはとても恥ずかしかったが……それなのに何故か俺の方としても彼女から視線を逸らすことはしなかったのだ。


「…………ジィ……」

「……………んぅ…」


 これは、これは、傍から見ればナンテ滑稽なこと。周囲の注目をジリジリと浴びて、汗の吹き出るぐらい恥ずかしさを感じつつも、俺達は黙々と見つめ合っていたのだ。

 そして妙な間が続いて場の空気もいよいよとなってきた時、ようやく転校生が口を開いた。


「夜空マリエです。趣味は人間観察です。よろしくお願いしました」


 途端にどこからか抑えた笑い声がしだす。


「…………うん。では皆さんも夜空さんと仲良くするように。えぇ…と席は……」


 一番後ろの窓際。俺の隣の席だった。

 嫌だな……。今日一日、休み時間には女子どもがわらわらと転校生目当てに集まって来るだろう。そんな状況でトイレに立ってみろ、あっという間に俺の席は占拠され、しかし逆に立たねば、お前邪魔だよと居心地の悪い空気をずっと浴び続けることになる。


「よろしく」

「あ、うん……こちらこそ…」


 いつの間にか隣に座っていた転校生。

 うーん、結構かわいいな。いや、それどころかメッチャ好みかも‼︎

 見た目は、ザ・クール系女子! ショートボブの青髪が身動きする度にサラッサラッと揺れていた。そして……おおっー、あのどことなく冷たい無感情な目‼ 人をゾクゾクとさせるぅー!

 それに短い髪型と、ある種の顔立ちのせいか、どこか中性的にも見えた。もし女生徒の制服を着ていなければ性別の判断に迷っただろう。勿論、悪い意味ではない。彼女の顔がいわゆる美形であることに異を唱える者はいない。

 俺が言いたいのは……そうつまり、彼女には男女問わず顔立ちが極めて優れている者に共通する特有の造形美…………………もっと言えば性を超越した純粋美とでもいうべきものを備えているってことだ。

 わかりにくくてすまない。

 しかしこんな子に(さっきから人の顔ばっか見つめて、何コイツきも)って思われるのは嫌だった。だからいい加減、彼女から視線を外そうとしても、してもだ……! どういう訳か、目ん玉が謎の引力によって彼女の青い瞳に引き寄せられ続けてしまう⁉︎


「雨神竜介君?」

「え⁉︎ そ、そうだけど……」


 やべぇ! 早速、変に思われたか⁉ でもこの子、なんで俺の名前を知っているんだ?


「ど、どうして……」

「雨神竜介、十六才。彼女なし童貞。趣味は美少女ゲーム、アニメ、漫画、ガンダム、声豚、バチャ豚、ドル豚、迷惑系撮り鉄、ポケカ転売、HENTAI、ひとり妄想、それとラップを少し。小学校、中学校の頃はそれなりに友達もいるごく普通の少年だった。が、しかし高校になってからは常にぼっち。加えて学校の成績は下の下で勉強が出来ず、テストは赤点続き。そして当然のこと帰宅部。だから放課後と休日はいつも部屋に引きこもり、食事の際も家族とは顔を合わせず、夜中こっそりと冷蔵庫から晩ご飯の残り物を漁る。ちなみに竜介という名前の由来は親から男らしい名前をということで付けられた」

「……………?」

「あなたを助けに来た」

「?」

「未来から」

「はい?」

「私の名前…夜空マリエ。気付かない?」


 言われてみれば、はてどこかで聞いたような聞かないような……。


「…………………………………マスターが仰っていた通りだ」

「え?」

「バカだから記憶力が悪い」

「ば、バカって、俺のこと⁉︎」

「私のこと忘れるなんて信じられない」


 彼女はいかにも不機嫌でござるという顔をすると、ついにはそっぽを向いてしまう。


「君って……」


 知り合いなのか? 俺と……。



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