メスガキ幼女参上
翌日、俺は脳神経外科で検査を受けた。
「う~ん、別に異常はないようですねぇ~」
「いやでも巨大なおっぱいが……それに時折選択肢も表示されて……あと猫がしゃべるんです!」
「……………………精神科の紹介状出しときますね」
それから診察を終えると、そのまま学校に登校する。
「たくっ……あのヤブ医者。人を異常者扱いしやがって…………」
「何とかなぁ」
「ありがとう」
しかし、今から学校かったりぃーな。
校門の前までやって来たものの、その先へ踏み出すのに躊躇する。
「…………サボるか……」
「かわいらしいネコさん♡」
だが、きびすを返そうとした瞬間、ロリの声がした!
「幼女⁉」
どきっドキッ!
ちょっと気になったので門を超えて学校の敷地に入ってみれば、いたよ〜‼︎
例のお社の境内で、昨日のクソ猫と黒いランドセルを背負った女の子が楽しそうにおしゃべりをしていた。
「くすくす♡」
「けっ、クソガキが……。にゃお」
「ふふっ、クソネコが……♡」
「にゃっ⁉」
「ざぁーこ♡ ざぁーこ♡ よわよわネコさん♡」
「How did you understand my words? NIYAO(なぜボクの言葉がわかった⁉ にゃお)」
「I learned English at the shinkenzemi♡(私は進研ゼミで英語を習いました♡)」
「すげぇ………英語しゃべれるんだ……最近の小学生って………じゃねえ⁉︎ あのクソ猫、やっぱり人間の言葉しゃべってんじゃあねぇか!」
「ん♡」
ふと、少女がこちらへ振り向く。
「…………………………♡」
「…………………………」
「…………不審者♡」
「え? あ、ちょっ……何を……おい待て⁉︎ 防犯ブザー鳴らそうとすんじゃねえ‼︎」
「でも不審者♡」
「不審者じゃねぇよ⁉︎」
ったく、最近のガキはよぉ、すぐこれだ。おちおち幼女鑑賞も出来ねぇぜ。
……………でも俺ってそんなヤバい奴に見えるのか? そりゃあ、デブ、ハゲ、メガネの三拍子ブス男だったらロリコン犯罪者に間違われても文句は言えないが、スリム、フサフサ、コンタクトレンズの高身長イケメンの俺が⁉
うん、ありえない。
ってことは、悪いのはあのガキだ。人様を勝手に不審者認定して全く礼儀がなってねぇ。そもそも何だよ、あの派手な見た目はよぉ~。
ちっ、ガキが一丁前に染めてんじゃあねえよ‼ 銀髪って何だよ! ウエーブまでかけやがって! そんで頭にでっけぇ赤リボンなんか付けてんじゃあねぇよ!
幼女は黒髪ストレートショートヘアーが一番って決まってんだろが‼
てか………服装がダークフリルワンピース⁉ 更に、お上品なレースの日傘までさしてやがる⁉ もしかしてゴス⁉ その年齢でゴスファッションかよ⁉ だから黒いランドセルを背負ってたのかよ⁉
マジでゴスロリかよ⁉ ゴスロリ良いじゃん‼ ロリ最高! ロリコン最強! めちゃんこ萌えマッスル! かわゆすなぁ〜!
ハァ……ハァ……ハァ……幼女の良いニオイがするお~‼ おっ! おっ、おっ~!
「何さっきから独りでブツブツ言ってんの♡」
「はうあ⁉︎」
「…………きも♡」
ピコーン。
「あっ」
「ん♡」
スマホが鳴った。メールだ。
むぎゅむぎゅ、もうすぐで昼休みだぽん☆
でもリュウスケくんいないから、このままじゃ愛美ひとりでお昼だぽん………。
さみしいぽん………(´。_。`)
リュウスケくん、早く来てほしいぽん……。
安藤愛美
いけねえ! 今日、愛美と昼飯を食う約束してたんだ! うっかり忘れてた!
「彼女から♡」
「え⁉ ま、まあそうだけど………」
「ふーん…♡」
「な、何か?」
「お姉ちゃんをよろしくお願いします♡」
「は?」
ピコーン。またメールだ。
むぎゅむぎゅ、リュウスケくんマダかぽん☆
というより、どうして返信くれないぽん。
もしかして、もう冷めてしまったの?
愛美の温かい手料理を食べてもらおうと、お昼は魔法びんのお弁当を用意したのに、リュウスケくんの愛美に対する気持ちは既にヒエヒエ状態なの?
それとも何? 浮気の最中? だから返事出来ないの?
そんなの許さないから。
あなたの恋人、将来の花嫁、二人は同じ墓、安藤愛美
めちゃくちゃ怒ってんじゃん⁉ 返事をすぐ返さなかっただけで、おこおこじゃん⁉
というかまだ最初のメールが来て数秒しか経ってないけど⁉ 頭おかしいんか、コイツは……⁉
だけど、とにかく急がなければ!
「バイバイお義兄ちゃん♡」
「にゃ~お」
「おう!」
そしてキーンコーンカーンコーン! キーンコーンカーンコーン!
ギリギリセーフ! 何とか昼休みには間に合った。
「あ、オタク君じゃんw 久しぶり~」
と思ったら、着いてすぐにギャルの早乙女が絡んでくる。
「どうして学校二日も休んでたのw 風邪?」
「へへっ……まあそうでやんす」
「何それ、きもw」
手を叩いて馬鹿笑いをするギャル。
「キャラ崩壊じゃんw 本当にどうしたの? 大丈夫?」
彼女の一言に教室がワッと沸いた。
「あははw そんじゃあ、あーし人を待たせてるから。また後でね♡」
そう言って早乙女は小走りで教室から出ていく。
あれ? 意外とすんなり解放してくれた……。てっきりいつものストレス発散リンチをくらうと思っていたのに。
ん、まあ、人を待たせてるって言ってたからな……。そうだよな、せっかくいじめの対象が何日かぶりに登校してきたんだもん、お楽しみは後に取っておくってだけか…………。
それから俺は教室を見渡す。
愛美の姿がない。入れ違いになったのか? だとしたら、もうあっちに……。
ピコーン。
「ん? メール……」
ピコーン。ピコーン。ピコーン。ピコーン。ピコーン。ピコーン。ピコーン。ピコーン。ピコーン。ピコーン。ピコーン。ピコーン。ピコーン。ピコーン……………。
着信音が止まらない。送信者は……やはり愛美で、内容は全て「遅い」の一言だけ……。
「ええ……」
もしかして愛美って、そういう系? だとしたら………。
身の危険を感じた俺は素早く廊下をダッシュ! そして約束の地へと向かった。
「はい、あ〜ん」
「あ…あ~ん……」
「ふふっ、どう美味しい?」
「まいう~」
「もう、リュウスケ君ったら古~い!」
「すごく美味しいよ!」
「そう?」
「うん。特にこの殻のカス‼ が大量に入った玉子焼きなんて最高だね! カルシウム満点、カリガリ食感満点、サルモネラ菌満点だよ‼」
「ありがとう。そう言われるとすごく嬉しい……。朝早起きして一生懸命作ったかいがあったなぁ~」
俺達は図書室でお昼を食べた。この学校には昼休みに本を借りに来る根暗はいないだろうから、二人っきりでラブラブランチをするには最適だった。
「おにぎりもっとあるよ。食べて!」
「むりむりw もう既に八つも食ってるからw しかも全部梅干しだし‼ ごめん~これ以上は食べられない!」
「…………食べて」
「オウフw 頂きます!」
「種も残さず食べてね」
「了解www」
破裂しそうな腹を抱えながらも、全ての命に感謝して今日も頂きます!
「ところで…………愛美ちゃんって……妹いる?」
「え、いないよ。何で?」
「いや、別に……」
さっきのメスガキ幼女、奇妙なことを言っていた。お姉ちゃんをよろしくお願いします……。一体何のことだ? お姉ちゃんって誰よ? あとそれに俺のことをオニイチャンと言った時の漢字がおかしかったような……。
「ねえリュウスケ君」
物思いから一旦返り、愛美の方へ視線を戻す。
「今週の日曜………暇かな?」
「いや、いくら俺でも愛美ちゃんの休日の予定まではわかんないわ」
「私が暇かどうかじゃなくて、リュウスケ君がその日空いているか聞きたいんだけど」
「大丈夫だよ!」
「そっか…なら……」
愛美は照れくさそうに笑う。
「良かったら……ヒヒ………ウチに来ない?(ニチャア……)」
お義父さん! 娘さんを僕にください!
もうご両親に挨拶⁉
でもあの親父か~。恐そうなんだよな~スキンヘッドだし。
「パパもお兄さんも、その日留守なんだぁ(ニチャア……)」
「行く行く‼︎」
「うん。じゃあ待ってるから(ポッ)」
「ああ(ポッ)」
「ゴムは……いらないからね(ニチャア……)」
「え?」
「ウチの宗教、避妊とかダメなの(ニチャア……)」
「え?」
宗教? ああ、愛美の実家は神社だから色々と厳しいのか~。あっ、そうか神社………ああだから親父さんハゲなのか! いや、神主とお坊さんは違う……………………………避妊がダメ⁉ ていうか、ゴムってやっぱりコンドームのこと⁉
「じゃあ、日曜待ってるね!」
「ちょ、ちょ、ちょ⁉」
ガラガラ。
「あ、すみません……」
いかにもな根暗が一人、図書室に入ってきた。
「本を……借りたいんですけど………」
「はい、どうぞ!」
愛美は来客の対応をするため席をはずす。
「全く何を考えておるんや、あの女は……」
「おい……!」
ふと、開きっぱなしのドアの外から声がした。見てみれば、ゲッ………早乙女文子が廊下に立っている。
俺は軽く会釈するが、彼女は人差し指をクイクイ曲げてこっちに来いとジェスチャーした。
「な、なんすか……?」
「やっと見つけたし」
「え?」
「すごい探し回ったし、何で教室にいなかったの? いつも昼は机に突っ伏して寝たふりしているくせに」
「そ、それは……」
「わざわざ男子トイレまで探しに行ったんだけど~!」
「はあ………ええっ⁉」
「便所飯していないか、鼻先をクンクンと集中させてまで探したんだけど~!」
「トイレで⁉ きつくない⁉」
「で、マジサイアク~ハゲ校長がウンコしてたんだけど~。しかもアイツ、ウオシュレット使わない派だったんだけど~」
「要らねぇよ⁉ そんな情報⁉」
「ま、あーしも使わないんだけどね☆ 他人のウンコもらいたくないし〜」
「汚ねぇな⁉ てか、やめろよ⁉ さっきから話すこと全部ウンコ臭せぇんだよ!」
「…………………………」
「あ……」
ヤバい。ついノリでツッコんじゃった……。
「オタク君さあ……マジふざけんなし………」
こ、ここ、これはシメられるぅ⁉
「うわぁ……夜空っちの言ってた通りじゃん………」
「す、す、すすすすいませんでした‼ ………て、えっ? 夜空っち?」
「さっきお昼一緒に食べてたら、夜空っちが私にいきなり言ってきたんだけど……」
「な、なんて……ですか?」
「竜介のツッコミは正直微妙」
「マジで⁉」
「ボケの方が向いているかもしれない」
「マジで⁉」
「というわけで今週の土曜九時半に駅前集合ね」
「ど…………」
どういう訳だよ⁉ って言ったら、あまりも捻りがなさすぎる! ここは……ここは何か別の気の利いたツッコミを……!
「な、なんでやね~ん! 土曜の朝はプリキュア見るから無理だお~!」
「プリキュアは日曜の朝やろがい‼ キモオタくせに何間違いとんじゃあ‼」
「うおおっ⁉」
何だ⁉ 今のツッコミ、迫力がまるで違う‼
「………じゃあ、土曜ね」
「あっ、ちょ、まっ⁉ て、早っ⁉」
百メートル走、九秒五八のスピードで走り去っていくギャル。
「……………………………………」
予期せぬ、陰キャな俺の、モテ期来る? (冬の季語、陰キャ)
竜介、心の俳句
「リュウスケ君〜ごめんね、一人にしちゃって。寂しかったぽん?」
「て、陰キャが季語ってなんやねん⁉︎」
「ええー⁉︎」
いやダメだ! こんなしょぼいツッコミ!
「リュウスケ君……どうしたぽん?」
「何でもないよ……」
「むぎゅむぎゅ、急に元気ないぽん。何かあったぽん?」
「本当に大丈夫だから!」
「むぎゅ……ぽん」
もっと力が欲しい……。もっとツッコミの力が欲しい!
「竜介のツッコミは正直微妙」
ぐっ⁉ 夜空………お前、今までそんなこと思っていたのか……!
俺はこの時、人生で初めて挫折というものを味わった。
「ボケの方が向いているかもしれない」
………………………………ボケかぁ。
しかしそれは同時に、新たな活路を見出した瞬間でもあったのだ。