幸福の絶頂?
「ブレイン‼」
アドレイン三号のエースパイロット、ブレイン中尉が目の前にいる⁉
「な、何故生きてる⁉ 死んだはずだろ、爆発に巻き込まれて………」
「あれは全て君の脳内が創り出した妄想だよ」
「馬鹿な⁉」
「事実だ」
「そ、それって……ブレイン……じゃあお前も…⁉」
「その通り、私という存在も君の妄想の産物に過ぎない」
今世紀最大の衝撃が君を襲う!
「そ、それじゃあ、ここもそうなのか? だからか、こんなおかしな場所、俺の妄想が創り出した空間なのか?」
「いや……」
ブレイン中尉は神妙な面持ちで周囲を見渡した。
「正しくは、ここは夢の夢の世界だ」
…………………………???
おっぱい。ぼいん、ぼい~ん、ぼいん、ぼい~ん。
「君が理解出来ぬのも無理はない。なんせこんなこと通常はあり得ないからな」
「あり得ないって?」
「普通、夢の中で夢は見れない。だからどうやら、何か普通ではないことが起こったようだ」
「は?」
「いいかい竜介。君が感じている世界っていうのは、ある者が見ている夢に過ぎないんだ。わかるだろ? つまり君は今現在、その夢の中で夢を見ている状態なんだ」
「知ってる! それってアザトースだろ! あの『死霊秘法』に書いてあった。この世界は万物の王アザトースが見ている夢に過ぎないんだって!」
「竜介。君が今見ているのは君の夢だ」
「エッエッ、どういうコト⁉ 俺がアザトースの夢の夢を見ている……ってコト⁉」
「違う。そうだな……わかりやすく言えば、アザトースは君なんだ。そして今君は自分の夢の中で自分の夢を見ている」
俺はアザトースだった⁉
「いや、益々意味がわからん! お前、説明ヘタ過ぎだろ!」
「…………竜介。ならば精神を集中して耳を澄ませてみろ。されば聞こえてくるはずだ。夢の夢の外の世界、本当の世界を。そして、あの子の声が……」
俺は言われた通りに耳を澄ましてみる。
…………うん、確かに何か聞こえる……。女の子の声だ、可愛らしい女の子の声……。それに老人?
ああ、ビジョンが視える!
「おじいちゃん、これからの日本はどうなっちゃうの?」
「わしにもわからん」
「将来、私はちゃんと年金をもらえるの?」
「わしにもわからん」
「日本をダメにしてきた責任は政治家だけにあるの?」
「わしにもわからん」
「ニュータイプって何?」
「わしにもわからん」
「日本で一番高い山は富士山ですが、では二番目に高い山は何でしょうか?」
「わしにもわからん」
「お前に! トンビがタカを生む気持ちがわかるのかっ⁉」
「鷲にもわからん」
「何だっけ……? 日本の伝統の紙って……ほら良く扇子とかに使われている……」
「和紙にもわからん」
「ちっ、ボケじじいが……」
「竜介! 精神を集中させろって言っただろ! 妄想を捨てろ! 妄想は全て振り切るんだ!」
ブレインの一喝で、ハッと我に返る。
そうだ、落ち着け…。落ち着くんだ…。『素数』を数えて落ち着くんだ…。
दो…तीन…पाँच…सात…ग्यारह…तेरह…सत्रह…उन्नीस…तेईस…अट्ठाईस………अलग…उनतीस…उनतीस…इकतीस…सैंतीस
それから俺はヨーガの瞑想ばりに精神を統一させた。すると………、
「ありゃ? まただぁ~」
……………聞こえる。今度こそ本当だ。てか、この声……夜空?
予期せぬエラー発生がしました。
「もう! 訳わかんないよ。どうしてこんなに不具合が発生するかな、この機械不良品じゃない⁉」
アナタよりかは正常です。
「な、なんだとぉ~⁉ ええい、この‼ 動けポンコツ!」
あっ、俺の頭がポンスカと叩かれている。
ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ。
ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ。
ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ。
「残念ぅぅぅぅう! 正解はBの北岳でした!」
北岳。山梨県南アルプス市にある標高3,193メートルの山。富士山に次ぐ、日本第二位の高峰で日本百名山の一つ。
挑戦者、惜しくも一千万円獲得ならず!
「いやぁ~あと一問というところだったんですが………! どうでしたか?」
「う~んうぅぅ、やっぱり難しぃポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ」
「そうですか。今ご家族の方と中継で繋がっておりますが、何か一言どうぞ!」
「ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ」
あはははははははははははは(会場笑い声)
「もう〜おじいちゃんたら! ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ、ポンスカ‼」
「いてててててててててぇぇぇ⁉」
頭に激しい痛みを感じ、咄嗟に目が覚める。
「はうあ⁉ な、何だ? 俺、また気絶してたのか⁉」
いよいよヤバい! この数日で何回意識を失っているんだ⁉
「もしかして一度、病院に行った方が良い⁉」
「にゃお~」
「ん?」
ポンスカ。
「何だ、コイツ?」
いつの間にか猫がいる。毛並みの良い少しポチャリとした黒猫だ。ソイツがやたらと俺に向かってポンスカしていた。
「みゃお、みゃお」
「……………もしかして、俺の頭を何度もポンスカしていたのはお前か?」
「にゃっ!」
俺は猫をつまみ上げる。
真正面にはヤツの瞳が、俺の瞳とロマンチックに見つめ合った。
「ああああああああああああああっ~にゃんちゃんだああああ~‼」
すると、お花摘みから帰って来た愛美が、枯れたコスモスを握ったままバタバタと駆け寄ってくる。
「にゃあー」
「かわいいい~! リュウスケ君、どうしたのこの子⁉」
愛美に頭を撫でられて、猫は気持ち良さそうに喉を鳴らす。
「わからない……気付けばいたんだ」
「そう。でもすごくかわいいい~」
「猫好きなの?」
「うん! 大好き!」
「そうはっきり言われると照れるにゃあ~」
……………………?
「リュウスケ君は?」
「う、うん……まあまあ好きだよ………」
「野郎になんか好かれてもうれしくねぇよ。にゃあ」
………………………………………………。
「てか、まあまあってなんだよ、まあまあって。はぁ~(ため息)全く失礼な野郎にゃね」
俺は猫を両手で持ち上げる。
再び合う瞳と瞳。
「てめぇ、今しゃべっただろ⁉ 猫のくせして日本語しゃべっただろ!」
「I can also speak English. What? NIYAO(英語もしゃべれますが、なにか? にゃお)」
「このクソ猫‼」
「にゃっー! にゃっー!」
「やめたげてよお!」
ぶんぶんとクソ猫を揺さぶる俺を愛美が必死に制止する。
「急にどうしたのリュウスケ君⁉」
「どうしたもこうしたもないだろ! コイツ、しゃべるぞ⁉」
「リュウスケ君………。猫がしゃべる訳ないでしょう!」
「ええっ⁉」
「当り前じゃない!」
「で、でも………コイツは…」
「にやぁぁ!」
「オラっ、もう一度しゃべてみせろやぁぁぁぁ!」
「にゃっー⁉ にゃっー! にゃっー! にゃっー!」
「だからやめたげてよお!」
憤慨した愛美がクソ猫を俺からひったくった。
「リュウスケ君、サイテー!」
さささささささささサイテー⁉
「どうしちゃったの? 少し………ううん、物凄く変だよ⁉ 気でも狂ったの? 頭おかしいよ! 病院で診てもらったら⁉」
噓だろ。彼女にはヤツの言葉が聞こえていないのか?
「にゃお~」
イヤ⁉ 待て……愛美に猫のしゃべり声が聞こえていないんじゃなくて……。
「にゃ、にゃお~」
もしかして幻聴⁉ さっきのは全部!
「にゃあ、にゃあ」
「…………………ごめん…俺、帰る」
「あっ、リュウスケ君!」
帰り道。
「ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい」
「何で竜介すぐ壊れてしまうん」
「わしにもわからん」
「おれ、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい、絶対ヤバい」
「待って、リュウスケ君!」
「あ、愛美ちゃん……」
「わ、私も一緒に帰る!」
「そう……」
「……………………………………………………」
「……………………………………………………」
「あ、あの…ごめんなさい……」
「え?」
「さっき……リュウスケ君にひどい言葉使っちゃって……」
「ひどい言葉?」
「…………サイテー、って」
「いや……良いよ……。別に気にしてないし……」
「私そんなこと……」
「というか、事実だし……」
「違うの! 私!」
「いいや……俺はコミュ障で……ボッチで……コミュ障だし……」
(コミュ障って二回言っちゃってる……リュウスケ君、相当動揺しているんだ)
「…………俺もこの前はゴメン…」
「ん? この前って……」
「俺は他人との距離が掴めないいいいぃぃぃ‼」
「わっ⁉」
「だから嫌われる……避けられる……コミュニケーションの仕方がうっとうし過ぎて」
(いきなり何の話し⁉)
「本当はもっと親しむべき人なのに、ビビって自分から避けちゃったりもする……」
「ビビる?」
「嫌われたくないって強く思う余り、その人と接すること自体を避けてしまう……」
「………………………逆に、この人に好かれたいと思う余り、過剰に接したり?」
俺は伏せていた顔を上げ、隣を歩く愛美を見た。
「リュウスケ君の気持ち良くわかるよ。私もコミュニケーションとか得意じゃないし」
「愛美ちゃんが?」
「うん。だって私、友達いないもん」
「そう……だね。じゃあ俺と同じだね」
「………………リュウスケ君は何だかんだ言ってクラスに仲良い人いるじゃない」
「えっ⁉ ああ……夜空のことか。アイツは……まあいとこだし………それに別に仲良くはないな」
「早乙女さんとは?」
彼女の口から意外な人物の名前が出てきて驚いた。
「あのギャル⁉」
「リュウスケ君。早乙女さんと、たまに教室で話しているよね……」
「いやいや! え、てか、この前助けてくれたばっかじゃん! あんな風に話しているって言うより、ただ一方的にいじめられているだけだから!」
「本当?」
「うん!」
「そう、なら良かった…」
「良くないよ⁉ 俺、彼女からいじめられてるんだよ⁉」
急に愛美はグッと背伸びをした。日暮れの夕日が、彼女を薄暗い赤色に照らしていた。
「でも何だか不思議だね。こうしてリュウスケ君と話していると、どうして今までおしゃべりしてこなかったんだろうって思うんだ。私達、幼馴染なのに」
彼女は寂し気に微笑みながら言う。
「ほら私達って、産まれた病院が同じ、幼稚園も同じ、小学校の頃も一年生と三年生と四年生と六年生の時は一緒のクラスで、五、六年の時の委員会は同じだったし、中学生の頃も三年間同じクラスで、部活動も同じ卓球部。それなのに、全然話したことなかったよね」
「う、うん」
「だけど……高校の入学式の後、覚えてる? 教室で少し話したこと」
「ああ、確か俺が早乙女に絡まれていて……」
「そうそう! 彼女って、あの時からリュウスケ君にちょっかいかけてたよね! 本当、腹立つ!」
「あはは……」
「死ねば良いのに……あの女…」
「は…………」
今何て?
GODFATHER「YOU、言うチャイナYO」
「どうわぁっ⁉ し、師匠!」
GODFATHER「今こそ告白のチャンスYO、好きって言うチャイナYO!」
「そ、そうですか⁉」
GODFATHER「これぞ最高の一瞬! 人生に二度ないチャンス!
彼女こそ運命の人物! 二度は会えないガールフレンズ!
それでも戸惑う心! それでも逃げ惑うこの子!
そこで師匠の出動! 未熟な弟子を先導!
さあ吉幾三! 衝動を言葉にして行動!
今こそ正々堂々! あの子のハートを振動!
果てや二人で歩むヴァージン道!
果てや結合! 果てや胎動!
果てや産道よりキッズ登場!」
感動! 師匠のラップにマジ感動!
流石師匠! OKです‼
「ビビってたのかもしれない………」
「え…?」
「俺が愛美ちゃんにしゃべりかけようとしなかったのは、嫌われたくないって思っていたからで………」
「リュウスケ君……」
「逆に、この前調子に乗ってしまったのは………………ぐっ、き、君のことが………君のことを………!」
緊張の余り、手に汗が流れる。
「………き、君のことを‼︎ す、す……」
「リュウスケ君!」
「は、はい⁉」
突然愛美が、そんな俺の汗ばんだ手を握った。
「うわっ…」
「え…」
「あっ、ううん。リュウスケ君!」
「はい!」
「私、リュウスケ君のことが好き」