表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/23

バッドエンド

「竜介、ごめんったら~」


 部屋の外から夜空の声がする。


「いい加減許してよ~」

「……………………」

「ほ、ほら夕飯出来てるから、下で食べよう?」

「……………………」

「竜介?」

「……………………」

「………返事ぐらいしてよ」


 少しして階段を降りる音が寂しく聞こえた。

 あれから俺は学校を二日間休んだ。愛美と顔を合わせたくなかったからだ。


「あ~あぁ…」


 俺って、時たま人との距離の詰め方をミスることがあるんだよな。正に今回みたいに、ついつい調子に乗ってしまって周りのことが見えなくなって…………結果、相手に過剰に接近してしまって………それでふと、こうして冷静なって……すごく後悔して………でもそれだったらまだ良い。

最悪なのが、そのまま暴走しちまってどんどん人が離れていってしまうことだ。気付けば自分の周りには誰もいない……独りぼっちになってしまう………。まあ自業自得だが、だけど……とても辛い。それなのに、同じ過ちを何回も繰り返してしまう……。

 こういうところがコミュ障なんだよなぁ……俺……。


「………………………ニャル…ニャル…ニャルラトホテプ……」


 だがそれとは別に、もう一つ学校に行きたくない理由があった。いや正確には、これは学校に行けない理由になるんだが、要は自分の意志とは無関係なのだ。

 あの日、『死霊秘法』を誤って図書室から持って帰ってしまった。それで、まあ愛美の一番のおすすめというから、学校を休んでいる間に試しに読んでみたんだが…………。

 うーん、どうやらこの本は異国の神々やら怪物やら魔術やらについて記されたもののようだが、発刊されたのが相当昔だから古い言葉遣いで書かれてあったり、原典が洋書のため直訳っぽい箇所もあって大変読みにくい。

 だけど、何だろう。妙な魅力というか、最初は意味不明な記述が多くつまらないと思っても、我慢して読み進めているうちに段々と沼にハマり抜け出せなくなっていた。書かれていることは全て荒唐無稽な神話やら迷信やらのオカルトチックなホラー話しなのだが、でも不思議と興味をそそられ、気付けば何時間も読み込んでしまうのだ。

 事実、俺はこの二日間、食事も睡眠も忘れてずっと『死霊秘法』を読みふけっていた。まるで呪いだ。一度読み始めたら、やめられない、とまらない。


「……………かっぱえびせん?」


 そして翌朝、ようやく読み終える。

 ぶちゃけ、書かれていた内容の九割も理解出来なかったが、それでも読み切ったという達成感は心地良く、それでいて同時に………………一割でも理解してしまったことによる狂気と恐怖から俺は崩れるように失神してしまった。



「あれ?」


 予期せぬエラーが発生しました。


「あっ、接続が切れちゃってる。どうして?」


 バギープログラムを検知しました。


「うーん…」


 ウィルスバスターを起動中…。


 問題が発生したため完了出来ませんでした。


「何だ、このポンコツは⁉ もう~めんどくさいからリセットして再開しよう!」


 データを消去…。


 再ダウンロード…。


 進行状況の同期中…。


 完了。


『コミュ障インキャぼっちなアナタのためのラブ恋?シミュレーション』再開



 ピコーン。

 スマホの通知音で目を覚ます。


「メール?」


 むぎゅむぎゅ元気だぽん?

 最近リュウスケくんと会えなくてさみしいぽん

(´。_。`)

 明日、歴史クラブの活動があります。

 もし体調が良ければ、ぜひ参加してください。

 iPponeから送信

 安藤愛美

 

「……………………………………………………」

 

 スマホで日付を確認する。

 明日って、日曜……。はあー、てか俺、丸一日寝てたのか。

 ん~あれ? そういえば何か変な夢を見ていたような気がするけど……。どんな夢だっけ? 


「…………ダメだ、覚えてねぇや」


 部屋が暗かったので電気を付けた。それにしても少し寒い。だけど暖房を付けるまでもないので、俺は近くの毛布を寄せた。


「ちょっと、私の毛布取らないでよ!」


 だが隣で寝ていた夜空にすぐ奪い返されてしまう。


「あ、わりぃ、わりぃ」

「もう、プンプン」

「ははっ…」


 夜空はあざとい仕草で……、


「って………何でお前がここにいるんだよ⁉︎」

「むぅ~」

「どうやって入って来た⁉︎ 鍵が掛かっていたはずだろ!」

「ドアノブごと壊した」

「はぁ⁉」

 

 見てみると、本当だ…。ドアノブが無惨にへし折られている。

 

「噓だろ……」

「もう~電気消してよ。眠れないじゃん!」

「うるせぇ、起きろ! そしてさっさと部屋から出てけ!」

「いや~」

 

 俺は夜空を無理やり起こそうとするが、やっぱコイツのパワーはおかしい⁉ 普通に力負けしてちっとも動かせねぇ!

 

「動け、このデブ!」

「デ、デブ⁉」

「お前の重てぇ体がベッドに根付いてて動かねぇんだよ!」

「な、何を、自分が非力なだけじゃない! このひ弱男!」

「何だと⁉ やるか⁉」

「上等!」

 

 俺達は互いにファイティングポーズを取って向かい合った。が、その時、

 ピコーン。スマホが再び鳴る。

 

「ちょ、タンマ」

「おらおら、どうした竜介。今更おじけついたのか?」

「メールが来たんだよ。ちょっと待ってろ」


 何度もすみません。

 明日の集合時間と場所を伝え忘れていました。

 時間は十五時で、場所は学校の図書室でお願いします。

 リュウスケくん来てくれたら愛美ウレシイぽん

(*/ω\*)

 むぎゅむぎゅ、でも無理はしないでほしいぽん☆

 iPpo      安藤愛美


「誰から?」

「……………愛美」

 

 すると夜空もポケットからスマホを取り出す。

 

「私にも届いてる」

「愛美から?」

「うん、ヘンテコ眼鏡ちゃんから」

「何だ。お前達、連絡先を交換したんだな」

「まあね。私もダサダサ眼鏡ちゃんのクラブに入ったから」

「マジかよ⁉」

「ダメ?」

「まあ、別に…………ん?」

「どうしたの? そんなマヌケな顔して」

「………あれ? でも考えてみりゃ、何で愛美は俺の連絡先を知ってんだ?」

「何故って、そりゃあ私が教えたからだよ」

「ああーそう……。いや……え? そもそも何でお前が俺の連絡先知ってんの?」

「そんなことより、戦いの続きはどうした? 何だ、急に怖くなったのか?」

「いやいや誤魔化すな! もしや、お前見たんだろ⁉ 俺のスマホの中身を勝手に見たんだろ⁉」

「………………………………」

「黙ってねぇで正直に言え!」

「………………正直に言ったら怒らない?」

「いや、怒る」

「じゃあ言わない」

 

 夜空がソッポと顔を背ける。


「お前、絶対見てんじゃん……。俺に怒られるのを怖がるって、それ見てるってことじゃん! でも、どうやってロックを解除したんだ⁉ まさかさっきのドアノブみたいに、ぶっ壊して強引に突破する訳にはいかないだろうに……」

「………………………………」

「怒らないから言え」

「マスターがいつも使ってるパスワードを試したら開いた」


 …………………マジかよ。もしかして未来の俺、セキュリティ意識低過ぎ⁉ 何年同じパスワード使い回してんだよ……。


「でも安心して☆ 別に竜介の秘蔵エロ画像とかは見てないから」

「うっ……当たり前だろ。てか、ねぇよそんなもん」

「え~本当~?」

「…………お前、本当に見てねぇんだよな?」

「…………………………。うん」

「何で少し間を空けたんだよ⁉ 見ただろテメェ!」

「イエ、マッタク」

「片言になってんじゃねぇか!」

「ワタシ、ロボットダカラ、トウゼン」

「ふざけんな‼」

「おうおう、やるか?」

「上等だ、ゴラァ!」


 俺達は再びファイティングポーズを取る。


「本当に良いのか? 私がマジでやったら、お前なんかこうだぞ!」


 と、夜空は勢い良く壁に向かってパンチした。


「フンッ‼」


 すると凄まじい衝撃波が周囲を振動し、次には壁が一面ひび割れて中心にぱっくりと大きな穴が開いた。


「これがお前の三秒後の姿だ」


 この女……ヤベエ………。何の躊躇もなく他人の家の壁に穴を開けやがった。


「わかったか?」

「……………………お母さん! 夜空が!」

「黙れ」


 ピシュ。

 夜空の拳が目に見えぬスピードで俺の頬を掠る。


「どうしたの~?」


 下の階から母の声。


「ううん。何でもないよ、叔母さん~!」

「そう? でもさっき大きな音がしたけど~」

「竜介君と、ちょっとふざけ合ってたのー!」


 それから夜空は目配せをして「何か言え」と俺に指示する。


「…………うん。何でもない……」

「そう、二人とも仲良くするのよ~」

「は~い」


 シュッ。シュッ。


「はい、ワンツー、ワンツー」

 

 そして唐突に彼女は目の前でシャドーボクシングをしだす。顔面スレスレに繰り出されるパンチの一つ一つから重い風圧を感じる。ありゃあ一発でも当たれば、俺のイケメン顔がペチャンコに潰れて台無しになってしまうな……。


夜空に謝りますか?

はい

いいえ

………………………………………。

はい←


「…………すみません」

「んぅ~?」

「正直、調子乗ってました」

「そうかい、そうかい」


 シュッ、シュッ。シュッ、シュッ。


「あの……」

「謝れ」

「え?」

「私にデブって言ったこと謝れ」


 今、謝ったじゃん…⁉


夜空にもう一度謝りますか?

はい

いいえ

………………………………………。

いいえ←


「本心で言った訳じゃありません。ただドラえもんみたいで可愛いなぁ~と……いえ見た目じゃなくてキャラ的に……」


 刹那、腹に激痛が走る⁉


「このスリムボデイのどこがドラえもんだ‼」


 それからワンツーと、アッパー、顔面ストレートをくらう!


「死ね!」

「すす、す、すすすみませんぅうううううう‼ 本当にすみませんぅぅう‼ 全部謝ります! 僕は人間のクズでした! 夜空様をデブって言う僕の目は腐っていました! お、お願いです、助けてください! 命だけは‼」


 溢れ出る鼻血を抑えながら必死の命乞いをするが、


「もう遅い! 一回、じっくり頭を冷やしてこい!」


 彼女は容赦なくトドメの一撃をくらわす。

 FINISH。竜介は目の前が真っ暗となった!


『コミュ障インキャぼっち☆なアナタのためのラブ恋♡シミュレーション』完


「…………………ばーか、ばーか」


ロード中…。


「はうあ⁉」

「それで、どうすんの?」


 何だ? 今の⁉


「ねえ、ねえ~竜介?」


 視界が暗転した直後に変なタイトルロゴが見えたような……。


「ねぇってば!」

「ヒィ、すみません‼」

「はぁ~?」

「エッ?」


 夜空が訝しげにこちらを見ている。


「どうすんのって言ってるの!」

「な、何が…ですか?」

「明日のクラブ活動!」


 ああ、クラブ活動………いやいや! そんなことより俺、確かコイツに殺されたよな⁉ え、何でコイツ平然としてんの⁉ 


「行くの、行かないの?」

「え……まあ、正直…………行きたくない……かなぁ」

「じゃあ行かなきゃいいじゃん(いいじゃん)」


 そう言うと、殺人犯は隣に寝っ転がってポチポチとゲームをし始める。


「…………夜空さん?」

「んぅ~?」

「あの……本当にすみませんでした!」

「うむ。よろしい許してやろう」

「マジすか!」

「うん。でも何のこと?」

「何のことって……そりゃあ、あれですよ…………」

「はてな?」


 彼女はゲーム画面から目を離さず、ただ首だけをちょこんと横に傾ける。


「…………え、覚えてないんですか?」

「うーん」


 夜空は、いかにも興味なさげに返事をする。


「夜空さん?」


 これは…もしかして………彼女わざと素っ気ないふりをして! このまま全て水に流してくれるつもりなのか⁉

 だとしたら、なんてお優しい方‼


「ありゃ~、選択肢を間違えてバッドエンドにいっちゃった~」

「夜空……様!」

「きゃあ⁉ な、なにを⁉」

「足をマッサージいたしやす!」

「うぇ、きもい。ちょっとやめてよ!」

「へへ……いや~相変わらず、お美しい体をしていますね。スリムで、セクシーで、ナイスボデ………」

「やめてって言っているでしょうが!」


 直後、彼女のDEATH KICK(死を招く足蹴り)が俺のおでこド真ん中に直撃した。


「たくっ……この変態! …………え、噓……竜介?」


 ふっ、だけど今度はどうにか即死的致命傷を避けられた…………が、ウッ⁉ それでも打ちどころが悪かったらしい……。


「竜介⁉ 竜介ぇ―‼」


 脳・し・ん・と・う。再び意識が薄らいでいく。


「ははっ……はは……」


 ……またかよ…。

 俺は口から泡を吹かして、そのまま気を失った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ