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1章 凡人


 1章 凡人


「ミスター・ブレント。今後のオールストン財閥の動きですが――」

「我々オールストン財閥としては今後のエネルギー問題を鑑みて――」

 

 四十代後半のダブルスーツを着た男。

 整えられたブルネットの髪をオールバックにしている。

 貫禄のある姿はまさしく財団のトップと言うべき姿だろう。


 ブレントと呼ばれた男が記者達の質問に答える。

 

 成人前にオールストン財閥を作り上げた天才児。

 ブレント・オールストンの舞台。


 秘書であるサイラスは舞台袖でそれを見ている。 

 

「ミスター・ブレント。弟さんの行方は」

「さてね、パパラッチが教えてくれるんじゃないかな」


 そう言って記者会見は終わった。


 ●


 サイラスは孤児院の出である。

 経営者が犯罪で捕まり、ブレントに引き取られた。

 

 ブレントは自分と同じような天才児を何人か引き取っている。

 サイラスはただ一人の凡人だ。


 ●


 記者会見が終わり、終業の時間を迎えた。

 財団のビル正面玄関に黒塗りの高級車が止まっている。

 

「私達はもう一つ済ませてから帰るよ。君はもう上がってくれ」

「はい。お疲れ様ですミスター・ブレント」

「……夕食には間に合わせる」

 

 高級車の窓が閉じられる。

 会場に向かう車を見送りサイラスは家に向かう。


 会社から家はそう遠くなく、歩いて帰るのが常だ。

 他の子達が使っている様な仰々しい送り迎えはどうにも慣れなかった。


 帰宅ラッシュなのだろう、人が多い。

 

 途中にある屋台でホットドッグを買う。

 どこか座れる場所がないかと探していると背後から声をかけられた。

 

「ミスター・サイラスですね?」

「?」

 

 振り返ると警察官が居た。

 長い金髪を結んでいるが男である。


 帽子であまり顔がよく見えない。

 ええ、とサイラスが返事をすると男は透明な袋に入った手紙を渡してきた。 


「とある事件の捜査で郵便局から押収していた物だったのですが必要な手続きが終わりましたので返却に」

「ああ……そうですか、それはわざわざ」

 

 袋を開けて中身を確認する。

 捜査の為に開けられたのだろう、既に封は切られていた。

 

「……!?」


 差出人はアリンガム孤児院。

 中には何かの鍵と二つ折りにされた手紙が入っている。


「これは」

「では、確かにお渡ししました」

「え、ええ」


 警官がパトカーに乗り込む。

 運転席には小太りの、恐らく刑事であろう男が座っていた。


 手紙を開こうとして思い留まる。

 ここでは開けないと、ポケットに突っ込んだ。


 ホットドッグを急いで流し込み、サイラスは家に向かって走る。


 ●

 

「お帰りなさいませ、サイラス様」

「ただいま帰りましたセバスチャンさん」


 広い中庭を抜けドアを開けると執事のセバスチャンが出迎えてくれた。

 六十も半ばであろうこの執事はいつ見てもシャッキリしている。


 大理石の広い廊下を歩く。


 サイラスはリビングに向かいながらブレントの予定を伝える。

 夕食には間に合わせる、と伝えると、ではそのように、と返ってきた。


 リビングに入ると珍しい顔があった。


「お、おかえり」

「警察は今忙しいんじゃないの?」

「休憩だよ休憩」

 

 ベッドのようなソファーでくつろいでいるのはチェスターだ。

 大画面のテレビでニュースを見ている。


 イライラしたように茶色の髪を弄びながら食い入るように見る様はどう見ても休憩ではない。

 サイラスはチェスターに飲み物を渡しながら隣に座った。


 チェスターは大学を飛び級で卒業した天才である。

 そんなチェスターでも手こずるのか、とサイラスは画面を見る。


 ニュースはもっぱら美の幼体事件だ。


 美の幼体事件。

 セレブを中心に狙う連続殺人事件だ。


 サイラスにはそれ以上の情報は入ってこない。


 ニュースキャスターが神妙な顔でニュースを読み上げている。

 専門家が嘘か本当か判らない推測を並べ立てている。


「美の幼体……」

「何だよ幼体って……成体もいるのかよ……」

「?」


 チェスターの言葉に疑問を覚える。


「知らないの?」

「えっ」


 あれ、とサイラスが話を続けようとした時。


「サイラス」


 明らかな静止の声。

 ブレントが二人の間に割って入った。


「ブレント?」


 それ以上は決して言うなと言わんばかりの所作に戸惑う。

 チェスターの方を見ると今は止めておこう、と首を振られた。


「晩御飯が出来たぞ」

 

 取り付く島も無くダイニングへと向かってしまう。

 サイラスはポケットの中の手紙を握った。


 ●


 昔の記憶だ。

 それが生まれた日の記憶。


 孤児院の小さな教会。

 本来、花嫁が歩くヴァージンロードを子供が歩く。

 

 席に座っているのは品定めする大人達だ。

 自分達が引き取るにふさわしい子供かを見る大人達。


 着飾られた子供達が次々と歩いていく。

 サイラスは隣に立つ少年の手を取る。


 ●


 夕食を済ませ、部屋に戻る。

 急いで手紙を開く。


『あの教会で。ローレンスより』


 そっけなく書かれた手紙からは甘い匂いがした。

 香水の匂いだろうか。

 

 とにかくあの教会へ、と考えた所で先程のブレントの態度を思い出す。

 間違いなく許可は下りない。


「……」


 ならば寝静まった時を狙う。

 一度部屋を出て、リビングに居るブレント達の様子を窺う。


 ブレントが家に居るという事はボディガードのジェフも居るだろう。

 流石に本職のボディガード相手に完全な隠密が出来るとは思っていない。


 三人が何か言い争っている様な議論している様な声が聞こえた。

 そこそこ白熱はしているようだがこれでは難しい。


 仕切り直そうと踵を返すと何かにぶつかった。


「!?」

「おっと」

 

 目の前にあるのはブレントと同じ顔だ。

 だが纏う雰囲気は明らかに違う。


「どうしたサイラス、夜遊びか?」

「……レスター?」

 

 明らかに居る筈の無い人物にサイラスは目を丸くした。

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