旅は道連れ
「随分、派手にやってくれたねぇ。頼んだのはこっちだけど」
雑貨屋の店主が苦笑いしながら、ため息をつく。
あの後、クウスとカリオッツは酒場のマスターに店の弁償代を請求され、雑貨屋の店主を召喚した。
店主は自分が頼んだことが発端なので、酒場の弁償を約束した。予想以上に酒場の被害が大きかったので、彼のため息は止まらないが。
ちなみに、あれから一日経っている。
ガノやチンピラ達は気絶していたため、医者のところへ運んだり、酒場のマスターの説教を受けたりしている内に日が暮れてしまったのだ。
前日と同じ宿に一泊して朝食を食べてから早速、報酬を受け取りに雑貨屋へ赴いたのだ。
クウスとほぼ同じタイミングでカリオッツも雑貨屋に訪れ、現在二人は雑貨屋の店主と話していた。
「それで、おっちゃん。ガノはぶっ飛ばしたんだから、本はオレにくれるんだろ?」
そうクウスが切り出すと。
「待て。お前がガノを倒せたのは、俺がチンピラ共を抑えてやったからだ。俺にも権利はあるだろう」
カリオッツがすかさず、自分の権利を主張する。
「〜〜! ぶっ飛ばしただの、倒せただの、本人の前でうるせえぞ!」
店主の後ろで、商品の入った箱を運んで並べていたガノが怒鳴る。
そう、ガノはクウスとの約束を守り、とりあえず実家の雑貨屋を手伝い始めたのだった。
「はは、何はともあれ息子が働き出したことには、とても感謝してる。二人ともありがとう。……だが、本は一冊しか無いしどうするかな? とりあえず本の中身を読んで、知りたいことが書いてあるか確かめてみたらどうだ?」
店主が解決になるか分からないが提案し、クウスに本を渡す。
「それもそうだな。どれどれ」
クウスは本を受け取り開いて見た。
しかし。
「………………読めない」
読めなかった。
本に記されている文字は、明らかにクウスがモリー婆に習った言語とは異なる。
「俺にも見せろ」
カリオッツが横から本をひったくって、ページを捲る。
「……読めないな。これは古代言語か」
カリオッツも読めないのはクウスと同じだが、言語には思い当たるものがあるらしい。
「二人とも読めないのか。そう、それは古代言語で書かれた本だよ。
私もほとんど読めなくてろくに内容が分からないから、30万と安い価格で売っているんだ。内容次第では、数倍の値がついてもおかしくないんだが」
どうやら店主も読めないらしい。困った。
「う〜ん。おっちゃん、この町に古代言語を読めるやつはいないのか?」
「フチには居ないなぁ。元の持ち主だった、亡くなった爺さんぐらいだ。後はウルカの図書館にでも行くしかないだろう」
ウルカとか図書館とか、クウスの知らない単語が出てきた。
「ウルカ? 図書館? そこに行けば読めるやつが居るってことか?」
「読める奴というか、読むための辞書がある。ってことだな?」
カリオッツが店主に聞く。
「そう。ウルカって言う街は学術都市なんて呼ばれているぐらい、学術の盛んなところでね。沢山の本が集められた図書館がある。そこなら、古代言語の辞書があるだろうから、その本も読めるはずだ」
「へえ、ならウルカってとこに行くか。赤髪、じゃないやカリオッツだったな。お前はどうする?」
「俺も当然ウルカに行く。封印魔術に関する本はそうそう無いし、古代言語のものなら尚更貴重だ。……本の所有権は半々ってことにして、旅をするか」
目的地が同じだから一緒に旅をしようってことか。
「ああ、それでいいぞ! 次の目的地はウルカか。どんな所か楽しみだ」
クウスは次の街への期待を膨らませていく。
「へっ、浮かれて魔物に喰われんじゃねえぞ」
ガノが茶々を入れる。
「うっせえなぁ。あ、お前元兵士なんだっけ? ウルカに行く途中で強い魔物とかいるのか?」
「俺は王都勤めだったから、ウルカの方はよく知らねえ。まあ、てめえらは俺よりも強えから大丈夫じゃねえか?」
「ふ〜ん。強い奴がいたら戦いてえなー」
クウスがまだ見ぬ強敵を想像して呟くと、ガノの眉間に皺が寄り、目つきが鋭くなる。
「おい、一つ忠告してやる。世の中には信じられない化け物共がいる。魔物だけじゃねえぞ、人間もだ。もし、出会っちまったらできる限り戦闘は避けろ。何なら逃げてもいい。
……俺は王都で嫌と言うほど現実を知った。てめえらもいつか知るだろうよ」
王都での出来事を思い出しているのか、ガノの表情は暗く重い。
クウスからすれば、ガノは中々強かった。素手での殴り合いだったので、兵士の戦闘とは違うだろう。それでも魔人化しないまま戦っていれば負けはしなくても、良い勝負にはなったはずだ。
そんな男が、まったく通用しない相手がいる。
「へっ、面白えじゃねえか。化け物でもなんでも、敵なら全部ぶっ飛ばすだけだ」
クウスはワクワクしていた。集落にこもっていては味わえない、楽しさやスリル、期待や不安。
そんな化け物がいるなら、いつか王都ってとこにも行ってみるか、と考えていた。
「ふん、そうかよ」
クウスのギラギラした強い目を見て、ガノは商品の陳列に戻った。言いたいことは言ったのだろう。
「まあ、町の外はどんな危険があるか分からないから気をつけてくれ。昨日も物騒な噂を聞いたから」
店主があらためて、注意を促す。なんでも、昨日町に来た旅人が、荒野で魔物の死骸を大量に見つけたらしい。叩き割られていたり、焼かれていたり、切り裂かれていたり、ひどい状態だったそうだ。
クウスはもしかしてと思ったが、何も言わなかった。
「よし! いざウルカへ出発だ!」
心配する店主をなだめ、クウスは意気込む。
「買い出しが先だ。ウルカまでの経路も調べてからだ」
さっそく、同行者に出鼻をくじかれるクウスであった。
「なんだよ、水差しやがって」
「俺の方が旅の経験は積んでそうだから、仕切らせてもらう。多分、年も俺が上だしな」
「お前いくつだよ? オレは15だ」
「俺は19だ。まあ仕切ると言っても、お前が旅に慣れるまでだ」
カリオッツの年齢は19らしい。クウスは15なので4つ違いだ。
なんだか気に食わないが、確かにクウスは知らないことが多い。早く旅に慣れようと心に決めるのであった。
カリオッツは雑貨屋で携帯食料や、本を雨から守るための薄皮の袋などを買った。
携帯食料はロイホ棒という名で、穀物、果実、脂、肉、野菜など栄養のある食材を、適当に味付け練って成形し、鮮度保存の魔術を直接かけた物らしい。
クウスも初めて見たロイホ棒が気になり、一日分である三本だけ買ってみた。価格は一本あたり300リーセ、銅貨3枚だった。
雑貨屋を出た後、通りにあったパン屋でその日の昼食を買い食いし、いざ町を出る。という所で、クウスが立ち止まった。
「あっ! オレ、まだ冒険者になってねえ!!」
クウスは町に着いたら冒険者になるつもりだったのに、初めての町に浮かれ、すっかり忘れていた。
「……冒険者登録なら次の街でやれ」
「なんでだよ。俺は早く登録して、じいちゃんを超える冒険者になりたいんだ! それに、登録はすぐ出来るって聞いたぞ?」
ノーマンから冒険者登録は無料ですぐ出来ると、聞いていた。
「登録自体はすぐだが、冒険者証は登録しても銅級に上がるまでは身分証として使えない。それに登録した町でしか有効じゃない。ここで登録しても、次の町に行ったら登録し直しになるぞ」
「ええ? それはやだな。あ、ここで登録して銅級ってのになっちゃ駄目なのか?」
「銅級への昇格は時間が掛かる。特にここは小さな町だ。依頼の数は少ないし、魔物もあまり出ないだろう。
だが次の街、ツァムルは大きなところだと店主が言っていただろう? そっちで登録した方が早く銅級に上がれるはずだ」
冒険者登録がお預けになるのは残念だが、話を聞く限り、カリオッツの言う通りにした方が良さそうだと、クウスは納得した。
「うーん、じゃあしょうがないか。よし! とっとと次の街に行くぞ!」
クウスが足早に町の出口へ歩いていく。
カリオッツは嘆息し、その後を追って行った。
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