第88話 デートをしましょう!
モチベあるうちに投稿しておきます!
8月6日
とある女子寮の一室。
トントントン、と扉を叩く音が響き渡る。
「新興宗教の勧誘なら、リアラという子がオススメ………ん?」
「なに平然とリアラさんを売ってんだ。邪魔するぞー」
「…………あー、オッケー」
「…っぼへええええ!!」
俺は自然を装って強引にシャルの部屋へ足を踏み入れたところで、ようやく事態を把握したシャルの特大風魔法によって反対側の壁にまで吹っ飛ばされる。
「な、何してんの!?仮にも彼氏ともあろう者に向かって放つ威力じゃないんだけど!」
「こっちのセリフよ!!なにを往年のカップルみたいにしれーっと私の部屋に入り込もうとしてんのよ!!」
「待て待て、お前だって俺の部屋に勝手に入ってきたことあっただろうが!」
「あれはいいのよ、だって私だもの!これはダメなの、だってあなたというバカあほどじ間抜けだもの!」
「悪口小学生か!?対比で分かりやすく俺を差別すんな!」
とはいえ女子寮でこれ以上騒いでいると通報されかねないので、ひとまずお互い矛を収めて俺は正座の姿勢で玄関の扉越しにシャルと話をする事にした。
「…で、本日の要件は?というかよくここまで来れたものね」
「…まぁ学長先生が裏で手を回してくれてたらしくてな、警報システムがあるのは知ってたけど意外にすんなり来れたぞ」
「…学長先生?あの人が絡んでいるというならば、いったい全体どういう要件で…」
「デートをしましょう!」
その瞬間、空気が凍りつくのが分かった。
俺と会話をするためにあえて扉の隙間を開けていたシャルであったが、そっと扉を閉じるのを見て俺は咄嗟に両手の掌を挟み込む。
「……いてっ!」
「………………」
「いてっ!えっ、この人無言で俺の掌を真っ二つにしようとしてくるんだけど!?やめ、やめろ、やめろ!」
「あなたがふざけた事を言うからよ。さっさと掌真っ二つになりなさい!」
「せめて手をどけろって言えよ!なにを積極的に真っ二つにしようとしてんだ、お前!うがあああ!!!」
俺の断末魔が響き渡る女子寮から、後日学長先生を通して苦情が寄せられた事は後の話。
とりあえずそんなこんなで俺は今日、シャルと付き合い始めてから初めての学外デートに出かける事となったのである。
****
時は少しだけ遡る。
俺は寝起きで背中を伸ばしながらトイレに向かう道中、視線の端にそれを見つけて固まった。
俺の部屋の玄関先、そこに札束がボンっと置かれていたからである。
「……そうかそうか、これは常に模範的な学生として生活をしてきた俺にだけ現れる、返済不要の奨学金というやつだな。一緒に面倒くさそうな手紙も添えられてるけど、金だけ受け取ってこの手紙は突き返そう」
と、現実逃避のために言うだけ言ってみたが当然無視できるはずもないので、俺は金には手をつけずに手紙だけを拾い上げてその中身を読んでみる。
『前略。シエル・デストロイヤー殿……』
「俺デストロイヤーついてないよ!?誰とごっちゃになってんだ」
『なーんてね、冗談冗談。テヘペロリンリン♪』
「この人1人で楽しそうだな…」
俺は早速これ以上読む事をやめようかと思ったが、気を持ち直して読み進める。
『早速本題だけど、あなたには一つお使いを頼みたいの。代金はそのお金で事足りるとは思うけど、お釣りが出たらその分あなたに譲渡します。もちろん返済は不要よ』
「え…マジで!?よっしゃあああ!!なんだこの人神か!?」
『もちろん私は神じゃないわ』
「なんだこの手紙、完全に俺の心読まれてるんだけど!?」
しかし俺は甘い話には必ず裏がある事を知っている。
手紙と札束を見比べてから改めて手紙を読み進める。
『そして今回のお使いには必ずシャルロッテさんを誘う事。彼女はきっと、今回役に立つわ』
「…………」
…ここか。
恐らくこれが手紙の主の本題だ。
俺に金を握らせてまで企んでいる事。
この手紙の主はシャルの魔力を利用しようとしている、もしくは……
『それとあなたに以前話した例の件が、もうすぐで動き出します。この学園は今危険だから今日一日、彼女をこの学園から引き離しなさい、これは学長命令です』
そこまで読んで一旦手紙をパタリと閉じた。
俺の知らない所で何かが既に動き出している。
俺は右手に巻かれたミサンガにチラリと視線を落としてから、立ち上がって部屋の真ん中にどっしりと腰を下ろす。
そして手紙の続きを読み進めていくのであった。
****
「……それでここはどこ?」
「ここはオミチョー横丁!市民に愛される市場でもあり、オタク好みのニッチなアイテムも勢揃い!デートスポットにうってつけな場所だな」
「へぇ…」
ジト目でこちらを見てくるシャルだが、玄人ぶってる俺も当然こんな場所には来た事もなければ名前だって今日初めて知ったばかりだ。
しかし学長からの手紙には確かにこの場所を指定されており、辺りをキョロキョロしながら地図と睨めっこをする。
この市場、やはり相当に人気な場所のようで、人混みに押されて早速迷子になりそうだ。
「人も多い事ですし、さっさと用事を済ませてお使いを終わらせましょ」
「あぁ、しかしこの市場ムダに広いせいでどこに目的の場所があるのか…」
俺は両手で抱えるようにして学長から預かった大金を死守している為地図が読みにくいったらありゃしないが、そんな俺を見兼ねてかシャルが地図を奪って顔を顰めながらルートを考えていく。
どれだけカッコ悪いと思われてもここで大金を誰かに盗まれて厄介事に突っ込んでいく、みたいな王道ラノベあるあるの展開だけは避けなくてはいけない。
俺はシャルに言われるがまま、その後ろ姿をついて行く事にした。
するとくるりと後ろを振り向いたシャルはおもむろに左手を差し出してきた。
左手に巻かれたミサンガに一瞬目を奪われるがシャルは間を空けずに言う。
「ほら」
「ん?カツアゲなら間に合ってるけど」
「誰がこんなタイミングでカツアゲするか!そうじゃなくて……ほら、迷子になったら面倒じゃない…だから、その…」
シャルは地図を持った右手で前髪をいじりながら言いづらそうに言葉に詰まっていたが、俺にはすぐにその意味が分かった。
俺はすぐに笑顔で右手を差し出すと、シャルの左手を掴んでシャルの隣へ駆け寄る。
その様子を見たシャルは何を言うでもなく前を向いて歩みを再開すると、俺も何も言わずにオミチョ―横丁の街並みに目を移す事にした。
いつもは冗談を言い合ってる間柄のはずなのに、こういう方面になると相変わらず不思議な関係になってしまう。
しかし今はきっと、これでいいのだろうとも思う。
俺はシャルの歩幅に合わせながら学長から預かった大金を脇に抱え直し、本格的にデートをスタートしたのであった。




