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クソラノベの世界に転生した俺は原作を破壊する事にした  作者: 雪本 弥生
第二部 クソラノベの向こう側 プロローグ
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第87.5話 幕間 夏休みの宿題は計画的に

幕間も夏休み編突入です!


溜め息をつきながら私は、教室の扉に手をかける。

中に奴らがいる事は分かっているのだけど、不気味な静寂がその場を支配していた。


「……なによ」

「シャルロッテ君、待っていたよ。ここへ」

「……またおかしな世界観つくっちゃってるよ、この人ら」


教室の中で待っていたのは中央でサングラスをかけ、机に両肘を立てて口元を隠すヘンリと、横で腕を組んで私を待ち受けるシエル、そしてシエルの向かいで眼鏡をかけてペンを握るアレクと、きょどきょどと目を泳がせているリアラさんだった。


要するにいつものメンバーなのだが、夏休みだというのに教室に呼び出された私はとりあえず言われた通りに座る。



「……それで、今日は一体何の用事だと言うの?くだらない事だったらはっ倒すわよ」

「ふっ、落ち着きたまえシャルロッテ君。今回君を呼び出したのは、とある噂の真偽を確認したかっただけなのだよ」

「噂?……というか、私も普通に受け入れちゃったけど、あんたは一体誰の設定なの…」

「黙れ小僧!」

「いや、小僧、ではないんだけど……」


どうやらヘンリの中でもキャラは定まっていないらしい。

私は助けを求めるようにシエルへ顔を向けるが、シエルはおもむろに手を挙げるとその場で起立する。


「議長、ここはわたくしめに任せてもらってよろしいでしょうか」

「うむ、頼んだ」

「議長設定なのね。尚更さっきの『黙れ小僧』は一体何だったのよ…」

「我々が掴んだ情報によると、このシャルロッテ……いや、仮に『ボマー』と名付けましょう。彼女は……」

「いや、そんな爆弾魔みたいな仮称つけないで!?本名分かってるんだから、そっちで……」

「うるさいぞ、4242番!」

「囚人番号みたいに呼ぶな!あと私の番号が『死に死に』で不穏過ぎるのよ!」

「ちなみに俺は5353番だ」

「自分の番号くらいもっといいのつけなさいよ!どんな自虐ネタよ!」


私は声を荒げるが、周りは何事もなかったように進行を続ける。

普段こんなツッコミキャラじゃなくてツンデレ美少女キャラでやっているはずなのに、営業妨害甚だしいものである。


するとシエルは私に向かって一冊のノートを見せてくる。


「こちらは、リゼ先生が夏休みに入る前に配ってくれたノートだ。もちろんシャルロッテ君も持っているな?」

「ええ、一応夏休みの宿題だし……」

「そう、夏休みの宿題だ。このノートは絵日記の宿題だが、これの他にもいくつか問題集を解かせる宿題があったよな?」

「そう、ね。だからなんなのよ……」


ここまで言って私はなんとなく話の展開が分かって、口を閉ざす。

しかしシエルは続ける。


「これは噂なのだがね、シャルロッテ君。君は……この絵日記以外の夏休みの宿題を、夏休みに入る前日に全て仕上げていたというのは本当か?」

「……本当だけど」


「う、嘘だろ」「まさかそんな人類が存在するとは…」「そ、そんな事、普通の人間にできるんですか?」「特殊な訓練でも施されているのかも……」


まるで信じられない人外を見るような視線で私を見てくる奴らにため息をついてから、私は反論する。


「別に、普通の事でしょ!少しでも夏休みをゆっくりしようと思って、早めに手をつけていただけで…」

「いや、大事なのは経緯ではなく、結果なのだよ。つまり君は既に夏休みの宿題を既に終わらせている、という事で間違いはないな?」

「間違いはないけれど……だから何よ」


「…一生のお願いだ。俺達に宿題を教えてくれ」

「絶対嫌です」


こういう事だと思った。

私はそうと決めればさっさと逃げようと席を立った所でヘンリが私を引き留める。


「シャルロッテ君。ただでさえ補習でダンジョンを潜る暇なく奴隷のように勉強を強制されている俺に、夏休みの宿題を完遂する事ができると思うか?」

「まぁ、頑張ればいけるんじゃ…」

「いや、できない!!」

「なに今日一番の大声で断言してんのよ!もっと頑張りなさいよ!」


補習という言葉に連想してリアラさんの方へ振り返ってみると、リアラさんは記憶を思い出しながら言う。


「ん、え、えと、私は毎年頑張ってはいるんですけど、なぜか夏休み最後の日に全部まっさらで宿題が残ってるんです」

「うん、それはただの野比のび太君なの。ただサボっただけじゃ…」

「きょ、去年は、夏休みの工作の宿題で、『満月の塔』を造ってたら、夢中になっちゃって…」

「塔!?え、あなた中等部で塔作ってたの!?あ、思い出した、確かに夏休みの宿題で全長20メートルの塔を造ってきたアホがいるって去年話題になってたわ!」

「うっへへへ、それほどでも、ぜ、全然ないですから」


照れたように頭を掻くリアラさんと、すごいなぁと褒め称える周りのあんぽんたん達。


「いや、ヘンリとリアラさんはともかく、シエルとアレクはちょっと頑張れば一人でもできるでしょ?この二人の補習組の面倒を見てあげれば…」

「はぁ、これだから素人は。俺らが夏休みの最終日以外に、頑張る、なんて事するとでも思っているのか?」

「当然のように、夏休み最終日に一夜漬けをする未来しか見えないよね」


誇らしげに言い切るズッコケ二人組。


とはいえ既に宿題のほとんどを終わらせてしまっている事を知られている私が、こいつらの頼みを頑なに拒んでしまえば小さい女と思われてしまう可能性もある。

私は再び着席して頬杖をつく。


「……分かったわよ。仮にあなた達の宿題を手伝うとして、私はいったい何を貰えるのかしら?」

「10分の肩叩き券なら15枚用意しておいたぜ!」

「よし、帰る」

「ま、待て待て!それだけじゃないぜ、今なら、えーと、あーと…し、指圧師業界で知らない人はいない、あのチン・ゲンサイさんをお招きして…」

「ただのチンゲン菜じゃない!?苦し紛れにもほどがあるわよ!」


まさか本当にそんな子供の知恵みたいな券で私を釣れるとでも思ったのだろうか。

私は荷物をまとめて席を立つが、周りを見渡して足を止める。


……思えば、去年もその前も、同じだった。

一人で周囲を寄せ付けずに、誰かから頼られるなんて事もなかった。


(これじゃ、駄目よね)


私はいつものメンバーに背を向けて、その場で言う。



「……分かったわよ。そこまで否定する理由もないし、手伝ってあげるわよ」

「え?手伝って、くれるのか?」

「ただし!できるだけちゃんと自分で終わらせること!暇なときは私も宿題に付き合ってあげるから……そんな感じでいい?」


私はなんか恥ずかしくて顔を赤くしながら恐る恐る振り返ると、4人の目からはブシャーっと涙が噴き出てきた。


「ツンデレでデレた時のシャルの破壊力、やばい」「僕、推し活始めようかな」「俺、生まれて初めてちゃんと夏休みの宿題終わらせれるかもしれない!」「わ、わたしもです!」


「や、やめてよ。私だって、いつも手伝える訳じゃなくて……」



その時、ガラガラガラと、教室の扉が開かれる。

そこに居たのは両手に書類を沢山抱えるリゼ先生。


そしてそんなリゼ先生を見て顔が一気に青ざめるヘンリとリアラさんの二人。


「ん?あなた達勢揃いして、何かあったのかしら?」

「いや、特に大した用ではないんですが、リゼ先生こそ何を持ってきたんですか?」

「あぁ、これね。もちろん補習組の二人への追加の課題よ」


パリンと、明確に心が折れる音が二つ聞こえた気がした。

私とシエル、アレクの3人は同時に帰り支度を始める。


「お、お前ら、可哀想な俺達を助けてくれても…」

「「「お疲れさまでしたー!」」」


「や、やめろおおお!今日1の笑顔で俺達を見捨てないでくれえぇ!」

「あばばばばばばば…」


泣き叫ぶヘンリと、白目を剥いたまま現実を直視できていないリアラさんの二人を置いて、私達は教室の扉をそっと閉じる。



夏休みはまだ、始まったばかりだった。

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