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クソラノベの世界に転生した俺は原作を破壊する事にした  作者: 雪本 弥生
第二部 クソラノベの向こう側 プロローグ
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第84話 人の恋路と邪魔者


シャルロッテは、目の前の学長を見据えながら、腕を組んで答える。


「……質問の意図が分かりません。そりゃ、シエルの事はある程度信頼はしてますし……」

「そうじゃなくて、男女として、恋仲としてどう思ってるのか、それを知りたいのよ」

「……それをあなたに素直に答える理由がありませんね」


シャルロッテは頭の中にシエルという男の姿を思い浮かべてみるが、少なくともこの関係について周りに言いふらすような趣味はない男だ。

なぜ学長が知っているのか、シャルロッテは不思議には思ったが努めて冷静を装って向き直る。


学長はそんなシャルロッテを見てふっと微笑むと、ようやくワインの入ったグラスから手を離し、シャルロッテの目を見て話す。


「……女に生まれた者として、人の恋路には興味津々なのだけど、とりあえず今はまぁ、悪く思っていないならそれでいいわ」

「……結局何が言いたいんですか?」


「この先あなたの周りは必ず敵だらけになる。そんな時誰の言葉も信用しなくてもいいから、シエル君、彼の言葉だけは信用しなさい。それはきっとあなたの未来に一筋の希望を照らすわ」


シャルロッテには学長の語る未来というものが、まったくピンとこないものであったが、それを語る学長の目は本気だ。

そこまで言うとは、学長とシエルに、何か接点があったのだろうか。

しかしシャルロッテには一つ分からない点があった。


「……私の周りが敵だらけになるって、そんな事……」


「それはそうじゃないかしら。なにせ、先生……じゃないわね、あなたのお爺様、あなたの後ろ盾としてずっとあなたを守り続けてきた存在が、いなくなるのだから」







「ヘンリ、とか言ったな、お前。やっと思い出したよ、学年一位の傑物らしいじゃねえか」

「そういうあんたも…………よく見ても知らん顔だけど、だからなんだ?」

「一々癇に障る野郎だな……」


グリムさんは地面の土をならしながら、ヘンリさんとの受け答えをする。

私はステッキを準備して、そんなグリムさんの隣で控える金髪の美人な女性を見やる。


ここは先程の教室のすぐ近くの訓練場であり、この学園に数多ある訓練場の中でも数少ない、土の敷き詰められた室内のつくりとなっている。


「ヘンリ、俺は調子の乗ったガキの、高くなった鼻を叩き潰す事、これが教育の真骨頂だと思ってる。だから戦ってやるんだ」

「それは、それは。俺としてはリアラさんさえ解放してくれるなら何でもいいんだけど」

「それなら俺を倒す事ができたなら、そいつには二度と近づかないと約束してやる。どんな手を使おうとも、俺を倒す事さえ……」


グリムさんがしゃがみこんで、地面を撫でるように均しながら説明している所に、ヘンリさんは木刀を向けて思い切り突っ込んでいった。

グリムさんはその動きにも動揺せず、ゆっくりと立ち上がると顔を上げてヘンリさんの姿を捕捉する。


「『水爆斬』」


その技はかつてシャルロッテさんとの戦いでも使っていた技だ。

同じ動き、同じ魔法の技であるはずなのに、そのスケールや魔力量はかつての比にならない位大きなものになっている。


グリムさんの隣に静かに佇む女性がヘンリさんに指を向けようとする動きを見せたので、私はステッキを振り上げて女性に向ける。

私にはヘンリさん程の実力はないけれど、せめて最低限のサポートをしなければいけない。


「じゃ、邪魔はさせな……」

「フローラ、動くなよ」


私が魔法を発動しようとした瞬間、フローラと言うのだろう、金髪の女性の動きはグリムさんの手によって制止される。

つまりグリムさんが求めるのは、ヘンリさんとの1対1という事だ。


しかしグリムさんがフローラさんの動きを制止したときには既にヘンリさんはすぐそこまで距離を詰めている。


ヘンリさんの木刀に纏われた強大な水流がグリムさんに向かって行くと、グリムさんはたった一つ、人差し指をさし出して言う。



「俺は最強だ」



その瞬間、グリムさんの指が水流に飲まれた瞬間、ヘンリさんの水流は消えてなくなっていた。

いや、違う、これは……


ババババババン!!

そんな激しい衝撃音と共に、グリムさんの指に近い方から順番に水流が爆発に飲まれていった。


少し遅れて私の元にも爆発の余波が襲ってくる。

あの水流を、ほとんど一瞬で消し去る……これが『爆破魔法』。


しかしそれすら予測していたのか、ヘンリさんはその爆風の中を突っ切ってグリムさんに迫る。

グリムさんは既に足で地面を蹴って後ろへ下がり、両手を広げてヘンリさんを待ち構えている。


「同じ学年一位と呼ばれた者同士だ。格を落とされたら困るんだけどな」


グリムさんの手のひらを警戒するヘンリさんが足を踏み込んだその瞬間、きらりとその地面が光ったのが見えた。


まずい!!


「ヘンリさん!?」

「………あっ!?」

「ただ地面を撫でてるだけとでも思ったか?地雷式、爆破魔法だ」


ヘンリさんの足元が光ったかと思うと、そこからボンッと爆風が吹き出し、ヘンリさんの足だけではなく全身が爆発に巻き込まれる。

私は咄嗟にヘンリさんの元へ向かおうとするが、足が動かない。


ハッとして見てみると、私の靴と地面が凍らされている。


「これ以上先生の邪魔はさせないわ」


私は最早フローラさんの方を見る事はなく、火魔法を発動して急いで氷を溶かそうとするが、ヘンリさんの方を向くと、既に勝負は決着していた。


「……期待外れ、だな。わざと地雷の発動は少し遅らせてやったが、それでもこんだけダメージを食らってしまうようじゃ、まだまだだ」

「……いっつ」


グリムさんはいつの間にかヘンリさんの元にやって来て、倒れるヘンリさんの頭を靴で踏みつけて見下ろしていた。

一体何が起こったのか、すぐには理解できなかった。


それでもヘンリさんが完膚なきまでに完封され、負けたのだと分かると、私は火魔法を発動しグリムさんへ向けていた。

しかしグリムさんはこちらを一瞥すらせず言う。


「もし何か動いてみろ。こいつの頭は吹っ飛ぶぞ」

「……っ!?」

「……あと、地雷が卑怯なんて言わせねえからな。先に手を出してきたのはそっちなんだから。……まったく、手間をかけさせる」


私はそれ以上動く事ができずに、ステッキを向けたままピタリと動きを止める。

発動していた火魔法はパッと立ち消えると、それを確認したグリムさんはヘンリさんを見下ろして靴をぐりぐりと押し付ける。


「……うっ!」

「判断が遅い、動き出しが遅い、何もかもが遅すぎる。そんなもの普通にやってれば身についていくもんなんだよ。お前も、お前らも、お前らを教えている奴も、どれだけ無能なのかが分かる気がするよ。あとお前ら、これはただの憂さ晴らしだ。俺の部屋が壊され、あまつさえこの俺に矛を向けてきた。戦いついでのちょっとした悪口と陰口くらい許してくれよ」

「………!!」


私はぐっと我慢して、ひたすらステッキを握るが、私の方からも苦悶の表情を浮かべるヘンリさんの顔が見えた。

これは私があの時、グリムさんの部屋に入った時から、すぐに逃げなかったせい、自分のせいなんだ。


自分のせいでまた、大事な人を傷つけてしまうのか?

それが嫌だから、必死に頑張って来たのに、全然足りなかった。

グリムさんも、フローラさんも、全てが私やヘンリさんを超えている。


こんなの、いったいどうすれば……




「足を離せよ。あなたがどれだけ偉かろうが、大事な友人を侮辱する行為を許すわけにはいかない」



その時現れたのは、汗を拭い、怒りを込めた目でグリムさんを睨む、アレクさんだった。



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