第82話 原作には出て来ないラスボス二人
「……ヘンリ君、リアラさん帰ってこないね」
「おいおい、アレク。それは野暮ってやつだぞ?リアラさんだってそりゃ、腹を壊すことはあんだろ。だからこういう時は、大便してたんだろうなという気持ちは心に仕舞って、男として何も気づいてないふりをすんだよ」
「……別に僕は、リアラさんが大便をしてるなんて思ってなかったけど」
アレクは冷たい目で、力説するヘンリを見てみるが、そういえば入学初日にシャルロッテに対し、がっつり失礼をかましていた男がいたのを思い出して、まだこっちの方が大人なんだと、認識し直す。
しかしアレクは時計を見て、頭を傾げる。
「それにしてもだよ。もしホントに……お花を摘みに行ってるんだとしても、こんな時間をかけるかな……っ!?」
アレクは頬杖をつきながら喋っていたが、突然何かを思い出して立ち上がると、再び時計を見る。
「……これは……。ヘンリ君、やっぱり今すぐリアラさんを探しに行こう!少し嫌な予感がするんだ」
「ん?何かあるのか?」
「うん……少しシエル君に言われてたことがあって」
それ以上アレクが語る事はなく、ヘンリにとってもそれは必要なかった。
友達に何かがあるかもしれない、そんな可能性が1%でもあるのならば、ここで動かない理由はない。
「ヘンリ君は職員室の奥の教室を探してくれ。僕はこちら側の教室を全部回ってみるから」
「了解!それなら木刀も一応持っていっといた方がいいか」
「……何かあったら、頼むよ」
「おう!」
ヘンリとアレクは、それだけ言葉を交わすと、教室の扉を開けて、リアラを探しに飛び出していく。
誰もいなくなった教室で、鉛筆が一つ、ころころと机から転がって下に落ちていく。
カランカランと、鉛筆が音を立てて落ちる音は、外の嵐にかき消されて、なくなった。
「え!?この学園の保健室の先生ってルーベルトさんなんですか?」
「本当はリゼが担当する予定じゃったが、普段暇しているだろうという事で押し付けられてな。ワシもやめたいんじゃが……」
俺に説明しながらもルーベルトさんは、目を瞑ってローランさんの胸に手を当てている。
一度ジャック君との決闘の際に保健室には立ち寄ったが、その時保健室の先生はいなかった。
ずっとどこにいるんだろうと不思議に思ってたんだが、まさかこんな身近にいるとは。
ダンジョン演習の時も、暇だったから来たとか言ってたけど、保健室の仕事と男子寮の仕事を掛け持ちして、この人どんだけ働いてるんだろう。
しかし目の前で真剣にローランさんを診察するルーベルトさんは、そんな仕事を任せられるくらい優秀な人なんだろうと想像がつく。
俺は安心しきってローランさんをルーベルトさんに任せるが、次の瞬間ローランさんの手を握って何かを確かめるルーベルトさんの顔が強張ったのが分かった。
「な、何かあったんですか!?」
「…………っ!そういう事か……」
ルーベルトさんは唇を噛みしめながら何かに気付いて呟くが、俺には何が何だかさっぱり分からない。
しかし、すぐにふっと力を抜いたルーベルトさんは俺の方に振り返ると、いつもと変わらない表情で教えてくれる。
「なあに、このジジイの病気が更に進行しておっての。今回ぶっ倒れたのも、ここに来るまでの無理がたたったんじゃろう」
「病気……それって治る病気なんですか?」
「……いいや、治らんじゃろうなぁ」
……それはつまり、ローランさんの死期が近いという事だ。
出会いと別れがあるのは、人の常だという事は頭の中では知っているけど、実際さっきまで会って話していた人が死ぬかもしれないとなると……やっぱりそう簡単には受け入れられない。
俺は顔を上げて、目を閉じて眠るローランさんの顔を見る。
「……あの、ルーベルトさん。ローランさんが言ってたんですけど、初めての教え子がルーベルトさんと学長先生って……」
「そうじゃな。もう遠い昔の話じゃが……この人はこんなワシに生きる道を示してくれた恩人じゃ。それは学長にしても同じじゃろう」
ルーベルトさんは答えながら、懐から小袋の中の薬を取り出す。
「ワシが先生をやっとった頃も、年をとってるくせに生徒に寄り添ういい先生じゃった。それもこれもグリムが入学してくるまでな」
「………そんなにグリムさんは、すごかったんですか?」
「そりゃそうじゃろ。なんと言っても、当時、世界最強の魔法使いであり、世界の権力の全てを握っていると言われた学長を殺しかけたのだからの。普通考えても行動に起こそうとなんてしない事をやってのける胆力だけはすさまじかったの」
グリムさんもすごいのだろうが、それよりうちの学長の肩書が凄すぎて、話についていけなかった。
え、あの人、世界最強の魔法使いだったの?
俺そんな人に喧嘩売っちゃってるし、何より敵認定されてるんですけど。
「その事件のせいで、先生だけではなく、リゼの担任であったワシまで免職処分を受けたのは納得いかんかったがな」
「いや……もはやルーベルトさんはどうでもいいんですけど……」
「なぜじゃ!?」
ルーベルトさんは怒りながらも丁寧に薬を、ローランさんへ飲ませている。
しかしこれはどういう事だろうか。
世界最強の魔法使いに、そんな世界最強に挑んだ若い男……こんなにキャラの濃い面子が原作に一度も出てこないなんてことありえるのか?
いや、原作外の話であるからこそ、滅茶苦茶なキャラ設定にしたという説もあるのだが……なんとなく、このキャラ達は原作に何らかの形で関わっているのではないかと思った。
もっと思い出さなければいけない、この世界であったかもしれない、あの物語を。
「……学長とグリム君の共通点を挙げるとすれば、ルーベルト君。君は何だと思っとる?」
その時、目を覚ましたローランさんがおもむろにルーベルトさんへ問いかけた。
目を瞑り、こちらの会話を聞いていたのだろうか。
何はともあれ、無事目を覚ましてくれてよかったのだが……共通点?
ルーベルトさんもベッドで横たわったままのローランさんを見ながら、考えているようだが、答えは出てこない。
そんなルーベルトさんを面白がるようにローランさんが笑うと、こちらの方へ顔を向け、笑顔でその答えを言った。
「人間、という事じゃよ。あんなに人間離れしていて、人間性すらも捨てる事ができる癖して、誰よりも人間らしい、そんな二人じゃ」
「さて、今日は突然呼び出して悪いわね」
「いえ……私も暇だったので……」
その頃シャルロッテは暗い部屋の中、一人の女性と対面していた。
その女性はグラスに入ったワインを飲みながら、お菓子を一つずつ口に運んでいた。
今日は蒸し蒸しと暑い日だったはずだが、この部屋はひんやりとした空気が心地いい。
緊張に体が固まってしまうが、その女性はそんなこちらの様子を気にせず続ける。
「今日あなたを呼んだのは、たった一つ、伝えるためよ」
「……それは決して学生の誰にも姿を見せないっていうあなたが、わざわざ顔を見せてまで伝える事なんですか?」
「これは学長としての義務だから、仕方ないでしょうね」
「学長として?」
シャルロッテは疑問の声を上げるが、学長はワインを一口飲み、再び楽し気にお菓子を選び始める。
流石に同じようにくつろぐ事はできないが、差し出された食べ物に一口くらいは口をつけておこうと、手を伸ばした時、ふいに学長は口を開いて尋ねてきた。
「あなた、シエル君の事はどう思ってるの?」
シャルロッテの手はピタリと止まった。
こちらはこちらで、難局を迎えていたのであった。
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