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クソラノベの世界に転生した俺は原作を破壊する事にした  作者: 雪本 弥生
第2章 むしろ俺にだけ厳しいヒロインのお話
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第7話 はじめての魔法2 ーチートの予感ー


なにもただ食欲を満たしたいからこの決闘を受けたわけじゃない。

この決闘は本来原作ストーリーを進めるために重要なイベントの一つなのだ。


というのも原作でアレクとシャルロッテさんが『始まりの洞窟』という洞窟で出会う時、アレクは一度シャルロッテさんを守る為入学してすぐのある日、決闘に参加していたという記述がある。


そういう出来事の積み重ねで物語の開始前から密かにアレクはシャルロッテさんからの好感度を稼いでいたわけだが、俺は今回の決闘、まさに原作のそれにあたるのではないかと読んでいる。


あまり原作の本筋に関係のない部分ではあるが、無関係とは言えない要素だ。

ここで俺が原作を変えた場合どうなるのか、実際にやってみて確かめるのが一番だ。


「聞いてる、シエル君!」

「ん?すまん考え事してた」

「ちょっと、急ぎの要件なんでしょ!」


そうだった今はアレクに魔法の使い方について指南を受けている所だった。

俺は姿勢を正してアレクの話に真剣に耳を傾ける。



「なんで魔法の使い方も知らないシエル君が魔法学園って言われてるこの学園に入学できてるのか、謎なんだけど、とりあえず簡単に説明するよ」

「頼む」

「まず、魔法が体内を流れてる感覚は掴めるよね?」

「んーと……い、いや……これかな?これなのか?これ……じゃなくて……お腹に力入れてたから屁が出そうなのは分かるけど……」

「よし、棄権しよう」

「待て!俺を見捨てないでくれ、アレク!」


魔法の使い方自体はクソラノベクオリティの安定の雑さだが、初めて使おうとしても普通に分からない。

そうこうしている内に時間は流れている。

最早一刻の猶予もない。


「とりあえず!その感覚があるのを前提に話は進めるけど、その感覚が掴めたらあとは頭の中でどんな魔法を使いたいのか思い浮かべる」

「なるほど……思い浮かべたぞ」

「そしたら魔法の呪文を実際唱えるか頭の中で唱えるかして……」

「ちょっと待って、呪文って、何だっけ?」

「……よし、棄権しよう!」


そしてその会話を最後に、俺はジャック君に呼ばれ、決闘場へ上がる事となった。








「……不安要素しかない」

「あなた達さっき何を打ち合わせてたのよ…」



ふと耳を澄ませばそんな声が二つ塀の外側から聞こえてきた。

目を向けると、シャルロッテさんとアレクが揃って俺とジャック君を観戦していた。

他の誰の人のいない決闘場なので、ジャック君の息遣いから観戦者の声、全部が聞こえる。


ふう、と息を吐いて改めてジャック君を見る。

正直今回負けるのは分かりきっている。


魔法を使えない俺がいかにも強そうなジャック君に勝てるわけがない。

原作を少しだけいじってみる、それさえできれば後の結果は極論どうでもいい。


「俺だってお前をいたぶりすぎて学園からの評価を落とすわけにはいかない。もしお互い熱くなったらこいつらに止めさせる。これでいいな!」

「あぁ、うん。それでいい……なんで君がいるの?」


もしもの時の為に俺とジャック君を止める役割として用意されていた人員は、昼休みジャック君とつるんでいた取り巻き二人と……。


「いや、面白そうだと思って」


笑顔のヘンリ君は俺に向かって返す。

意外といい奴なのではないかと思い始めていたヘンリ君であったが、いつの間にかジャック君達と仲良くなったり、着々とアレクによるざまぁへの道を辿っているのが難点だ。


いや、それでもまだ今のヘンリ君は良い方のヘンリ君のはずだ。

信用はしてもいいだろう。


「お前ら、準備できたか?」

「当然」「できてる」


ヘンリ君がジャック君の取り巻き二人を従え、塀の外から俺達二人に声を掛けると同時に、場の空気がピリッとするのを感じた。

ジャック君も本気という事だろう。

俺も目を瞑って覚悟を決める。


負けてもいい、とは言ったものの、俺だってただ負けたくはない。

勝てる可能性があるなら、それが1%でも喰らいつく。

今回におけるそれは、言うまでもなく魔法だ。

魔法が俺にも使えるなら、この勝負、光が見える。


原作を変えるため、そして明日からの豪華な昼飯の為、負けられない戦いがそこにある。



「始め!」



ヘンリ君のその号令と共に、俺とジャック君は駆け出した。

ジャック君が手を広げ俺に向けて、目を瞑っている。

恐らく魔法を放ってくるんだろう。


俺もジャック君の動きに倣うように、手を広げ、魔法のイメージをする。

呪文はさっきアレクから聞いたのもあるが、実は一つ知っている呪文というのがあることを思いだした。

大丈夫、魔法学園に入って来てるくらいなんだから、俺にだって本来魔法は使えるはずなんだ。


「死ねえ!」

「……魔法、出ろ!」


ジャック君の掌から出てきた火の玉は、まっすぐ俺の方へ飛んでいき…



「ぶへえっ!」



そのまま俺に着弾して、塀の方まで吹き飛ばす。



「「「「は?」」」」



ジャック君を含めた皆が思わず漏らしたその声は、俺があまりに弱すぎたために発せられたという訳ではない。

吹き飛ばされた俺を見て、皆一様に驚きの表情を向けていた。



「……いってえ!とりあえず成功したけど、絶対タイミング間違えたな、これ」


「シ、シエル君どういう事!?……なんで君の体、宙に浮いてるの?」


アレクが指摘する通り、俺の体はジャック君の火の玉に飛ばされながら、地面に体をつけることなく宙に浮いていた。

そしてこの魔法の存在は、今ここにいる者全員知っているわけがない。

なぜならこの浮遊魔法、原作のアレクにしか使う事の出来ない魔法だったからである。





(やっぱりこの世界、俺の知ってるクソラノベの世界だ)



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