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クソラノベの世界に転生した俺は原作を破壊する事にした  作者: 雪本 弥生
第二部 クソラノベの向こう側 プロローグ
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第79話 選択するべき場所と色


「シャルロッテさん?確かちょっと前に女子寮から出て行ってたわ」

「……お前ら、そう言えってシャルに脅されてるんじゃないだろうな?」

「そういう発想がすぐに出てくるあんたとシャルロッテさんの関係がどうなってるのか知りたいけど、ずっとここにいたから確かよ」


俺は女子寮の入り口でたまたま雑談に花を咲かせていた、フレアさんとアレーナさんに手を振って別れを告げると、早足で帰って、階段の方で腰を下ろしていたシャルのお爺さんの元へ向かう。


「シャル、いないらしいです。どっか外出してるみたいですね」

「ほお、そうですか……早く会いたかったんじゃが、仕方ないの」

「うーん、あいつの活動範囲は謎めいてますからね……探すんだったら結構歩き回らないとですね」


俺が頭を捻りながらそう言うと、悲しげな顔をしていたお爺さんがこちらへ向いて、驚いた顔をする。


「一緒に、探してくれるのか?」

「ん?そんな驚く事ですか?俺だって夏休みで暇してるので、別にこのくらい大丈夫ですよ」

「……そうか、それなら、こちらもありがたい。是非、頼みます」

「いえいえ……」


突然深々と頭を下げてくる老人に俺は少し戸惑いながら、なんとかシャルの立ち寄りそうな場所を絞り込む。


「それじゃあ、何カ所か当てはあるので、行きましょうか。……えーっと?」

「あぁ、わしの名前かな?ローランじゃ。君の名前は?」

「俺はシエルです。それじゃローランさん、俺の背中乗ってください!この城は広いですから、急ぎましょう」

「流石に君に申し訳ない気が……」

「いえいえ、俺こそあなたのお孫さんに助けられてばっかりですから、これくらい屁の河童ですよ」


俺は申し訳なさそうにするローランさんを背中に乗っけると、腕でがっしりと抑え勢いよく階段を駆け下りていく。


本命は図書室、スーパーや日用雑貨の集まる購買ゾーン、あとは大穴で教室といったところかな。

先程も述べた通りこの学園、無駄に広いため、これらをまわるだけでも大分時間は食いそうだ。

すれ違いを起こさないためにも、できるだけ早く迅速に探し出す。


俺は気付かれない程度に浮遊魔法を使いながら、スピードを上げて図書館へまっすぐ向かって行った。






「まぁ、そんなに警戒する事はない。前回は、少し個人的にリゼと仲が悪かったというだけの話だ」

「……さ、さっきの金髪の美人さん、あの人もあなたのグルだったんですよね?そこまでして何を……」


私は一歩足を後ろに引いて、副学長から距離をとる。

先程渡された書類を腕に抱えながら、私が警戒を最大限に高めるのを見た副学長は、やれやれと筆を隣の机に置くと、立ち上がって手を広げる。


「別にお前をとって食おうなんて話じゃない。前も言ったはずだがここは俺のアトリエ、俺の作品達を保管しているだけではあるんだが、招待しようと思ってな」


副学長は腕をまくって私に手を指し示すと、そこには確かにたくさんのキャンバスが並べて保管してあった。

私が教室の中のキャンバスを目で追っていると、それを見た副学長は一つの作品に歩み寄っていく。



「これとか代表的だが、どうだ?俺の作品、全部下手だと思うか?」


副学長が手に掲げる絵もそうだが、この教室に並べられている絵は総じて絵が上手い、といった単純な絵ではなくまさしく芸術と呼ばれるような、個性的な作品が多かった。


その中でも副学長の掲げる絵は、派手な色が多く使われた、猫さんの絵だろうか?

一匹の猫の中に多くの色が混在しており、猫の絵それ自体も特別うまいわけではないと感じた。

綺麗な絵とは言えない、しかし心が惹きつけられる。


こんな絵を、この人が描いたというのか?

一体どうやって……


「下手では……ないと思います。むしろ、上手に描けるものを、崩して描いたような……」

「流石、画家の孫ってだけはあるじゃねぇか。分かっただろ?別に今日は争うために呼んだわけじゃねえ。ただ暇だったから教師らしく、未来ある学生に少し師事してやろうと思っただけだ」

「……でも、リゼ先生からはあなたを信用しちゃダメだって……」

「あいつめ……。別に今回は信用してくれなくていい。なんなら今日の出来事をそっくりそのままリゼやババ……学長に報告でもすればいい。それならどうだ?」


副学長はそう言うと、こちらへ手招きする。

筆を片手に汗を拭うその姿は、はたから見てもただの絵を描く事が好きなお兄さんに見えて、つい警戒心が解かれてしまう。

すると副学長は先程まで熱心に描いていたキャンバスをくるりと回し、私の方へ見せる。


その絵は、風景画だろうか。

しかしその絵も先ほどまでと同じように、激しいタッチと色彩で彩られていて、街が爆発している絵、かな?

その中で私が目に付いたのは一か所。


「すぐに気が付いたとは思うが、この絵は未完成であって、一か所だけ色を塗っていない部分がある。この絵自体はとある有名な画家の作品を模倣して描いたものなんだが、お前ならばどの色を選ぶ?」

「色……わ、私が……」


副学長は椅子を前に出して座るように促すので、私は多少の警戒をしながらも絵をじっくり見るために、恐る恐る腰を下ろす。

副学長は私のそんな態度に呆れながらも、自分の椅子も準備して私の隣に座る。


そして手渡された絵具は、ざっと見ただけでもすごい種類と数がある。


「芸術家が魂を込めた作品には、99点なんかない。0か100だ。例え他の部分がどれだけ100点であっても一つのミスでそれは瓦解する。一か所であろうとも、ここで色を間違える事は許されないってわけだ」

「……す、すごいプレッシャーです」

「それだけ、針の糸を通すような感性を磨けという事だな」


副学長は私の選択を待つように、横で腕を組んでこちらを眺めている。

針の糸を通すような感性……私にはまだ分からないけれど、絵具と絵を改めて見比べてみる。

この激情的な絵には何が似合うか、という事を考えたら……


「……この薄い橙色は……」

「違うな。それはお前が現実の目で見た感覚に過ぎない。本物の感性とは、お前の心の奥底、心の目で見た真実の事だ」


心の目で見る……真実?

腕を組みながら冷静に絵を眺める副学長を横目で見て、私は思い切って目を瞑ってみた。

瞼の裏にさっきの絵を思い浮かべてみる。


色と、色の組み合わせ。それだけじゃない、数千、数万から選ぶたった一つの答え……。

似合う似合わないなんかじゃないんだ。

この絵は既に答えを知ってるんだ。

だから私がするべきは、そっとその絵に寄り添って……



「この……赤…じゃないですね、茜色です。この絵には、これしかなかったです」


私が目を開いて絵具を指さすと、副学長は腕を組みながらであるがふっと笑みをこぼし、頷く。


「正解だ。ここまでの道筋が示された絵じゃ、茜色しかないだろうな」

「でもこの絵、見れば見るほど吸い込まれてしまうような……画家の方がすごい方だったんだなって……」


「ま、お前ならばそう言うだろうな。なんたってこの絵、お前の祖父が描いたものなんだから」

「…………っ!?」


なぜ副学長が私の祖父の事を知っているのか、そんな疑問すら抱く暇なく、お爺ちゃんがこの心惹かれる絵を描いたという衝撃的な事実に……驚きながらそれでも私は不思議と納得していた。

お爺ちゃんは私の小さい頃に死んで、一度もその絵を見たことはなかったはずなのに。


絵が答えを教えてくれるみたいな、そんな優しい絵だった。


副学長は立ち上がると、私に向かって笑みを向ける。



「どうだ?少しはリラックスしたか?」

「………むしろ疲れました」


ふと私が入ってきた教室の入り口の方を振り向いてみると、知らないうちに扉は閉まっていた。


そして遅れて気付く。

私は既に逃げる事ができない所まで来てしまっているのだという事を。



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