最終話 第77話 クソラノベの世界が始まる時
最終話!?
「おお、すごい!シャルが作ったのか、これ?」
「……えぇ、アレク君のお母さんに教えてもらいながらだけど」
「この子は筋がいいわよ!いいお嫁さんになれるんじゃないかしら」
シャルとアレクの母親がエプロンを脱いで答えるが、食卓の上には既にご馳走の山が並んでいる。
肉もあれば魚もあるし、もちろん野菜は盛り沢山だ。
こんな量のご馳走、この世界に来てから食べた事なかったな。
「この忙しい時期にシエルの坊主も働いてくれたからな!前回の分も兼ねてのご馳走だ!」
「遠慮なく食べさせてもらおうと思います!!シャルも、ありがと」
「僕もお母さんのご飯久しぶりだな。シャルロッテさんの料理も楽しみだ!」
「……あんまり期待されても、やだからね」
シャルは照れながらであるが、椅子について箸を配ってくれる。
俺は受け取った箸を手に、椅子に腰かけると一日の疲れがどっと来た気がしたが、目の前の食事には勝てまい。
はやる気持ちを抑えて、その時を待つ。
そして、その時はすぐにやって来た。
「そんじゃ、アレクだけじゃなくて、シエルの坊主も、お嬢ちゃんも、こんな場所まで遊びに来てくれてありがとうという事で……いただきます!!」
「「「「いただきます!!」」」」
俺達は皆、手を合わせてから、一斉に箸を伸ばした。
ブラウンさんとアレクが大食い競争をしたり、俺とシャルがアレクの母親にめんどくさい絡まれ方をされたり、その日の晩御飯はずっと楽しい時間が流れていた。
こんなひと時がこれからもずっと続けばいいのに、と、俺はそんな願いを心の中に秘めつつ、その日の夕方は終わっていった。
「ここ、明日僕らが行くダンジョンはホントにこの村からすぐそこの所だね」
アレクが地図を指さすと、俺とシャルの二人は集まってその場所を確認する。
晩ご飯が終わって俺達はどこで寝るかという話になった時、シャルは別に俺らと寝室を共にするのは構わないと言ってくれたおかげで、いびき界の大魔人ことブラウンさんと一緒に寝る事は回避できた俺とアレクであったが、もちろんベッドは明渡し、地面で雑魚寝する事となった。
そこで俺達は寝る前に、明日のダンジョン攻略へ向けた話し合いをすることにしたのだ。
「……ここ、月見の森にギリ入ってるくらいか?」
「そうだね、だから僕とシエル君は一度行ったことある場所っちゃ行った事はあるんだけど、前の時の反対側だから、安心はできないね」
「……それで、あなたはここを見に行ったりとかしたことは?」
「それはないけど……ゴブリンとかの魔物が出るダンジョンって言われてるのに、名前が面白いんだよね、『始まりの洞窟』って」
その瞬間、俺の頭に電気のような衝撃が走った。
名前……『始まりの洞窟』って言ったのか?
確かにアレクは最初から『ダンジョン、みたいなもの』とは言っていた。
それは人づての話からはダンジョンと聞いていたが、名前としては洞窟、と示されている為そういう表現になったのだろうが、まさかあの『始まりの洞窟』だったとは……。
そうなればこのメンバーにも少し納得がいく。
なにせ、原作『僕最強』の世界で、アレクがシャルと出会い、そしてチートに目覚める場所、それこそが『始まりの洞窟』なのだから。
「………」
「……どうしたの、シエル君?突然、黙っちゃって」
「ん?……あぁ、すまん、人間が聞こえる声の高さに合わせなくちゃだった」
「何者!?シエル君、超音波とかで会話してた!?」
そんなこんなで色々茶化して誤魔化しながら、作戦会議もそれほどに俺達は眠る事にした。
俺は頭の中で複雑な思いを抱えながら、布団をかぶる。
原作アレクは『始まりの洞窟』でシャルに出会う少し前、うっかり下層まで落ちてしまい、そこで死にかける事によってチートの力に目覚める。
ネット小説なんかでよく見た安っぽい展開であるが、現実世界でそんな事が起きてしまったら大変なんてもんじゃない。
なにより死にかけたら確実にチートに目覚めるのかも、分からない。
そんな保証はないのだ。
目を開けて横を見てみると、二人共寝る準備を済ましていて、明かりも消えている。
そしてそんな中で一番怖いのは物語の強制力だ。
本当にそんなものがあるのか、色々試してはきたが、結論はまだ出ていない。
もし存在するのならば、俺達は明日『始まりの洞窟』の下層に落ちてしまうことだってあり得る。
それは……確かにアレクの覚醒には必須の要素なのかもしれないが、今のアレクやシャル、俺が望んでいる事なのか?
皆が望んでいる事なのか?
「二人共、寝た?」
「……全然寝てないけど」
「まだ明かりを消して10秒よ」
俺はしばらく目を開けて暗い天井を見上げながら二人に問いかけた。
「……寝た?」
「しつこいやつね……」「……シエル君暇なの?」
「お前ら冷たいな。……いや、明日はどうしようかなって思って」
俺は寝転がりながら腕を組んで上を見上げる。
「……どうしようって、どういう事よ」
「うーん、どこまで無茶するか、ってところだな。無茶して下層まで降りちゃうのはよろしくないわけで、かといって上で雑魚狩りばっかりするのもなって」
「そこは……うまい事シエル君が手綱を引いてくれればいいよ。僕らはリーダーに従うしさ」
「それが難しいんだろ?」
正直に言ってしまえば、俺らの安全を考えるならば明日あの洞窟へは行きたくない。
どれだけ俺が注意を払っていても、何が起こってもおかしくないのがダンジョンという場所だ。
それはダンジョン演習の時にも身に染みている。
しかも『始まりの洞窟』の下層には、上層とは違って俺達よりはるかにレベルの高い魔物が生息している。
原作ではホントの名前は『始まりの洞窟』ではなく、『終わりの洞窟』だったというオチがあるほどに、アクシデント一つで死に至る場所だ。
かといってここで引いてしまえば、アレクの覚醒はなくなり、この世界に英雄は誕生しなくなる可能性もある。
俺が頭をひねっていると、アレクがぽつりと言う。
「……ま、別に明日ダンジョンに行かず、学園に帰ってもいいけどね」
「……え?この話お前が持ち掛けてきたんだぞ?」
「そうだけどさ、シエル君に何か一つでも心配事があるのなら、僕は撤退って言う判断を否定したりなんてしないよ。僕はシエル君を信頼してるし、それはシャルロッテさんも同じだと思う」
アレクはまっすぐ天井を見上げながら言う。
「………でも、お前、全部のダンジョン攻略するって……」
「そうだけどさ……何をシエル君は焦ってるの?僕らはまだ弱いし、できない事だってたくさんある。ダンジョンに入っていっぱい戦いの経験を積むことも大事なのかもしれないけど、何より僕は、シエル君や皆と、いっぱい訓練したり馬鹿話したり、一緒に切磋琢磨していくこの時間が好きなんだ。だから焦らない!きっと焦らずに信じてきた道の先に、英雄っていうのがいるんだと思うから」
アレクは横を向いて笑みを浮かべながら言う。
焦らない……か。
「……お前、変わったな」
「そう?」
アレクは不思議な顔を浮かべていたが、俺は確信していた。
追放され、焦りに身を任せていた原作のアレクと、お前は全然違ってるよ。
すると、ベッドの上からシャルもこちらの方へ顔を出してくる。
「だから言ってるでしょ?あなたは好きにすればいいのよ。私達はあなたを信頼しているし、何よりあなたがどんな判断を下そうが、そんなもので簡単に私達は死にはしないから」
「……信頼してくれてるのは嬉しいけど、そういうの、丸投げって言うんだよ」
「そうとも言うわね」
シャルはいたずらな笑みを浮かべると、そのまま再びベッドの奥へ行ってしまう。
アレクも笑顔を浮かべたまま目を瞑っている。
俺は腕を後ろで組みながら、目を閉じる。
今俺がすべき事は、皆を心配する事じゃない。
俺の人生、好きにすればいいんだ。
……俺は決めたぞ。
目を瞑りながら、少し笑みがこぼれる。
もう後には引けないのかもしれないけど、やってやる。
皆が寝静まった深夜の頃、俺は一人起き上がり、アレクの家を後にする。
外の空気が昼とは打って変わりひんやり心地よかったが、俺は浮遊魔法を発動して上空へ浮き上がる。
月が俺の前で、でかでかと輝いていた。
その月を指さすように人差し指を差し向けると、俺の体は勢いよく飛んでいく。
その日、俺はこの世界の運命を変えた。
後戻りができない程に、俺はこの物語の原作を破壊したのである。
「……ここが、『始まりの洞窟』だね!……ん?」
朝日が昇りきったころ、馬車から降りたアレクは、地図を片手に洞窟の方まで駆け寄ると、何かを見つけて顎に手をやる。
俺とシャルはダンジョンに持ち込む荷物を整理していたのだが、シャルはそんなアレクの様子を見て声を掛ける。
「洞窟に何か、あったの?」
「いや、洞窟の前の看板に書いてある文字が………なるほど」
何かに気が付いたアレクは俺達の方に振り返ると、俺に向かっていたずらな笑みを浮かべて馬車の方まで戻ってくる。
俺とシャルは顔を見合わせて、アレクに事情を聞く。
「何があったのよ?」
「看板の文字、『始まりの洞窟』じゃなくて、『終わりの洞窟 入るな危険!!』って書いてあったんだ。多分前に入った冒険者の人とかが、うっかり入っちゃわない様に、名前を変えて設置したんだと思う。ここで撤退するのが無難だね」
「そうか、それなら俺らも無茶して入らない方がいいな。いやぁ、事前に分かって、ついてたな、俺ら」
「……ま、リーダーがそう言うなら、そうしましょうか」
俺は二人に目を合わせる事ができずに空を見上げながら言うが、アレクは地図を丸めながら、俺の目の前に座る。
「ところで、『入るな危険!!』ってところだけ、他の文字と違って、新しいペンキの色あいだったんだけど、シエル君何か心当たりある?」
「……特にないが?」
俺はアレクの問いかけにどんな声で返事したのか覚えていないが、アレクはそんな俺の返事を聞いて、丸めた地図をリュックサックの中に詰める。
その顔は仕方ないなと呆れたような、そんな笑みを浮かべていた。
「……分かったよ。それじゃ、帰ろっか?」
「そう、だな。シャル、頼んだ」
「なんで、さも当然みたいに私が御者しなきゃいけないのよ!」
「じゃあ、じゃんけんだぞ?」
「……えぇ、私だって確率で言えば次くらいは勝てるのよ!受けて立つわ!」
結果として御者に落ち着いたシャルは、またぶつぶつ文句を言いながら、一人馬を前にして座る。
大義名分を得るのと、見知らぬ冒険者という存在に責任を押し付ける為にわざわざここまで昨日から数えて二回も来る羽目になったが、疲れなどはない。
俺はゆっくり動き出した馬車の荷台の上から、後ろの洞窟を振り返る。
これでもう後には退けない。
この先どんな未来が待っているのかも分からない。
それでも俺には不思議な自信があった。
きっとどんな大変な未来が待っていても俺は、大丈夫だ。
ここからはアレクの物語なんかじゃない、俺の物語なんだ。
そしてこの世界に生きる、皆の物語の始まりなんだ。
せめて、そんな物語がクソラノベにはならない程度に、
「頑張らなきゃいけないって事かな」
俺は洞窟に向かって誰にも聞こえないように呟くと、まっすぐ前に向き直って、笑顔を浮かべる。
こうしてクソラノベの世界は、原作とは全く異なる始まりの幕を開けたのであった。
伏線をバラまいたままなのですが、シエルの物語に一区切りがつき、いよいよ原作の時間軸を超えた物語が始まるという事で、一旦最終回とさせてください。
ここから先、学長先生と副学長の謎、シエルとシャルロッテの関係性、そして原作におけるアレクの罪と魔王の存在まで、まだまだ書き足りないことだらけなのですが一先ず読者の皆様の想像にお任せして、それこそ万が一にもこの物語の反響が大きかったりした場合には続きは書かせていただきます!
拙い文章に拙いストーリーだったかもしれませんが、ありがとうございました!
小説家になる夢は諦めませんので、またいつか、どこかで!
じゃね!またな!




