表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クソラノベの世界に転生した俺は原作を破壊する事にした  作者: 雪本 弥生
第10章 モブはこの世界の物語を破壊する
86/129

第76話 普通の将来と特別な未来


「お久しぶりです!」

「あら、あなたこの前の、シエル君じゃない!それに、隣は知らない子ね」

「あ、私はシャルロッテと言いまして……」

「あらあ、別嬪さんね!うちのアレクなんて、自分で言うのもなんだけどなかなかいい物件だと思うのよ。将来もどうせ普通の職には就くでしょうし」

「それ、息子を褒めてるのか、disってるのか、絶対後者だよね!」


俺達の乗る馬車はアレクの住む村に着き、アレクの家の前に俺達は立っていた。

この村は俺の街とは違って、ヨーロッパ風の建物とかは全くなく、代わりに畑が土地を占めているまさしく、『村!』である。


そこで出迎えてくれた、元気な黒髪の女性はアレクの母親であり、一度俺も月影草の依頼の時も会った事があった。

外見の方もよくも悪くもアレクに似て普通であり、感じのいいおばさん、といった印象だ。


「お母さん、いいから僕らをとりあえず中に……」

「それで今日はシエル君とシャルロッテさん?何しにいらっしゃったの?」

「今日は、帰省を兼ねて……」

「あらあ、シャルロッテさん!結婚の挨拶なんて、まだ早いんじゃないの!?」

「い、いや、お母さん、別に今日はアレクとなんて……」

「あら!お義母さんだなんて、気が早いわよぉ!!シャルロッテさんならいいけどね」


「……お母さん、とりあえずこれから二人の前で喋るの禁止!!」

「なんでよ!?仕方ないわ、しばらく無言で玄関の前にいる事に……」

「中、入れろ!?なんで無言でこんなとこ突っ立ってなきゃいけないんだよ!」


アレクの母親は流石に息子の剣幕に引き下がると、やっと家の中へ招いてくれた。

シャルは苦笑いを浮かべたままだが、俺としてはこのお母さんそんなに嫌いじゃない。

前世の俺の叔母もこんな感じだったなぁ、と思い出させてくれるし、何より明るくしてくれる。


「そういえばお母さん、お父さんはどこにいるの?」

「なーに言ってんのよ、この時期はちょうど野菜の収穫の繁忙期でしょ?」

「あ、そうだったっけ。でもこんな時間まで?」


アレクは俺達の案内もそれほどに、家の外に出て畑を見に行く。

いわゆる田舎らしい、奔放な家族だ。


「……悪いわね、シエル君に関しては二回目だけど、うちの家はこんな感じだから」

「いえいえ、俺は全然気にしてませんよ」

「はい、私も……少し羨ましいくらい仲がいいんですね」

「あら……」


シャルが伏し目がちに言った一言を聞いて、アレクの母親は慌ただしく来客を迎える準備をしていた足を止め、こちらを向く。

そしてじろじろとシャルと俺を見比べると、ニヤッとした笑みを浮かべて再び準備に戻る。


「ちょっと心配したけど、あなたは一人じゃなかったのね!それなら私とかアレクが口を挟む問題じゃないわ」

「それはどういう……」

「子供にとって一人っていうのが一番怖いものなの。だから親がいるし祖父母がいるし、友達がいるし、愛した人がいる。あなたは自分にとってのそれを知ってる、だから安心したの!」

「…………」


俺がちらりと伺うと、シャルはまっすぐ、アレクの母親の姿を凝視して、何かを考えているようだった。

俺は深く考える事をやめ、食卓の椅子に手をかける……その瞬間、



「おう、シエルの坊主、久しぶりじゃねえか!!」

「げっ!」


俺は思わず狼狽えて後ろへ一歩退くと、その大男……まぁアレクの父親なんだが、その男が俺の元へ近づき首根っこを掴んで家の外まで連れていかれそうになる。

その瞬間、前回ここを訪れた時の封印されし記憶が蘇ってきた。

そうだ、ここに来たらこれがあったんだ!


「待て待て待て!今日は、別にあなたの農作業を手伝いに来たわけじゃないんですよ!!ちなみに前回も手伝いに来たわけじゃなかったんですけど、なぜか駆り出されて……」

「季節外れのトマト食わせてやっただろ?」

「3時間働いて、あれ一個ですから!?アレクの親父じゃなかったらキレてましたからね!!」


俺がじたばたと暴れていると、やっとアレクが帰って来て、助け船を出してくれる。


「シエル君!ハサミとシャベル、もう準備できてるから、早く!」

「そっちの助け船かい!?帰ったら絶対訴えてやるからな!!」

「うちの畑は治外法権じゃ!」

「なわけあるかぁぁぁ!くっそおおお!」


俺の断末魔がアレクの家に響き渡るが、そこは田舎、俺の魂の叫びが誰かに届く事はなく、人知れず空しく田舎の風景に消えていく。

前の時はまだ優しく、「手伝ってみるかい?」みたいなノリで誘われた農作業の手伝いであったが、一度味を占めたらもはや問答無用だ。


シャルというもう一人の来客すら無視して、農作業に駆り出す悲しき奴隷を一匹連れて行ったこのアレクの父親は、ブラウンさんと言ってこの村でも有数の農家だ。

俺の両親が対照的な性格をしているのに対し、この両親は先程のやり取りでも分かる通りめんどくさいという一点でそっくりな性格をしている。


とはいえ一度目をつけられたらこの村で逃げる道はないだろう。

俺はブラウンさんの肩の上で仕方なく、抵抗する力を抜いた。





「……俺、今日だけでどんだけ自分の体に鞭打ってんだろ?」

「はっはっは、流石にばてたか?」


空を見上げてみれば既に空は赤く、暗くもなりかけている。

俺は土の上に手をついて座り込むと、その隣でアレクの父親が手拭いを差し出しながら座る。

俺は遠慮なく手拭いを貰うと、髪型なんて気にせずぐしゃぐしゃと汗を拭う。

夏にこの労働は、地獄だ。


「ほれ、さっきとれたトマト」

「……またこれ一個ですか?」

「ここで報酬を釣りあげてしまうと、次の時もまた同じだけやらんといかんからな」

「……せめて、2個……」

「いらんのなら、俺が食べ……」

「くっそ、貰いますよ!このけちんぼ!」


俺は今時死語となっているであろう悪口を口にしながらトマトをひったくると、口に運んでその味を堪能する。

作った人を想像しなければ、普通にうまいし、特に今なんて何個でも食べれる気分だ。

俺はトマトをむしゃむしゃしながら、遠くを眺める。


「アレク……頑張ってますね」

「あいつは毎年俺の農作業を手伝ってたからな。奴隷根性が染みついて、今年やってなかった分を取り返そうと必死なのかもな。はっはっは」


ブラウンさんはそう言って笑うが、既に奴隷になりかけている俺からしたら笑えない。

アレクはハサミのようなものを片手に、次々に黙々と野菜の収穫をしている。

その目は、マジの奴の目だ。

俺の末路、あれなの?


「久しぶりの帰省なんですから、アレクと積もる話とか、ないんですか?」

「ないな、興味ない!」


ブラウンさんはからっと言ってのけると、俺と同じように手拭いで額の汗を拭う。


「……えらくはっきりしてますね」

「確かに一人家族がいなくなって寂しさはあるが、俺がすることは毎年変わらんし、あいつにしてもどうせ無難に学園でもやってるだろ?」

「ま、正解ですね」


俺は学園でのアレクを思い浮かべてみるが、原作の主人公ルートとは違い、特にこれと言った事件はアレクには起こっていない。

着々に成長している代わりに、劇的な事は何もない。


それこそが俺の望んでいた未来……だが、それはアレクの本来あるべきだった英雄としての未来を奪っているという事なのだ。

そこに罪悪感が全くないというわけではない。


だから俺はブラウンさんに、アレクの父親としての答えを求める事にした。



「ブラウンさんは、アレクにどんな子供になって欲しかったんですか?」



ブラウンさんは少し考える仕草を見せると、すぐにそれに答えてくれた。



「普通が一番だな!あいつは英雄だなんだと言って、世の中の全員にとっての特別になりたがっていたが、そんなもん将来の嫁さん一人だけでも十分だと思ってる。そういう意味ではそんな特別で唯一無二のお嫁さんつかまえて、一軒家を持って、そこで細々と嫁の尻に敷かれて暮らす。そんな普通な暮らしをしてくれたら十分だ!」



「……でも、アレクが英雄になれば、あなただって誇らしいんじゃ……」

「今のあいつは、もう既に誇らしいよ。あんなに元気に、死ぬ事も無く、普通に生きてやがる。シエル、お前は子供を持ってないから分からんかもしれんがな、あいつは何もしてなくても既に親にとっては特別だから、普通に生きてくれだけで結構。むしろ大きい事をしようとして死なれる方が親不孝もんじゃ。結局普通が一番!」


ニコニコとアレクを眺めながら話すブラウンさんの様子は、嘘一つなく全部正直に語ってくれた。


普通が一番、か。

それは俺がずっと願ってきたはずの将来の自分の姿だが、そんな普通な未来というのが既に特別なんだって事を、俺は知っている。

痛いほど知っているからこそ、ブラウンさんの気持ちがよく分かる。


でもそれはアレクの夢と交わる事はない。

あいつは英雄になりたくて魔法学園に来て、ダンジョンを全部攻略すると言っている。

でもそれはそれで、普通の夢なのかもしれない。


もはや普通って何か分からなくなってきた。


俺はトマトのへたを口で取って土に捨てる。

残ったトマトを全部口の中に放り込むと、それを見たブラウンさんは立ち上がって、アレクに叫ぶ。


「アレクーー!そろそろ、晩飯時だ!母さんに叱られたくなかったら、さっさと切り上げろ!」

「へーい!!」


俺はブラウンさんに続いて、立ち上がるとけつを叩いて土をとる。

俺は沈んでいく太陽を眺めながら一人、ひっそりとため息を零した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ