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クソラノベの世界に転生した俺は原作を破壊する事にした  作者: 雪本 弥生
第10章 モブはこの世界の物語を破壊する
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第75話 シエルの責任

この章で最終話まで突っ走ろうと思ってます!

この話を含めてあと3話!応援よろしくお願いします!


「確かに、シエルはあの人を拒絶して避けるようになったけど、二人はどこか繋がって、理解しているようだった。はたから見れば、いや、お互いの主観から見ても、仲の悪い親子だったんだろうけど、私から見たら全然そんな事はなかったわ」


シルビアは街道を歩きながら、後ろをついてくる二人に向かって話す。

夫と息子の行方を探すその足取りはゆっくりであり、その表情は穏やかだった。

アレクとシャルロッテは二人、横一列でシルビアのすぐ後ろについていく。


「あの人は毎月の終わりに必ず一輪の花を、私に見つからないように自警団支部の近くで買ってたらしいわ。ママ友の情報だったから誇張があるかもしれないと思って、月の終わりに私自ら張り込みをしてみたのだけど、あの人確かにたった一輪だけ花を買って出てきたの。その日はユリの花だったわ」

「ユリ……ですか」


「そう、似合わないでしょ?でもその後も暇だったからつけてみたら、あの人……シエルが助ける事の出来なかった人の、倒壊した家の前にそっとユリを置いて手を合わせ始めたの。シエルが学園に行ってしまった今でも、それは続けてるみたいね」


シルビアは十字路の角を曲がると、黙り込んだ後ろの二人を見て微笑む。


「多分、お互い分かってたのよ。お互い認めてたのに、ただ素直になる事ができなかった。それを今、あの人は後悔してる。後悔しているからこそ今、シエルを連れて何か行動を起こさなきゃって……そして着いたわよ、きっと二人はここにいるわ。迎えに行ってあげましょ」


シルビアは手を広げて先に佇む施設を示す。

そこは確かに、二人が今まさに戦いを繰り広げている、自警団支部だった。





俺は必死に腕を振りながら、父親の木刀を回避して、二つの意味で頭を回転させる。

この人を打ち倒せるビジョンが見えてこない。

圧倒的な強さ。

派手な戦い方なんてものはないけれど、隙も無い。


ついつい浮遊魔法に頼りたくなってしまうが、ぐっと堪えて足を踏ん張る。

それじゃあ、意味がないんだ。


「ここ!」

「がっ……」


容赦なく俺を襲う木刀に、ふらつきながらも何とか姿勢を整える。

もう体中、木刀で殴られている気がする。



しかしそんな痛みの中、木刀を握っていると、なぜか不思議と懐かしさというものがこみ上げてくる。

これは、この感覚は、俺じゃなくて多分、前の……。


それに気が付いた時、俺はもう考える事をやめた。

この感覚に身を任せてみよう。

きっと俺じゃなくて、こいつなら、もうこの人の倒し方を分かってるんだ。


「お前はそんなものか!」


俺の態勢が整うのを待って、足を踏み出してくる、父親。

徐々に間合いを詰められながら、振り上げられる木刀を見た俺の体は、意識の外で動き始めていた。


何度も何度も、子供のころから見てきたであろう太刀筋と足の踏み出し方。


俺は知っている。

『英雄になるために!』、あのノートの最初のページ。



「『第一に、父さんを超える!!』」

「……っ!?」



俺は太刀筋を見切るように足をすっとずらすと、そこからの攻撃の道筋が本当に一筋だけ、俺の目に映る。

あとはこれに従って、木刀をまっすぐに構えての……


「一点集中っ!!」

「お前っ……!!」


まっすぐ、首を狙った突きだ。

ここで手加減なんてする事はできない。

俺の全力を、この一撃に賭ける。


限界まで腕を伸ばし、体のバネを使って全速力で攻撃を届かせる!


しかし俺の木刀が首に触れるかという瞬間、俺の腹部に強い衝撃が走って、勢いが一気に消え失せる。


「げほっ!!」

「…………隙だらけだ……」


足で、がら空きになっていた俺の腹に向かって、蹴りを放ったのか。

あくまで冷静に、どれだけ近寄られてもぶれることなく俺の隙を狙ってこられたというわけか。

こりゃ、強いわけだ。

俺は蹴りの衝撃で、腹を抱えながら蹲る。



「もう、そこら辺でいいんじゃないの?」

「……シルビア」


父親の一言にびっくりした俺は顔だけ上げて周りをキョロキョロしてみると、母親と、アレク、シャルの二人も、訓練場の囲いのすぐ外からこちらを眺めていた。

父親は顔を上げた俺に視線を向けると、腕を組んで目を瞑る。


「……昔はよく、稽古をつけてってねだるシエルをあなたが追い返そうと、すぐ打ち負かすのに、その都度シエルが立ち上がって……って結局ずっと稽古に付き合っちゃった事とかあったわよね」

「……お前がシエルを心配になって迎えに来るまで、時間も忘れてやってたな」

「……そんな事、あったんだ……」


ニコニコと昔話を語るシルビアさんに、俺は指から木刀を離し、手を開いたり閉じたりする。

そうか、だから、頭で覚えていなくてもこの体だけが覚えていて、あんな動きができた。


俺がそんな思いにふけっていると、父親は俺のすぐそばまで歩み寄り、手を伸ばしてきた。

俺は少し逡巡するが、すぐに伸ばされた手を掴み、体を引き上げてもらう。



「シエル……お前に前の記憶がないって事は、シャルロッテさんから聞いた。お前の言葉や、太刀筋からもそれは分かった。お前がすっかり変わってしまった事は……分かった」

「…………」


「……でも、そんな中でも変わらないものは、確かにあった。最後の捨て身の攻撃とか……何度も受けてきた、そんな技だったから俺も対処できた。全部、無くなってしまったわけじゃないって事が分かったから」


父親は、俺の手をぎゅっと、離す事無く、続ける。


「父親とか、母親とか……お前はもう大人だから、今更そんな事思ってくれなくていい。でも……お前が俺達の息子である事には、変わりはないんだ。だからこれからも勝手に……父親面はさせてくれ」


父親……いや、父さんだ。

父さんは顔を俯かせると、両手で俺の手を掴み、がっしりと握る。

俺は、そのぬくもりが暖かくて、ただひたすら心が、優しさに包まれているようだった。


「シエル、私たちはもう十分、あなたから貰ってるの。どれだけ私達の事を忘れていたとしても、あなたが元気に生きて、成長して、笑顔でいてくれたら、それだけでいいの。それは……あなたが生まれたあの日から……何も変わってない事だから」


母さんは、そう言うと、涙ぐんだその目を手で拭って、それでも顔を上げて笑顔を浮かべる。


「あなたは気にしているのかもしれないけれど、私達の知ってるあの子は確かにあなたの中で生きてる。私だけじゃない、私達は分かってる。……だからたまには、帰ってきなさい。また0からでいいから、顔くらい見せに来てちょうだい」


俺は、顔を向けると、父さんも頷いてそれを肯定する。


この世界に来て、俺はずっと一人ではなかった。

何よりこの人達がずっと傍に居てくれた。


そんな人達に、こんな俺はどうすれば報いる事ができるのだろうか。

……いや、違うんだ、その答えはこの人達と見つけていけばいい。

そんな中で、見つけたものを、返していけばいい。


だから俺は、父さんの手を握りながら、力強く、


「………はい!また……来ます!」

「……あぁ」「いつでも、この街で待ってるわ」


俺は父さんと母さんと目を合わせ、笑みを浮かべると、父さんと一緒に皆の待つ囲いの外まで歩く。


そこではアレクがその場の椅子に座りながら、俺の方を見てニヤニヤしている。


「……なんだよ」

「いや、シエル君も人間だなって思って」

「……なんだ、そりゃ」


アレクに呆れるように笑顔を浮かべると、俺はシャルの方へ向かって歩く。


「色々、気を遣わせちゃって、悪かった」

「……いいえ、見てて分かった。私が何もしなくても、きっと何とかなってた。……完全なる余計なお節介だったわね」

「そんな事ない。また何かあれば頼むよ」


シャルはアレクと一緒に立ち上がると、俺に向かって荷物を投げて渡す。

そうか、意外と結構時間も経ってたのか。


「それじゃあ……俺達はとりあえず、これからダンジョンに行ってみます。ホント短い間だったけど、ありがとうございました」

「そう、寂しくなるわね」


俺が頭を下げると母さんは父さんに寄り添いながら、寂しそうに眼を伏せるが、俺は頭を上げて二人を笑顔で見る。



「また、帰りの日には寄るから……いいかな?」

「……ええ!もちろん!」

「あぁ、無事に帰って来い」

「はい!!」


俺は手を振って二人に挨拶をすると、振り返ってアレクとシャルと一緒に歩き出す。


「……もう、いいの?」

「あぁ、今日は、これだけでいい。今日は」

「………そう」


俺達は振り返ることなくその場を後にした。

今日はこの街に来れてよかった。


体はボロボロで、腕を荷物を持っているのも面倒になるほど疲れてはいたが、足取りだけは軽やかに、俺は自警団の支部を出た。


既に時刻は昼の時間をまわって、3時のおやつ時だ。


「よし、急いで、馬車まで戻ろう!次はアレクの家も回らないと、だからな!」

「一日で全部回るつもり!?」

「今度はあなたが御者やってよね」

「そこは……じゃんけんだろ」


結果、じゃんけんに負けたシャルはぶつぶつ文句を言いながら、御者を引き受けてくれた。

俺は再び馬車の荷台の上に乗りこむと、街を振り返って息を零す。

こんなに短い時間で、感情が揺さぶられ過ぎた帰省だったけど、最後はよかったと思える、そんな帰省だったように思う。


「……行ってきます」


俺はそれだけ呟くと、腕を後ろに組んで、静かに目を閉じた。




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