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クソラノベの世界に転生した俺は原作を破壊する事にした  作者: 雪本 弥生
第10章 モブはこの世界の物語を破壊する
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第72話 修羅場の予感


「シャルロッテさんどうしたの?」


アレクは7月31日の放課後、シャルロッテに呼び出されて教室に居残っていた。

シャルロッテは、アレクと向かい合って、話を切り出す。


「夏休み、何か予定はある?」

「うーん、先生も言ってたし、いつか一回は実家には帰ろうとは思っているけど……」


アレクは宙を見つめながら、頭を捻って答えるが、シャルロッテはその答えを聞いて少し考える仕草を見せる。

まさかデートのお誘いか、と一瞬期待してみるが、そんなわけがない事は分かっていたので、すぐに頭を振り払う。

となれば、シエル関係の何かがあったのだろうか?とアレクはすぐに頭を切り替える。


「……先生から聞いて、もう場所は分かってるわ。だから私と、シエルを連れて一緒に寄って欲しい所があるの」

「寄って欲しい場所?それはシエル君には……」

「あの男にはくれぐれも内密に。言えばきっと……来ないから」


少し俯いたシャルロッテさんは、夕日に反射してその髪を赤く染める。

自分の親友と、仲間が何かを抱えている。

アレクに、拒否するという選択肢は、なかった。





「……着いたわよ、疲れたからここでしばらくは休憩ね」

「勘弁してくれよ。マジで強引に俺の実家に来やがって。本当に何しに来たんだよ……」

「何って、シエル君のご両親に挨拶しないと!毎日学校でいじめられてます、って!」

「ギリ否定できないから、絶対やめろよ!」


俺は頭を抱えて、馬車の荷台の上から街を見渡してみる。

西洋風の建物が並んでいるが、そもそも俺はこの街の名前すら知らないのだ。

シエルとして、一度くらい両親に顔くらいは見せておくべきだと少し思ったが、よく考えてみればリスクしかない。


俺がシエルではないとバレたら、あの女性はどう思うのだろうか。

まだどんな人かも知らないが、父親は俺を認めてくれるのか?

そんなわけがない。


「…………やっぱり……」

「何をウジウジしてるのよ。早くそこから降りなさい」


はっと顔を上げると、シャルが馬車から飛び降り、俺に向かって疲れた目で呼びかける。

そういえばシャルに対しては、学園に来る前の記憶がない、みたいな話は一度した事があるはずだ。

それを知った上で言っているのだとしたら、嫌がらせか、それとも……


「……分かったよ」


シャルは俺が馬車から降りるのを見届けると、何も言わず前を向く。

その態度でなんとなく、色々分かった気がする。


「アレク、こっち向け」

「へ?」

「アッチョンブリケっ!」

「むぎゅっ!?」


俺は振り向いたアレクの頬を両手の掌で挟んで、力を込める。

まるでアレク自身が計画したかのように今回の帰省を決行しているが、裏にいるのは多分シャルだ。

口止めをされているのか、アレクが勝手に気を利かせたのかは分からないが、ともかくこいつはそれを隠そうとした。


そこまでして俺をここまで連れてきたシャルの目的は……。


「なにを遊んでるのよ?早く、準備しなさいよ」

「……はい」


俺はその眼力に負け、反抗する事もできずシャルについていく。

ここまで来てしまったら、もはやどうにもならない。


いい加減逃げてないで、けじめをつけろ、って事なんだろうな。


俺の家族問題は、切ろうと思っても切れない問題だ。

いずれは、俺の人格、少なくとも記憶がないという現状を説明しなければいけない日は来るだろう。


ここでシャルには関係ないだろ、と突き放すこともできない。

人に弱みを教えるとは、こういう事なのだ。

それを分かった上で俺はあの日、シャルに救いを求めた。


俺は空を見上げてため息をつく。


「……全部アレクのせいだ」

「なんでだよ!」


俺はとぼとぼと歩きながら、頭の中でシエルの親と会った時のシュミレーションを繰り返す。

何度やっても、全く知らない俺の親と、上手く語り合える未来などは見える事はなかった。




「あら?シエル?」

「……はいッ!俺、シエル?」

「なんで聞き返してるのよ……」


俺はあの日、この世界にやって来た日以来の自分の家にやって来ていた。

緊張と不安でどうにかなりそうだったが、前回学長先生と短い時間ではあるが対談する事ができたのがよかった。

あれ以上緊張する事もあるまいと、腹を括って家まで向かう事はできたのだが、玄関の扉から顔をのぞかせる金髪の婦人を見て、思わず声も上ずってしまう。

ジト目で見てくるシャルを全力で無視し、息を整える。


婦人は扉を開けると、俺達を笑顔で迎え入れてくれた。

いや、ただの婦人ではない、この人が俺の母親なんだ。


「あらあら!あなた達はシエルのお友達さん?」

「はい!僕、アレックスって言います!シエル君とはいつも仲良くさせてもらってます!」

「……私はシャルロッテです。突然3人で押しかけてしまってすいません」

「そんなの、いいのよ!私シルビアっていう名前なんだけど、とりあえず中に入って頂戴」


そう言ってシルビア……さんは、手をこまねいて俺達を中に招き入れる。

懐かしい感じもするし、久しぶりな感じもする。


「シエル、ここまで長かったんじゃないの?」

「……いや、ここにはダンジョンに潜るついでに立ち寄っただけで、すぐに出てく、よ?」

「あんた、さっきから語尾が全部おかしくない?学校の友達を家に連れてきて、緊張してたりする?」


そう言いながらシルビアさんは食卓にお茶を5杯分準備する。

緊張というか、どんな言葉遣いが正解か分からなくて手探り状態なのだ。

……ん?というかお茶5杯分って、俺達はシルビアさん含めて4人なんだけど……


「これ、5杯って?」

「あぁ、一つは……」


「俺のだ」


ぱっと家の奥を振り返って見ると、無精髭を生やし、鋭い目つきで俺を睨み殺してくる男がいた。

俺はその圧に負けて、その場から一歩後ろに引き下がるが、地味にシャルが邪魔をして、それ以上後ろには行けなかった。


たぶん、これが俺の父親……。

その瞬間、父親らしき人はふっと目線を落とすと、今度は穏やかな表情でアレク達を見る。


「……わざわざこんな所に顔を見せに来てくれて、ありがとう」

「いえいえ、僕もいつもお世話になっているシエル君のご両親がどんな方なのか気になっている節はあったので」

「ほお、それでは実際の私達は、君の予想よりもどうだったかな?」

「シエル君のお父さんは男らしくて、カッコよくて、お母さんは感じがよくて、予想よりもお綺麗でしたね」

「なんていい子!!ね、あなた!シエルも!!」

「確かに」


シルビアさんは手を叩いて、アレクの言葉に満更でもなさそうな笑顔を浮かべるが、俺は苦笑いでその場を凌ぐ。


この会話だったら普通の穏やかな父親らしいのに、なんでさっきあんなに俺にがん飛ばしてきたんだ?

父親は食卓に座ると、お茶をすすりながら、俺に話し掛けてくる。



「……それで、お前は何をしに帰って来たんだ?俺を拒絶し、魔法学園に逃げていったお前が」

「……………」



うーんと、これはもしかして、修羅場の予感……?


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