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クソラノベの世界に転生した俺は原作を破壊する事にした  作者: 雪本 弥生
第10章 モブはこの世界の物語を破壊する
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第71話 夏休みの始まり


7月も最終日、リゼ先生は、教卓の上で教科書を整えると、皆へ向かって宣言する。


「これにて、このクラスの春学期の授業は終わりとなります。夏休みといえど……」

「よっしゃあ!夏休みだああ!!」


喜び勇んでヘンリ君は立ち上がって手を上げるが、リゼ先生はパンパンと、教科書で教卓を鳴らし、静かにさせる。


「……夏休みといえど、ダンジョンに行ったりしても安全と節度を守った生活を心がける事。あと、ヘンリ君、リアラさんの二人は、テストで赤点だったので、夏休みの補習があります」

「えええええええ!?せっかくの夏休みなのに?」

「ほえ?わ、私もですか!?先生!」


リゼ先生はその冷たい眼光で両人を睨むと、二人はしゅんとなって自分の席で大人しくなる。

期末テストのテスト返しの時から、二人共おおよその覚悟はできていたのだろう。

リゼ先生は疲れたように息を吐くと、立ち上がって皆の顔を見渡す。


「夏休みなので、一度は家族に顔を見せてあげなさい。また夏休み明けには、皆さん全員揃ってこのクラスへ集まる事を祈ってます。それでは」


リゼ先生はそれだけ言い残して、教室を去ると、一気に教室の中は喧噪に包まれた。

それにしても、


「家族……ね」

「あなたは実家に帰省したりしないの?」

「うーん、微妙だな。シャルは?」

「私も微妙ね。帰っても別にいい事なんてないし」


シャルは荷物をまとめながら、目を合わせることなく答える。

それを見て俺も、荷物を簡単にまとめて考える。

シエルとしての俺はどうしたいのだろうか。

俺の親、初めてこの世界に来た時に出会ったあの女性と、まだ見ぬ俺の父親。

学園に籠ってずっと彼女らを避ける事も可能だろう。

しかし、それでいいのか、と俺の中の『シエル』が問いかけているようでならない。



「……手、止まってるわよ」

「あ、あぁ、ありがと。考え事してたから」

「……そう。またダンジョンに行くことがあれば、呼んでくれれば私も行くわ。基本暇をしているだろうから」

「そうか、その時は遠慮せずに呼ばせてもらうよ。ま、ヘンリ君とリアラさんが補習から解放されるまでは無理に行くつもりはないけど」

「そう。それでは、また」

「あぁ、また!」


シャルは立ち上がって軽く手を振ると、教室から一番乗りで出ていく。

まったく彼氏彼女の会話には見えないが、これでも最初の頃と比べればだいぶシャルの性格は軟化している方だ。

一昔前なら、手を振って挨拶なんて考えられなかったのだから。


俺は気持ちを切り替えて、ジャック君達や机の上で補習という名の懲役刑を宣告され項垂れている二人に挨拶をして回る。


アレクがヘンリ君を慰めているが、こうして見ると、やはり原作とはだいぶ流れが変わっているのだなと実感する。

具体的な日時までは覚えていないが、本来であれば、夏休みに入るころにはアレクは既に追放され、ヘンリ君とも袂を分けていたはずなのだ。


それが今はどうだ。

着実に変わっている。

いや、俺が変えたのだ。


変えたからこそ今、新たな問題も生まれようとしている。

学長とのやりとりは忘れてはいない。

この1か月、何かと警戒しながら過ごしてきたが俺の周辺に何かが起こった様子はなかった。

しかし夏休みと言えど、その警戒だけは怠るべきではないだろう。


俺は手のひらを握って、窓の外を見る。

空は憎たらしい程青く太陽は燦々と輝いていた。


こうして少しの不安を抱えながら、俺達の夏休みは幕を開けた。




夏休み1日目


「……なんで俺はまた馬車の荷台の上に乗っているんだろう」

「帰省だよ、帰省。よく先生に確認したらシエル君の実家、僕の実家に近かったらしいじゃん!こないだの月影草の任務の時言ってくれれば僕の実家だけじゃなくシエル君の実家にも立ち寄ったのに」

「だから言いたくなかったんだよ!」


俺はアレクに大声を出しながら、腕を組んで上を見上げる。

アレクが帰省する予定だから、どうせ暇なら一緒に来て、と頼まれてのんきに着いて来たもののこの調子でいくと俺の実家にもこいつ突撃する気かもしれない。


月影草の任務の時、近所だって言うアレクの実家に俺も立ち寄った記憶はあるが、確かに俺の実家はアレクの村からそう離れてはいない。

アレクの両親も普通過ぎてあんまり記憶に残っていない所はあるが、農家でとれたうまいトマトは食わせてもらったっけ。


「……で、それはそうとして、なんでいるの?」

「……別に。暇してたから、断る理由もなくて」


馬車の操縦席のような椅子の方へ目を向けると、シャルが首を曲げながら如何にもめんどくさそうな表情でそこに座っていた。

今回は冒険者の任務でもないので、できるだけ出費を抑えた結果、御者は俺達でやる事になっていた。


「いや、よく調べてみると、僕の実家とシエル君の実家の間に一つ面白そうなダンジョン、みたいなのがあったからさ。シエル君もあんまり帰省には乗り気じゃなさそうだったし、どうせならダンジョンにも潜るっていう理由があった方がいいかな、って事で」


アレクはニコニコと笑顔で説明してくる。

なるほど、それならシャルはダンジョンを潜る戦力として十分すぎる助っ人ではあるし、シャル自身もダンジョンに潜る事は乗り気だったはずだ。

何より、アレクにとっては帰省の理由付けという事で、俺に対して気も遣ったっていうのもあったのかもしれない。


まず俺の実家に突撃するという考えをやめて欲しいのだが、一人で帰るより皆で向かった方が俺としても何かと気が楽かもしれない。


いや、俺が帰って何を話せばいい?

『シエル』ではない俺が……。


「……憂鬱だなあ」

「夏休み初日なんだから、気分上げていこうよ」

「それよりなんで、私が暑い中馬車の御者やらなきゃいけないのよ!」

「「だって、じゃんけんに負けたから」」

「……あんたら、いつかこの恨みは晴らしてやるんだから!」


こうして馬車はゆっくり、その進路を進んでいく。

夏休みが本格的に、始まった。


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