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クソラノベの世界に転生した俺は原作を破壊する事にした  作者: 雪本 弥生
第9章 ロリ教師と美魔女の学長先生とただのモブ
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第70話 暗躍する男

学園には、西日が差し込み、一人の男の顔を照らしていた。

男は力強く扉を開けると、中には一人、金髪を肩まで伸ばしたスーツ姿の女性がいた。


「先生!学長は……」

「予想通り、ババアは元から俺には会うつもりはなかった。恐らく、リゼともう一人、リアラとかいう気弱な女子生徒を俺にぶつけるための呼び出しだ」

「それでは、今度も学長はこの件、先生に釘を刺したという事でしょうか」

「……いや、今回重要だったのは女子生徒の方だ。リゼではない、また別の駒がいるという事か……用意できるか?」


男は机の上に山積みになった書類を、強引に全て床に落とすと、すかさずそこへ女性が新たな書類を置く。


「リゼ先生のクラスの名簿です」

「……えーっと、こいつ、リアラという奴だ。こいつの交友関係に、今回の目標がいる事は分かってた。だから、とりあえずの餌だけはまいておいた。食いつくかどうかは時間次第だが……これに関しては今は問題じゃねえ。ババアの目論見は、他の奴だ」

「……他の奴、とは?」

「俺の計画をババアが知っているのだとしたら当然邪魔してくるはずだが、あのババアは直接動く事を極力避けようとするだろう。そうなると他に、俺に対抗馬を置きたいと考える。それも、いざという時切り捨てる事の出来る、ババアに対して敵対心を抱いている奴、もしくはババアの方から危険と判断した奴の方が何かと都合がいい」

「……そんな人、いますか?」


男は机の上の名簿を睨みながら、肘をついて考える。


「……リアラの、交友関係……そうだな、特にダンジョン演習時のメンバーを」

「こちらです」


男が指を立てると同時に、女は書類を準備して男に差し出す。

男はその紙を睨みつけると、一か所だけを指さして、女に向けて言う。


「……このシエルという男、徹底的に調べろ」


物語はシエルの知らない所で大きく、動き出し始めていた。





私が学長室で迷子になっていたらしいシエル君を寮長のルーベルトさんに引き渡し、リアラさんと別れて職員室に帰ってきた頃には、既に外は暗く、日は沈んでいた。

リアラさんは私の待ち人がシエル君だと知って驚いていたが、ぐったりとした表情で出てきたシエル君をルーベルトさんに引き渡すまで、ずっと私についていてくれた。


私はそんなリアラさんからもらった絵を、自分の机に広げると、自然と笑みがこぼれてきた。

絵の中の私は、本を片手に、やはり少し美化して描いてくれたのだろう、微笑みながらそっと本に目を落としている。


「……私、こんなに綺麗になれるのかな……」

「あなたは今も十分綺麗よ」


私の小さく呟いた恥ずかしい言葉を、誰かに聞かれたと思い、急いで後ろを確認すると、そこには予想外の人物が立っていた。


「え?おばあちゃん?」

「ここでは学長と呼びなさいと言っているでしょ?」

「す、すいません、学長」


私はあわてて頭を下げるが、周りを確認しても誰もおばあちゃんが職員室にやって来たことを認知している人はいなかった。

恐らく何か魔法を使っているのだろう。

おばあちゃんは、オリジナルの魔法を何個も開発したことのあるスペシャリストだ、今更驚いたりなどしない。


「……今日は、出てきてもよかったんですか?」

「ええ、たまには外に出るのも気分転換になるのよ。それに、あなたの生徒に怒られたから、ね」

「え?……シエル君が何か言ったんですか?失礼をしたんだったら……」

「違うの、違うの。彼とは意味のある話し合いができたのだから、別に怒ってはいないわ」


そう言って穏やかに微笑むおばあちゃんは、私の机の上に腰掛け、腕を組むと、机の上の絵を見る。


「上手な絵ね。モデルを選ぶ目も確かだから、あの子は伸びるわね」

「リアラさんは……自分の選んだ道をひたむきに進んでいる。私も、彼女はもっと成長すると思います。この調子でテストも、しっかりしてくれればいいんですけどね」


私は絵を見ながら、リアラさんのテストでの成績を思い出して苦笑する。

おばあちゃんはひたすら穏やかに、私の話に耳を傾けてくれる。

こんなおばあちゃんは久しぶりだ。

あの日以来、ろくにこんな風に話すこともできていなかった。


私は今日出会ったあの人の事を思い出して、おばあちゃんへ報告をする事にした。


「学長……今日グリムさんに……」

「その事は知っている。どうせ、今度は私が出向いてこい、とでも言い残してどっか行ったんでしょ?」

「……まさしく、その通りです」

「分かりやすいのよ、あの子は。だから今も放置をしているのだけれど」


おばあちゃんにとっても災難な男の話をしているというのに、当のおばあちゃんは全く気にすることなく、いつもの微笑みを浮かべたまま言う。

やっぱりすごいな、この人の度量は。

私は顔を俯かせていると、おばあちゃんは私に笑みを向けて立ち上がる。


「リゼはあの日の事を気にしているようだけれど、私は別に気にしていないわ。あなたの信用したグリム君を、私が信用して家に招き入れてしまった。学生のあなたに、グリム君を凌ぐことは誰だってできないわ」

「……でも、おばあちゃんはあの日以来、私と会ってくれなくなった。前まではあんなに仲良くしていたのに……。それもこれも、私を守るためだって事は分かってる!でも……私にはどれほどの罪滅ぼしをすればいいのか……」


その時おばあちゃんに向かって、あの日以来初めて弱音を吐いた私の手が誰かに握られる。

いや、誰かなんて決まっている。

おばあちゃんは両手で、私の右手を握る。



「私は、あなたを信頼してる」

「………っ!」



それ以上の言葉はなかった。

しかし、それだけで私には十分だった。

手のぬくもりが、私の心を暖めてくれる。


しかし、すぐにおばあちゃんは手を離してしまう。


「今日話してみて分かったけれど、やっぱりシエル君、あの子は危険ね。注意して見ていなさい」

「……え?シエル君がですか?」

「とにかく、これからグリム君とシエル君を中心に、何かが起きるはずよ。それがいつになるかは分からないけれど、いよいよ山が動くかもしれない」


山が動く……それは、おばあちゃんとグリムという両者の争いに何かしらの決着がつくかもしれない、そういう事だ。


「……あのグリムさんが、負けますか?」

「それはやってみなければ、分からない。そしてこれからも、報告だけはよろしくお願いするわ。今度はグリム君周りだけではなく、シエル君に関係する事も」

「それは……」

「大丈夫、私はシエル君を今すぐ取って食おうとしているわけではないし、何よりあなたの生徒。手は出すつもりはないわ、少なくとも今は。だからスパイ活動、これからもよろしく」


おばあちゃんは平気でこんな事を命令してくるから、やはり怖い人なんだとは思う。

とはいえ私もこれまでおばあちゃんの犬として、活動してきた身だ。

スパイと言っても、ただ先生をやる中で気が付いた事を報告するくらいの仕事だが。


「それじゃあ、私は行くわ」

「え?まだ話したい事はいっぱい……」

「また今度」


そう言って、おばあちゃんは手を振ると、その姿がスーッといなくなる。

一体どんな魔法を使えばそんな芸当ができるのか、不思議ではあるが、私はとりあえず自分の椅子に座る事にした。

『また今度』か。


私は手を口に当てて、息を吐く。


そして、リアラさんの絵を大事に机の中へしまう。


「……今日は、いい日だったな」


日はすっかり落ちて、初夏の暑さだけが手の甲を伝う。

私は頬を叩き、先生としての仕事に取り掛かるのだった。



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