第69話 俺が選ばれた理由
俺は息を吐いて足を崩す。
「それで、あなたは俺に一体何をしてほしいんですか?」
「何も。ただ、忠告しただけじゃない」
そう言うと、学長は立ち上がって腰を伸ばす。
俺はそんな学長を目で追いながら、続ける。
「リゼ先生とリアラさんの件は?」
「それは、場を整えただけ」
「場を?」
学長はいたずらな笑みを浮かべてこちらへ振り返る。
「そう、“場”よ。このままいけば、グリム君の圧倒的有利のまま君は敗北する。君は私より弱いから、私の時よりも完膚無く倒されるでしょう。それはフェアじゃないわ」
「……俺が弱いのは否定しませんが、それではまるで、副学長が狙っている生徒というのが俺とリアラさんに関係の深い生徒で……」
「だから、そうだ、と言ってるでしょう」
いったいそれは……。
学長先生が指を鳴らすと、部屋の風景が変わり、満点の夜空の中にいるような、そんな風景に切り替わる。
しかし当の学長は自分の魔法に納得していないのか、首を傾げる。
「……学長先生は、こちらに肩入れはしてくれないんですか?」
「それはあなたが拒否した事じゃないかしら」
そうだった、俺つい10分ほど前にこの人に喧嘩を売った所だった事を忘れていた。
「それでも!あなたを殺そうとしたっていう人を野放しにしている理由が、分からない」
「あなたはまだ子供だから分からないことかもしれないけれど、あの子が私を利用価値で測ってくるように、私もあの子を利用価値でしか判断していない。そうした判断の中で、あの子は間違いなく優秀で利用価値があると私が判断した」
「でも……」
「勘違いして欲しくないのは、私にとってあの子が敵なのは間違いがない。そして私の敵と言えば、あなたも例外ではない」
俺は学長先生に睨まれ思わず息を呑むが、そんな俺の反応を楽しむように学長先生は指を鳴らすと、今度は夕焼けの風景だ。
「……私の敵と敵同士がぶつかろうとしている。これは、私にとっては得でしかない。あと、ここまであなたに話しているのは、あなたが私の学園の可愛い子供だから。その特別ボーナスだわ」
「……もう、いいです。これ以上聞いても、はぐらかされそうだ」
「賢明だわ」
とりあえず今日ここにきて分かったのは、俺の敵はストーリーだけではなく、この学園の学長、そして知らないうちに副学長が加わっていたという事だ。
両人共に、癖の凄いメンバーだ。
俺は立ち上がって聞く。
「あの、これだけ……。なんで俺なんですか?アレクでも、ヘンリ君でも、シャルでも……他にも頼りになりそうな人はいたわけで、なぜ俺を選んで、こんな話をされたんですか?」
「それはあなたが、そのメンバーの中で最も、常軌を逸しているから。そして、グリム君に最も似ていると思ったからよ」
「……俺ほど常識的な人間はあまりいないと思うんですけど」
「あら?いつから常識という言葉の意味は変更されたのかしら?」
学長先生は楽し気な笑みを浮かべながら、何度も何度も指を鳴らしては、風景を変えている。
それにしても俺がグリムという副学長に似ている、っていうのは絶対に褒め言葉ではないよな?
俺は目を瞑って語りかける。
「では最後に……。俺はあなたの、少数を切り捨ててでも大をとるというスタンス、尊敬しますよ。この部屋に閉じこもっているのは、あなた一人と、リゼ先生、副学長の二人、これを比べた結果一人を切り捨てた。その結果なんでしょ?」
「あら、事の詳細も知らないで、よく予想できたわね」
「なんとなく分かりますよ。副学長とあなたの冷戦状態を持続する為、あとはリゼ先生を巻き込まない為なんですかね」
「……………」
学長先生は指を止め、無言でだらりと腕を下ろす。
俺はスタスタと部屋の扉の方へ歩いていく。
「……あなたはその態度に反して、根本には愛を持っている。家族なんだったら、リゼ先生にも、たまにはこんな風に接してやってください。言葉にしないと伝わらない事はあると思います。それじゃ……今日はありがとうございました」
「……あなたはやっぱり、変わっているわね。グリム君とは違った意味で、変人だわ」
「よく言われます」
学長先生は最後に微笑みを浮かべると、俺の前の扉が勝手に開く。
ずっと思ってたけど、この便利そうな魔法、いつかこっそり俺に教えて欲しいな。
「ルーベルトに聞きなさい。それでは」
「勝手に心読まれるのも、あなたが相手だったら恐怖しかないんですよ。それじゃあ、失礼しました」
俺は頭を下げて学長室を後にする。
今すぐ走ってこの場を去ってやりたいが、何をしてもあの人にはバレそうな雰囲気なので、俺は大人しく、分かりやすいように示された矢印に従って、順路に沿うように学長室の出口へ向かう。
しかし、ルーベルトさん、あんな恐怖の大王みたいな学長と何か繋がりがあったのか?
この学園にはまだ何か、ある……か。
俺は天井を見ながらため息をつき、そして、自分が学長室で迷子になった事に気が付いた。
俺、矢印に従って歩いてただけなんだけど、2枚目の扉にも永遠に行きつかない……。
……あの学長め、最後の最後にちっちゃい嫌がらせしやがる。




