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クソラノベの世界に転生した俺は原作を破壊する事にした  作者: 雪本 弥生
第9章 ロリ教師と美魔女の学長先生とただのモブ
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第67話 美人画の憂鬱


私が学長室の扉の前で、体育座りをしながら何やら難しそうな本を読んでいるリゼ先生を見つけたのは、時刻で言うと17時を過ぎたころだった。


「り、リゼ先生!……そちらで何を?」

「あぁ、リアラさん……別に、心配するほどの事じゃないわ。ただ……人を待っているだけ」


リゼ先生は言いにくそうに、チラチラと扉の方を振り向きながら答える。

人?


「それより、リアラさんはこんな時間まで何をしていたの?」

「あ、そ、それは!……昔から何かに熱中すると時間を忘れてしまうタイプで……うっかりこんな時間まで、庭のちょうちょさんが羽ばたく絵を、ずっと描いてました」

「……リアラさんらしいわね。いつか絵がたまったら、見せてね」

「へ?……あ、は、はいっ!!」


私はまた嬉しくなって、つい大きな声で答えてしまったが、リゼ先生は優しく微笑むだけで特に気にしていない様子だった。

これほど穏やかなリゼ先生を見るのも新鮮だったため、私は苦手な事ではあるけれど、もっと色々話を続けてみたいと思った。


「あの、リゼ先生は、先程から何の本を読んでいるんですか?」

「これはね……『ネーテルハイムの冒険』っていう、かなり昔の、それこそ古典と呼ばれるほど前の作品ね。内容としては子供向きと言われているけれど、読みにくいったらありゃしないわ」


リゼ先生は本を手に取ると、何かを懐かしむように、本の背をなぞる。


落ち始めてきた日に照らされる、その何気ない仕草が私にとってはとても美しく思え、強烈な印象と共に私の目に焼き付けられた。

私は膝を曲げてリゼ先生の横に座ると、手に持っていたスケッチブックを広げる。


「あ、あの!差支えがなければ、リゼ先生の人物画を描かせてもらっても、よろしいですか!」

「急にどうしたの。……でもそうね、こんな事滅多にないし、どうせならお願いしちゃおうかしら。私なんてよく子供っぽいって言われちゃうんだけど、こんなでもモデルでいいの?」

「な、何を言ってるんですか!リゼ先生はとっても美人さんですよ!それも学園でも大分トップクラスの……あ、すいません。興奮しちゃって」

「いいわよ。私なんておだてても、次のテスト、5点しか加点してあげないわよ」

「……5点も加点してくれるんですね。わ、私も本気出さないとです!」

「ふふ、どうでしょうね」


私が鉛筆を持ちながらぐっと力を込めると、リゼ先生は微笑みながら、本を読むのを再開する。

やっぱり今日の先生はどこかいつもより、優しい。

決していつものリゼ先生が厳しい、というわけではないが、何か肩の力が抜けているようなそんな感じだ。

私はスケッチブックに鉛筆を入れて、すらすらと描き始める。


「……この本、お婆様に買ってもらった初めての物なの」

「そ、そうなんですね!今も大事に持ってらっしゃるんですね」

「大事にしている、というよりも、なんだか離すことができなくて。……そういう魔法がかかってるのかとも一度疑った事があるくらい」

「……流石にそんな、魔法は、ないですよね?」

「分からないわよ。私のお婆様はよく分からない魔法を沢山開発してる人だから」


私が顔を上げてその表情を確認してみると、やはりその顔は穏やかそのものだった。

変な魔法を開発するお婆さん、という存在がリゼ先生の中でどういう存在なのか、一目ですぐに分かった。


「り、リゼ先生はそのお婆さんが、大好きなんですね」

「そう……なのかしらね。でも、少なくともお婆様は私の事が好きではないはずよ」

「え?それはなぜ?」

「……人間いつだって片思いなものよ。どれだけ好き焦がれていても、振り向いてもらえるとは限らない……。この本の中に書いてあった言葉よ」


リゼ先生は少し微笑みながら、本のあるページを開いて私に見せてくれた。

そこには窓に映る女性を見ながらため息をつく、一人の少年が描かれていた。


「挿絵があるから、まだこの本も読んでいられるわ」


リゼ先生は再び本を膝の上において読み始めると、髪をかき上げ、息を吐く。

全ての所作が絵になる人だ。

正直シャルロッテさんにしても、リゼ先生にしても、羨ましい。

笑顔の中に、どこか儚さが滲んでいる。


私は筆を走らせながら、考える。


「……それでも、私は、やっぱり思い焦がれていた人と両想いになれたら、こんな素敵な事はないと思います」

「私も、そう思うわ。リアラさんにはそういうボーイフレンドはいないの?」

「だ、わ、私ですか!?いませんよ、そんなの、考える事もできないです!」


私は慌てふためきながら、デッサンを中止までして手を振っていると、そんな私を見てリゼ先生は笑顔で窓の方を眺める。


「……私はいたの」

「へ?リゼ先生に彼氏さんがいたんですか?あんまり想像できないです」

「それはそれで、失礼ね。でも違うの、そう思ってたのは私だけだった。私は初めて受けた優しさに勘違いをして、結果としてお婆様の首元に刃を突き付ける結果を招いてしまった」

「………それは……」


私はこれ以上言葉を続ける事ができなかった。

どういう言葉をかけてあげるのが、普通なのだろうか。

口下手なのが、とても嫌になる。


「それ以来ね……。私とお婆様の確執が決定的になっちゃったのは。まあ、随分前の話ではあるのだけど」

「……わ、私、それでもリゼ先生には、両想いを諦めて欲しくないです!うまく、言葉にはできないんですけど、頑張って欲しいんです!」

「…………」


私は絵を再開しながら、なんとか言葉を探っていく。


「片思いだけを、していても……きっと、実を結ぶことはないです。それは両想いをしようと、本心では思っていないから……楽だから。でもきっと楽をしていても、後悔が残るだけだと思うんです。私が、そうだったから……」


私は鉛筆を必死に動かしながら、思い出すのは中等部時代。

皆嫌いな人なんていなかった。皆と仲良くなりたかった。

でも、ただ思うだけで何もできなかった。

必死になって皆と話しかけていたら、仲良くなろうと努力していれば、過去は変わっていたかもしれない。


ここに入学して出会った、イレーナさんとフレアさん。

そして……。


私は、顔を上げて、リゼ先生の目を見ながら続ける。


「……つらい時は、あると思います。くじけそうになる時は、あると思います。でも、仲直りして欲しいです。こんな……私ですらできたんですから、リゼ先生にもできますよ」

「私は……こう見えて繊細な女だから、すぐくじけちゃうわよ」

「そうなったら、私がいます。きっとシエルさんも、シャルロッテさんも、アレクさんも、ヘンリさんも、クラスの皆さんもいます。弱くても、いいんです。くじけそうな時は、皆に頼れば、いいんです」


私は先生に向かって笑みを浮かべながら、絵の最後の仕上げに取り掛かる。

リゼ先生はそんな私を見て、何かを考えるように、本に目を落とす。


「……リアラさんも変わったわね」

「え、そ、そうですか?私は……あんまりそんな感じしないですけど」

「最初、入学してきた時よりも、自信があると思うわ。生徒が勝手に成長するのも、寂しいものね」

「だ、だとすればそれは、私だけじゃなくて、周りの、リゼ先生を含めた皆さんのおかげだと思います!私は多分……すごい恵まれたんですね。……そして、できました!」



私は照れを隠すように、大きくスケッチブックを持ち上げて、絵をリゼ先生へ見せた。

人物画など、あまり描く機会もなかったが、今回ばかりは丁寧にそれでいて丹精込めて描いた、自信作だ。


「……すごい上手いわ!私も綺麗に見えるように描いてくれてるし。背景も、影の感じも、短い時間でよくここまで描けたわね」

「そ、そこら辺は普段もよく描いているので。……えっと、喜んでもらえてよかったです!良ければ……」

「貰っていいの?こんなの……時期が時期だったら、泣いちゃってたわ。ありがと」


こうやって自分が描いた絵をすごい褒めてくれると、やはりすごく嬉しい。

自分が好きでやった事に対しておかしいかもしれないが、これがやりがい、というものだろうか。


私は顔を赤くしながら、スケッチブックから絵を一枚丁寧に切り離す。

そして先生に渡そうとした時、そこにその人は現れた。



「……確かにうまい。だがそれだけだな。独創性がない」

「へ?だ、誰なんですか!?」

「それにこれ、モデルを美化しすぎじゃねえか?そんな大したもんじゃないだろ」


本人を目の前にしてとんでもない失礼な事を言う男は、私の絵をつまみ上げると顔を顰めて絵を見る角度を変えたりしている。

ホントに誰なんだ、この人は。

私は突然の出来事に驚き、その場を動けないでいると、リゼ先生が立ち上がってくれた。


「私の生徒の絵を品評する権利はあなたにはない。いいから返しなさい。それに一体何をしに……」

「そうだ、絵なんざ、どうでもよかった。これが欲しいなら返してやる」


凄い上から目線で、恩着せがましく絵をリゼ先生へ返す、その男。

リゼ先生は絵を大事に抱えるとその男を睨む。


「私の質問は……」

「俺の要件は、その中だ。お前がそこを塞いでいたから、声を掛けたまで」

「この中?今度は一体何を……」


リゼ先生が問い詰めようとした時、その男の纏う空気が一気に冷える感覚がした。



「お前のような利用価値のない雑魚と戯れている暇はねぇんだ。いいから、どけ。これは副学長命令だ」

「………っ!」


その男は、副学長と名乗った。

そして学長室を前にしたこの空間は、一気に張り詰めた緊張感に包まれた。


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