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第64話 一人じゃない


俺が手を閉じると、その瞬間空から火の玉が二つ、死角からヘンリ君を襲う。

これも浮遊魔法の応用で隠す事ができたものなのだが、これが俺の最後の悪あがきだ。


しかし、ヘンリ君は顔を動かす事無くそのまま前を向いたまま俺を見据える。


「やっぱ、お前と戦うのは面白いな!でも、ここまでだ!」


分かってはいた。

分かってはいたが、ヘンリ君は目にも止まらぬ速さで俺のファイアーを躱すと、そのまま俺の元までやって来る。

そして思い切り木刀を振り上げるのを見て、俺は両手を挙げた。


「……降参、だよ」

「……そうか」







その瞬間俺の敗北が決定し、ヘンリ君の圧倒的勝利が決定した。

俺は手の砂埃を払いながら立ち上がると、頬の傷を手の甲で拭う。


「やっぱり、ヘンリ君は強いね。今の俺じゃ勝てる気がしなかった」

「そうか?こっちとしては最後まで気は抜けなかったけどな」

「それは、俺に期待してたって事かな?自分を超えるかもしれない可能性に期待してた、違う?」


実際に拳で語るなんて事できるのか、と疑念を抱きながら始めた勝負ではあったが俺としては色々な事が知れたような気がする。

ヘンリ君は最後まで俺なんかを相手に、本気でその実力を見極めようとしてきていた。


「………」


ヘンリ君は俺の言葉に対して何も言わない。

俺はそんなヘンリ君の目を見ながら、続ける。


「それじゃあ、これだけは正直に答えて欲しい。この戦い、君は楽しかったか?俺は全部出し切ってもちろん楽しかったけれど」

「それは俺も……」


そこまで言ってヘンリ君は口を閉ざした。

全部出し切る、この戦いでヘンリ君は果たしてこれができたのか。

俺なんかでも、期待してたはずなんだ。

そんな期待を下回る俺の実力を目の当たりにして、本当に楽しかったのか。


「……あんまり楽しくなかったかもしれない。……そうだな、俺は自分が負けたくないと思っていながら、負ける事を期待してた。なんでかは知らないけど」


ヘンリ君は頭を掻きながら、掌を開いたり閉じたりする。


「……最近思うんだ。強くなっていってるは分かるけど、このままの道を進んでもそこに何が残るんだろうって。誰もいないその場所で何が楽しいのだろうって。俺って意外と寂しがり屋なのか?」

「人間誰しも、寂しがり屋なんだよ。それはあの堅物のシャルにしてもそうだし俺だってそうだ。社会とか、世界の一般から自分が離れていく事がものすごく怖い」


俺は手首を抑えながら天井を見上げて思い出す。

この世界にきて、ずっと認められたかった。

俺だけが違う世界の人間なのかもしれないけれど、それでも同じ世界を生きる人間としてこの世界を生きる仲間として認めてもらいたかった。


俺の場合はそれをシャルとかアレクとかに求めたら、それぞれ答えをくれた。


ならヘンリ君の場合は……


「……やっぱり俺はこのままお前らといても、いいのかな?」


ヘンリ君は俺と同じように、天井を見上げながらぽつりと呟いた。

それを聞いて俺は腕を組んだ後、少しして微笑みを浮かべて答える。


「それは、まだ分からないんじゃないかな。俺は確かに君の期待に応えられなかったかもしれないけど、まだ『俺達』は分からないだろ?」

「俺達?」


そう言ってヘンリ君は顔を戻すと、俺の後ろの扉からぞろぞろと出てきた人物たちを見て驚きを露にする。


「俺一人なんかにはなから期待するもんじゃないよ、ヘンリ君。俺なんか一人じゃ何もできない様なただの凡人なんだから」


「それを言ったら僕だって一人じゃダンジョンなんてとても入れないよ」

「わ、私だって、一人じゃ、あたふたするだけで一日終わっちゃいます!」

「……リアラさんがあたふたしてる絵、すぐ思い浮かぶわね」


そこにはアレク、シャルに加え、リアラさんがいた。

放課後になったらここに来るよう言ってあったが、ナイスタイミングだ。


こういう所はさすが状況判断の鬼アレクだ。


「皆……聞いてたのか?」

「私達だけじゃないわよ」

「は?」


ヘンリ君がシャルの言葉を聞き返すと、シャルの後ろから更にぞろぞろと人がやって来る。

うん、頼んだ通りだ。


「今日のおかずはいらないから放課後来い、と言われてたから来てやったがこれはどういう状況だ、こら!」

「ジャック君を暇だと思って舐めてんじゃねえぞ、こら!確かに暇人だけど!」

「シエル氏に借りを作れると思えば、安いものですけどね」


「リアラさんに頼まれてきたけど、私達いる?」

「というか、私達あなた達に近づいたら駄目みたいな約束してなかったっけ?」


お馴染みジャック君達一行と、イレーナさんフレアさんの二人組が来てくれた。


イレーナさん達の説得は仲直りをしたリアラさんに一任したが、ジャック君達に関してはほとんど説明もせず、来れたら来て程度にしか言ってなかったのに来てくれた。

というか俺の知り合い、皆キャラ濃っ!!


「……これは、どういうつもりだ?」

「君は確かに一人ならば、学年最強なのかもしれない。それもぶっちぎりの。君はその事を寂しいと思ってた、そうだね?」

「確かにそうだけど…」

「なら、俺だけでは勝てないから応援呼んでみました!俺達、ならヘンリ君に勝てる!」

「いや……そりゃ、そうだろ!9対1とか、勝てるか!?」


ヘンリ君は叫ぶが、俺は知らんぷりで皆に向かって戦う準備を整えさせる。

皆、あの学年一位ヘンリ君をボコボコにできると思ってか、各々張り切って準備体操をしている。


「いや、お前ら、考えろ!この構図、絶対弱い者いじめだから!」

「ヘンリ君、確かに君は強い。でも、まだ俺ら全員を倒す事もできなければ、最初から勝てないと思っちゃうくらいの弱虫だ」

「なんだとぉ……」

「強すぎて困ってるんだったら、いつだって俺達でヘンリ君をボコボコにしてやる。一人ひとり、確かに君より弱いかもしれないけど、皆多かれ少なかれ君を気にかけてる点では同じなんだ」

「……」

「俺達を早々に見限ってるんじゃねえぞ、ヘンリ君!強すぎて面白くない、なんてセリフ、俺達に勝ってから言え!」


俺はニヤリとヘンリ君へ向けて笑みを向けると、アレク達の方へ歩み寄る。

ヘンリ君は最初素っ頓狂な顔をしていたが、次第に笑顔を取り戻すと、横に置いていた木刀を手に取り、叫ぶ。


「分かったよ!挑発に乗ってやる!!俺をボコボコにできるもんならやってみろ!!俺は負けねえから!!」


「ああん、俺らもてめえなんかに負けねえよ!!……俺らのシャルロッテさんがいる限りなあ!?」

「ジャック君、流石!めっちゃカッコ悪いっす!」「戦うのはいいけど、私の魔法の邪魔だけはしないでよ」

「私の体術もね」


なぜか事情を何も説明してないはずのジャック君が一番乗り気で特攻していくのを皮切りに、他の面々も、ヘンリ君へ向けて攻撃を仕掛けていく。

俺は一人、少し離れたところで座りながら、目を閉じて思い出す。





――俺は昼休み、シャルとアレクに放課後何をするつもりか、説明し終わった所だった。


『……それでヘンリ君がまた活き活きしてくれるなら、いくらでも僕は協力したい』


『私も、今はあいつの調子がいいだけで後塵をきしているけれど、いずれ抜き返すわ。その時までに腐られたら、困るもの』


アレクとシャルは、それだけ言って、なんの文句も言わず俺の計画を受け入れてくれた。

リアラさんも、ジャック君達もイレーナさん達も同じだ。





俺は目を開けて、ヘンリ君と皆の戦いを見守る。

シャルの特大魔法に巻き込まれて一人吹っ飛ばされる眼鏡。


俺はクスリと笑うと、隣に座る人に向かって笑みを向ける。


「青春、してるでしょ?」

「……確かに。だいぶ構図としてはグレーゾーンではあるけれど……」


リゼ先生はそう言うと、体育座りから立ち上がって、スカートの砂を払う。

なんだかんだ言って心配になって、わざわざここまで見回りに来たのだろう。


「先生の話、すごく参考になりました」

「………」


リゼ先生は思い出して顔を顰めるが、確かにリゼ先生から聞いた学長先生の倒し方、あれは大きなヒントを俺に与えてくれた。


『そうね……私なら、誰か学長先生を倒せそうな、他の人に頼っちゃうわね。1人で何でもできる必要なんてないのだから』


「……まあいいわ。後片付けもちゃんとするのよ」


そう言って息を吐きながらリゼ先生はすたすたとその小さな歩幅で、決闘場を後にしようとする。

そんなリゼ先生を俺は呼び止めた。


「リゼ先生!」

「……何?」

「…………俺はいつでも、先生に頼られたら助けますから」

「……そう。ありがと、でいいの?」


リゼ先生は首を傾げ、不思議な子を見るようにして、そのまま決闘場を後にした。


まだ見ぬ学長先生とリゼ先生の関係など、俺だけが知っていて俺だけが解決できることはまだまだいっぱいある。

その全部を俺が解決するなんて事、もちろんできない。


でも、俺は一人ではない。



「し、シエルっ!!やっぱりシャルロッテさんはチート……ぉおおおおっ!!」

「シエル君!ヘンリ君にやられたものより、シャルロッテさんの魔法に巻き込まれた二次被害の方がとんでもない事になってるから、早く来て!?」

「だから、ごめんって。私、魔法のコントロールは全然だから……あ、言ってるそばから、ごめん!」


どうやら対ヘンリ君の戦線では、敵よりも味方が大暴れして混乱が起きているらしい。

俺も膝に手をついて立ち上がり、腕を伸ばしたり膝を曲げたりして準備を整える。


まずは真っ先にシャルの魔法の二次災害を食らったジャック君達三人の救出からだな。


「よっしゃ、俺も混ぜろ!」

「いじめだよね!?絶対これいじめだよね!?いじめアンケートに書いてやるからなあああああああ!?」


四方八方からの魔法を耐えしのぎ続けながらも、楽しそうな顔を浮かべるヘンリ君と、9人のいじめっ子達。


セミの音が少しだけ俺の耳の中で鳴り響く。


夏はこれからが本番だ。

そして原作のスタートが、既にあと1か月まで迫っている事に、俺はまだ気づいていなかった。


次回幕間です!

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