第61話 再戦
「……ここ、なんだか懐かしい気がする」
「俺も。……つっても、まだ2か月くらいしか経ってないけどね」
「結局あの日以降、隠し芸見せてくれなかったけどな」
「ヘンリ君には分からないかもしれないけど、あれ結構身を削るんだよ」
俺は一人、あの日、ヘンリ君とペアを組んでリゼ先生に公開処刑をされた日以来、来る機会も無かった授業用決闘場の一角で座っていた。
放課後の今となっては、もう誰もここを使う人はいない。
そこへ現れたヘンリ君は早々に上着を脱ぎすて、腕をまくる。
改めて思うが、大層端正な顔立ちに筋肉で引き締まった綺麗な体をしてらっしゃる。
「……でも、なんで脱いでるの?」
「え?俺とシエルで今から死闘を繰り広げるんだろ?俺そのつもりで来たんだけど」
「俺はたいていの事案は話し合いで解決する主義なんだよ。それに、話し合いをしようってちゃんと言っただろ?」
「話し合いって、殺し合いって読むんじゃねえのか!?」
「発想が戦闘狂だ!?あと、ちゃんと声に出して言ったんだから、ルビとかないんだよ!!」
俺は頭を抱えながら、一応立ち上がって、ヘンリ君の元へ寄る。
「今日呼んだのは、色々ヘンリ君に話したかったことがあったからだよ。ここに呼んだのは……まぁ、雰囲気作りだよ」
そう言って俺は不満げな顔のヘンリ君を無理やり地面へ座らせ、俺もその隣に座る。
「雰囲気作りって、告白する訳じゃあるまいし……え!もしかしてお前、そっち系!?」
「違うわ!!全力で否定させてもらうし、そもそも決闘場で告白って、雰囲気としては致命的だからね!」
俺は久しぶりのツッコミ役に若干戸惑うが、やっぱりヘンリ君との会話は相変わらず楽しい。
俺は顔を崩し、ゆったりくつろいだ態度でヘンリ君との会話を続ける。
「そういえば、シャルロッテさんと付き合ってるとか付き合っていないとか。俺よくわっかんねーんだけど、アレクも知らないっていうし、真相はどうなんだ?」
「うーん、付き合ってはいるんだろうけど、微妙な距離感をずっと保ってる感じかな。デートで外出とかした事ないし」
「ふーん、ところで鼻水ってなんでしょっぱいんだろうな」
「もっと俺の話興味持てよ!!鼻水と同列に扱われたシャルの気持ち!?」
俺は口では怒ってつっこんでいるが、その顔は穏やかでヘンリ君と二人して、同じように遠くを眺めているだけだった。
分かってるんだ、お互い。
本題に入るのがなんとなく嫌で、他の話で茶化してるだけなんだって事。
俺は両手を後ろについて、遠くを眺めながら切り出した。
「ヘンリ君は今……」
俺はそこまで口にしてから、考える。
これでいいのか?
言葉だけで済ませて、いいのか?
これまでの俺とヘンリ君の関わり方、向き合い方、それらを全部……。
突然俺が口をつぐんだことを不審がったヘンリ君はこちらへ振り向くが、俺はその瞬間に立ち上がった。
そして言う。
「よし、ヘンリ君!やっぱり戦おう!拳で語るってやつ、憧れてたんだ」
「たしかに、なんかカッコいいな、それ!よし、やろう!」
ヘンリ君はすぐに笑顔になり、両手をついて一気に立ち上がる。
俺は夏のムシムシとした暑さにうんざりしながら、ヘンリ君と同じように袖をまくる。
「……というか俺もヘンリ君も、なんで夏に入ってまだ長袖着てんだろ」
「俺に関してはアホだから、完全に衣替えする時期を逃したのと、なんか袖まくるのカッコいいからだぞ」
「うん、俺も全く同じ理由だったから、つまりお互いアホ同士だったってわけだな」
俺は目を瞑りながら、少し微笑んであの日と同じように台の上に上がる。
実技の時間も、なんだかんだ言ってあれからヘンリ君以外の人と組んでいたから、こうして対峙するのはホントに久しぶりだ。
ヘンリ君はその場にあった適当な木刀を手に取り、急いで台の上の上に駆けあがる。
「負けた方どうすんだ?」
「そうだね、夏服に衣替えする、とか?あんまり罰ゲームって感じじゃないかもだけ……」
「くっそぉ!って事は俺もう、先生に対する勉強頑張ってるアピールで袖まくれなくなるじゃねえか!!何たる凶悪な罰ゲーム!」
「思いのほか、せこいこと考えてた!?俺この罰に関してノーリスクなんだけど、いいのね!?」
俺は叫ぶが、ヘンリ君は既に戦う準備を整えていて、いつでもかかって来いと言わんばかりに集中を研ぎ澄ましていた。
その自信に満ちた顔は、負けるわけがないという、自負によるものだろう。
そしてその自信は何も間違っていない。
実力差を考えれば、俺はこの戦いで必ず負ける。
俺は目を瞑って、頭の中で魔法の詠唱を完成させる。
「ヘンリ君、君は一人じゃない」
「ん?」
「成長してるのは、君だけじゃないって事だよ」
俺は二本指をヘンリ君へ向けて、そのままピースサインを作る。
その瞬間ヘンリ君も何かを察したのか急いでその場を離れようとするが、既に俺の魔法はヘンリ君へ放たれていた。
「ルーベルトさん流・二段ファイアーの計だよ」
そして俺はヘンリ君を見据えながら、ピースサインで開いた人差し指と中指を、一気に閉じた。




