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クソラノベの世界に転生した俺は原作を破壊する事にした  作者: 雪本 弥生
第7章 主人公の覚悟と変えるべき未来
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第58話 この世界の主人公 ー後ー


「それは壮大な想像だね」

「だろうな、俺もそう思う」



俺とアレクは空を見上げながら、考える。

アレクという主人公がこの世界の結末を知っているとしたら、どうしただろうか。

もし俺とアレクの立場が入れ替わったとしたら、一体この主人公はどうするのだろうか。


俺とは違う結論を求めているのかもしれない。

俺が間違っていると、そう言ってもらいたいのかもしれない。


アレクはむくりと起き上がると、横に置いてあった自分のリュックサックの中を漁り始める。


「ちょっと、待ってて……と、これだ!」


アレクは何かを見つけて勢いよく取り出す。

それは一枚の、古臭く折りたたまれた紙だった。


「それは……」

「これは、僕自身もあんまり覚えていないんだけど、将来の夢を描いて、って言われた時の僕が描いた絵らしいんだ」


アレクは丁寧に紙を開くと、その中には幼稚園児が描いたような拙く独創的な絵があった。

アレクは笑顔で説明していく。


「左側で変な王冠みたいなのを被ってるのが僕だね。後ろには王女様みたいな人もいるね」

「お前……だいぶ痛い奴だったんだな」

「子供の絵だからね!?今の僕は王子様になろうだなんて思ってないから!」

「……それで右側のバイキンマンみたいな色あいの怪物はなんなんだ?」

「ば、バイキンマン?これは……多分魔王を描いたんだと思う」


アレクは指をさして思い出しながら、説明する。

魔王、か。


この世界における魔王というのは、はるか昔の所謂昔話の登場人物として扱われている。

世界を滅ぼす魔王という宿敵に立ち向かう英雄の物語なんて、どこに行っても溢れている。

それほど有名で、しかし存在しない架空の生き物だと誰しもが分かっている。

いや、信じているといった方がいいか。


「僕は……少し前までほんとは物語の英雄が嫌いだったんだ。でも、ダンジョンが溢れ、魔物が溢れ、不安だけが支配するこの世界にはきっと世界を明るく照らす英雄は必要なものなんだって事も分かる。そんな思春期らしいひねくれた事ばっかりよく考えてた」

「…………」

「それでも、1年位前にこの絵を見つけてやっと分かった。嫌いだって言いながら、子供の頃の僕は……他の誰とも違わない、英雄になりたかった子供だったんだ。どこにでもいる、そんな子供だった。多分それは世界の為とか、貧しくて困ってる人の為とかじゃない、自分の素直な気持ちであり、欲だ」


アレクは自分の子供の頃の絵をなぞりながら、呟く。

素直な気持ちとは、つまり自分の欲……。


「モテたいし、褒め称えられたいし、大金持ちにもなりたい!世界の為とか、そんな事は僕には分からない。ただ僕の目が届く範囲で、全力をかけて僕は自分の欲を実行する。その時障害になるのが魔王であるなら、魔王を倒すために全力を尽くすし、世界を救うのは二の次だ」

「……随分、自分勝手な英雄だな」

「間違いない。だから皆そういう気持ちを隠して生きてるんだろうね。でも、生きる上で忘れちゃいけない事なんだと思う。こうして古臭くなった絵を今でも持ち歩いてるのは、そういう意味だから」


そういってアレクは、静かに絵を畳む。

原作でも知らなかったアレクのルーツというものを見たのかもしれない。

普通の人と、俺と何ら変わりない、そんな素直な気持ち。


「だからシエル君の質問に対する僕の答えはさっきも言った通り、なんか嫌だからっていう自分の素直な気持ちに従って、そのために全力をかけて世界を救おうとするんじゃないかな」


アレクは紙をリュックに戻しながら答える。

俺は俯きながら、アレクに問いかける。


「それは……本来あるはずの未来を変える事になるとしてもか。一人の、英雄譚を潰すことになろうともか?」

「……シエル君は未来を変える事に、許可が必要だと思ってるのかな?」


アレクはリュックから手を離すと、首を傾げながらこちらへ向いて尋ねてくる。

許可…………そうかもしれない。


きっとシャルにも、ヘンリ君にも、アレクにも、皆に対してずっと探してきたんだ。

ずっと無意識に求めていたものを、アレクに看破された。

そうか、俺は皆に、許可が欲しかったんだ。




「未来っていうのは、こうした一つ一つの出会いと、めぐり合いで僕たち自身がつくるものなんだ。未来が変わるというならなら、変わった未来でまた英雄になればいい。僕がその英雄譚の主人公ならそう言うよ」




「……っ!」


アレクはあっけからんに言い放つ。

その言葉は、今の俺が欲しい何よりの“許可”だった。


まったく、これだから主人公には敵わないんだ。

俺とは違って、考えもせず、すぐに名言みたいな言葉が出てくるんだ。


俺は頭を上げて改めて考える。

うん、何も名言思い浮かばん。


「くそ……負けた!」

「なんの勝ち負け競ってたの!?」


俺もアレクも、譲るつもりはないって事だ。

アレクはアレクの物語の主人公で、俺は俺の物語の主人公だ。

世界なんてものは所詮舞台でしかない。

そこで何を演じるかは、俺達次第だ。


俺とアレクは再びベンチに横になり、空を見上げる。

そう、何も難しい事なんてなかったのだ。

毅然とした態度でいたつもりだが、俺はあの謎の婆さんに少なからず惑わされてたらしい。



「アレクさん!!シエルさん!!お母さんが……!お母さんがやっと……」



驚いて顔を横に向けると、今にも泣きそうな、それでいてどこかほっとして、喜んでいる表情のティナが走ってきた。

俺は起き上がり、立ち上がると、同時に立ち上がっていたアレクと顔を合わせる。


「行こうか。ティナちゃんのお母さん、ちゃんと助かったかな?」

「ティナの顔見てれば、分かるだろ?白々しい奴め」

「……少なくとも、あの子にとってのちっぽけなヒーローになれたんだって思うと……ちょっと照れるんだよ」

「……そうか。……ま、お前は今回大して働いてないけどな」

「ギクっ!結構雰囲気で誤魔化せると思ってたのに、バレてた!」


俺とアレクは手を振るティナを追いながら肩を叩き合う。

夜の闇に包まれた世界で、俺達は早足で駆ける。


暗い夜道ではあったが、俺は地面を踏みしめて前を向く。

前を向けばティナがいて、隣を見ればアレクがいる。


俺はふっと笑みをこぼしながら、いつもより気持ち軽やかな足取りで、ティナの家族の待つ家へ走って行った。



次回、皆さん待望?

お待ちかねの幕間です!

その次からはまた新たなお話も始まりますので、気楽に待っていただけたらと思います。(*´з`)

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