第52話 チート売りの婆さん
更新が遅くなってすみません。
ここで久しぶりに、『パーティーに追放された僕は、最強の能力に目覚め、レベル9999で世界を無双する。するとツンデレ美少女に懐かれ、人生逆転しました。今更パーティーに戻れと言われてももう遅い』の説明でも少ししておこうと思う。
原作のアレクはヘンリ君にパーティーの追放を言い渡されてからしばらくして、シャルに出会う訳だが、その間には一つのエピソードが挟まっている。
それこそが月影草イベントだ。
一人の少女が病気の母親を助けるためにこの依頼を出したわけだが、その結末はなんとも後味の悪いバッドエンドが待ち構えている。
アレクは一人になって初めて受けたこの依頼で一つ目のチートを授かるわけだが、ここで特筆すべきは『チート売りの婆さん』と呼ばれた老婆の存在だ。
ちなみにこの『チート売りの婆さん』という単語は一度何かのレビューで見たような気がして今回もそう呼んでいるが、まさに文字通りこの婆さん、アレクの覚醒に一役も二役も買っている。
「そうか、それならあなたもこの水晶に……」
「まぁ僕はいいけど、シエル君そんなに占い気になってたの?」
「当たり前だろ。俺は寮で張り出される学園新聞の誕生月占いコーナーと、四コマ漫画だけは毎朝チェックしてんだ!」
「子供か!?」
俺はアレクを押しのけて、婆さんの前に座って、水晶を見つめる。
水晶に何が出てくるかは分からないが、ここで大事なのはこの婆さんにチートを授かる事じゃない。
なんとかしてこの婆さんを仲間にする事、いや、逃がさない事というべきか。
「それでは手を」
「……はい」
俺が主人公ではないのは分かっている。
しかしアレクでも駄目なのだ。
アレクは原作で一度世界を滅ぼす結果を招いている事を考えると、今無理にアレクへ過度な力を渡すことは絶対に避けなければいけないのだ。
一体なぜアレクの力が世界を滅ぼす結果に至ったのか、それを語るのはもう少し後の事になるだろうが。
しかし今言えるのは世界を救って、尚且つ世界を滅ぼす結果を回避する、そんな方法を考えるうえでこの婆さんは確保しておくべきなのだ。
俺は息を吐いて水晶へ手をかざす。
「なんか出ました?」
「せかすでない。もう少しすれば……もう少し……」
婆さんはそう言うが、何も反応がないまま時だけが過ぎていく。
アレクの時は5秒もすれば何かが浮かび上がっていたらしいが、なぜ俺だけここまで反応がないんだ?
もしかして俺の人生お先が真っ暗過ぎて何も見えないとか?
……うん、ありえる。
「……これは……一体どうなっておる?お主、手を貸せ」
「い、いいけど」
すると婆さんは急いで俺の手を取り、思い切り広げさせる。
『あなた』から突然『お主』になったんだけど……。
そして何か分かったのか、婆さんはそのまま俯く。
その場はただただ尋常でない沈黙と緊張感だけが支配していた。
お医者さんに余命を宣告される前ってこんな緊張感なのかな、とか場違いな事を考えていると婆さんは顔を上げてまっすぐ俺の目を見る。
「……お主、なぜこれを知っている?」
アレクはその婆さんの質問にポカーンと、呆けた顔を見せるが俺にはすぐピンときた。
浮遊魔法の事だ。
「……知ってたから。ただそれだけですよ」
「お主……それに関してはよい。しかし分かっておるのか?お主がしようとしている事は……誰よりもお主が苦しむ結末だ」
婆さんは俺の手のひらを弱弱しく握りながら、まっすぐ俺の目を見る。
手を見られるだけでここまで分かられるなんて、やっぱりこの人は本物だ。
だが俺の答えは随分前に出ていた。
「分かってますよ、そんな事」
「分かっておるのか?お主は……器ではない」
「それも分かってます」
「……今ならまだ間に合うとしても?」
「全部、分かった上です」
アレクは依然首を傾げたままだが、婆さんはそんな俺の返答に何かを感じ取ったのか俺の手を離し水晶を自分の元へ引き寄せる。
「……ならよい。今の私がしてやれることは何一つないという事じゃな」
「え?結局どういうことか、僕には何一つわからなかったんですけど……」
「俺があなたをみすみす逃がすと思ってるんですか?あなたは何を、どこまで知っている?」
俺はアレクを無視して、自分の手を膝に置きながら、婆さんの目を見る。
すると、婆さんは水晶を両手で抱え少し笑みをこぼす。
「その目、その顔、その心と、覚悟。何度揺らぐことになるかは分からぬが、決して楽な道などないという事を忘れるなよ。そしてその道においてお主はそれを乗り越える義務がある」
「……あなたは…」
「私はあなた方の必要な時、必要な場所に現れるよ。それではさらばじゃ。健闘を祈る」
婆さんは目を瞑ってそれだけ言うと、俺の目から見ても明らかに魔法を使おうとしている事が分かった。
俺は急いで婆さんの手を掴もうと手を伸ばすが、その手は空を切る事となる。
「……っえ?」
「……逃げられた、って事だな」
先程まで婆さんが座っていたはずの場所は、まるで元々何もなかったかのように、ただ冷たい木の床があるだけだった。
不思議を体現したような婆さんではあったが、そんな婆さんと会話をして一つだけ分かった事がある。
馬車の外からは小鳥の鳴き声がうるさく鳴いている。
「……今回の依頼、絶対厄介な事になる気がする」
「……だね」
俺は婆さんを掴もうとした手をその場にだらりと下ろし、アレクに向かい合うように座る。
馬車は既に目的地のすぐそばまで来ていた。




