第51話 主人公は馬車の中でチートと出会う
「なぜ俺が貴重な休日を、男二人で過ごさなければいけないんだ」
「たまにはいいでしょ?他の皆は皆で忙しそうで、一番暇そうな顔をしてたのがシエル君だけだったから」
「よし、帰るか」
「ごめん、ごめん!!ただの冗談だから!」
アレクは俺の袖を掴んで、座るように促す。
俺はそんなアレクに溜め息をつきながら狭い馬車の中に座り、背中を伸ばす。
季節は夏に突入しようかという、6月、その頭だ。
結局俺とシャルはアレク達が冒険者登録をした1週間後に、冒険者として登録を済ませた。
しかし、ゆっくりと実績を重ねていこうとした俺達の裏で、アレク、ヘンリ君、リアラさんはどこぞの有名ダンジョンへ行き、本来現れるはずのない階層で強力モンスターに襲われるといった、これまたテンプレ的展開に巻き込まれていた。
もちろん主人公パーティーが負けるはずもなく、3人の絆の力でそれを撃破。
ゆえに冒険者ランクで言えば、俺とアレクには相当な差ができてしまっている状況だ。
ではなぜ今アレクと俺が行動を共にしているかというと、休日暇をしていた俺にアレクが冒険者としての依頼を持ち掛けてきたからだ。
「……これ、俺が受けていい依頼なのか?」
「流石に僕ももうダンジョンにはしばらく潜りたくないからね。随分敬遠されてた古い依頼ではあるけれど、簡単なやつだよ」
そう言ってアレクは懐から、冒険者ギルドで貰った依頼書を取り出す。
依頼内容を見てみればただの採集の依頼ではあるが、その場所が厄介だ。
崖の上に一輪だけ咲く『月影草』。
その効用は多岐にわたるが、とある難病の特効薬として多く用いられているらしい。
しかしここに辿り着くまでには魔物の多くうろつく、『月見の森』を抜ける必要もある。
「まぁ、俺の浮遊魔法があれば、カモみたいな依頼だけどな」
「だね!だからこそシエル君を誘ってみたんだよ。それにここ『月見の森』は僕の故郷に近いから、ちょうど良かったんだ」
そう言ってアレクはニコニコと故郷を思い出しながら依頼書をくるくる丸める。
俺がなぜこの依頼を一緒に受ける事にしたのか、それはこの依頼が楽そう、というのもあるが一番はこの依頼、俺には見覚えがあったからだ。
そう、原作『僕最強』のラノベで俺は確かにこの依頼を見た。
あれは……。
「そういえば、シエル君。最近クラスでシエル君とシャルロッテさんが付き合ってるなんて、根も葉もない噂が流れてるんだけど……」
「あー、今日は月が綺麗だなぁ」
「はぐらかし方もっと考えてよ!?まだ月も出てないし、特に今日なんて新月の日だから!」
とかなんとか言って、アレクとじゃれ合いながら目的地へ向かっていた、その時だった。
「お兄さん方、ちょいと私とお話をしないかい?」
馬車の荷物の陰から唐突に老婆の声が聞こえてきた。
目を凝らして見てみれば、確かに怪しげな黒いマントを前身と顔に纏った老婆が一人、水晶を抱えて座っていた。
「うわあ!?……この馬車他にも人乗ってたの!?」
「ほんと全然気づかなかった」
「いえいえ、私も息を潜めて眠っておったので、そうかしこまらなくてもよいぞ。どうやら馬車を間違えて乗ってしまったようで、落ち度があるのは私の方じゃ。ここで降りるわけにもいかんから、しばらく共にさせてくれ」
すると老婆は頭を掻きながら、申し訳なさそうに頭を下げる。
見るからに不審者の服装ではあるが、物腰も丁寧なので、悪い人ではなさそうだ。
俺はアレクと顔を合わせ、ひとまずリーダーを請け負っている俺が老婆へ話し掛ける事にした。
「……それでお話とは?」
「いやぁ、私も年を取って、旅に出ては若者へ占いというものをしているのじゃ。色恋や金運など、具体的なモノを期待されても困るのじゃが、ある程度抽象的な事ならこの水晶で無料で占ってやるぞ」
「へえ、無料で、ですか!それなら僕らもやってみて欲しいです!」
「おい、アレク!大丈夫か、結構胡散臭い話だけど……」
「まぁまぁ、ちょっとした暇つぶしにはいいじゃないか。それに無料でやってくれるって言うんだし」
早速老婆に対する警戒を解いたアレクは、俺の方へ向いて説得する。
確かにこの老婆、見るからに強そうでもなければ、シャルロッテさんのように突出した魔力を持っているという訳でもなさそうだ。
何よりこの世界の主人公が大丈夫と判断したのだ、その判断に任せよう。
「では、二人共私が占ってしんぜよう」
「お願いします!!」
アレクは早速俺と場所を交代し、老婆に言われるがままに水晶へ手をのせる。
「……これで本当に分かるんですか?」
「あぁ、その水晶は、私が占いの時以外は常に肌身離さず魔力を流し続けてきたものなのじゃ。しばらく手をのせておれば自ずと……」
すると老婆は、説明をしながら何かに気が付いたのか、声を詰まらせる。
俺もじっとアレクの手が乗った水晶を眺めてみるが、何も見えない。
ちらりと老婆の方を向いてみると、老婆は水晶を見て目を見張っている。
その光景をしばらく見ている内に、そこで俺の頭の中の記憶が突然呼び起こされる。
月影草、月見の森、アレク……そして謎の老婆……っ!?
俺はこれを見たことが、いや、読んだことがある!
「な、なにか不吉なものでも見えました?」
「いや……これは私も見た事ないものが見えたのでな。あなた様は近い未来、何か偉大な事を成し遂げるであろう。しかしそれは偉大でありながら、その方法によっては世界を揺るがす惨事ともなり得る」
「え?僕、将来テロリストにでもなるんですか?」
アレクはおどけたように老婆へ尋ねるが、老婆は何かを考えたままそれには答えない。
その頃には俺も頭の中でこの老婆が誰なのか、見当がついていた。
「あなた様は……世界を救う器をお持ちじゃ。そしてあなた様は力を求めていらっしゃる。何かを成し遂げる、そんな力を」
「それは……」
「ともすれば、私からできるのは……」
「ちょっと、待ってくれよ、婆さん!その前に、俺の占いもしてくれないか?アレクばかり、俺もそろそろ退屈してきたからさ」
俺は押しのけるように老婆の注意をアレクから引き剥がす。
老婆とアレクが同時に俺の方へ振り返る。
ギリギリで思い出せてよかった。
この婆さん、チート売りの婆さんだ!




