第50話 逃飛行
50話という節目、この物語の一区切りってところですね。
まだまだ続くので応援してください!
俺は首を回しながら、窓の外の様子を伺う。
3時を過ぎ、日も段々と落ち始めたころだろう。
「……なぜ俺は休日に勉強をしているのだろう」
「……学生にあるまじき発言ね」
するとシャルロッテさんも流石に疲れたのか、口元に手を当ててあくびをする。
「シャルロッテさんも、そろそろ部屋に帰るという手は……」
「何を言ってるの、勉強なんて疲れたと思い始めてからが本番でしょ…………あ!」
シャルロッテさんは何かに気付いたように顔を上げると、俺の顔を見て睨む。
「……いつも思っていたけれど、呼び方。皆の私に対する呼び方」
「シャルロッテさんって呼び方がどうかした?」
「それ……長くない?さん付けだし、なんかいつもすごい距離感を感じるのだけど」
「とは言われても、リアラさんに対しても基本さん付けだし……」
「リアラさんはいいわよ、合計5文字で。それにあの子いつも敬語だからしっくりくるのよ。でも私なんて『シャルロッテさん』で合計8文字よ。8!」
そう言ってシャルロッテさんは身を乗り出して、指で8を示して、アピールしてくる。
……結構気にしてたんだ。
シャルロッテさんはしばらくすると、冷静になったのか再びノートに向き直り、勉強を再開させる。
「……あなた仮にも私の彼氏なのよね」
「ま、まあ、そうだけど」
「……シャル…」
「え?」
「だから、シャルかロッテ、どっちがいいかって聞いてるの!」
シャルロッテさんは少し顔を赤らめながら強気にこちらへ顔を向ける。
自分で言っていて、恥ずかしい気持ちもあるのだろう。
しかし、シャルロッテさんを、シャル、とかロッテ、とか呼び捨てにする?
「いや……ない、ない」
「なんでよ!」
「と、言われてもな。シャルロッテさんはシャルロッテさん、が一番しっくりくるしなぁ……」
「なに?日頃の行いが悪いの、これ」
「まあ……そうだな」
「それが一番傷つくのよ!」
そう言ってシャルロッテさんは恥ずかしさに耐えられなくなったのか、机に顔を埋めて、ぴくりとも動かなくなった。
「もはやその情緒、心配になってくるんだけど……」
「……私もそう思う」
俺は机に顔を埋めるまま答えるシャルロッテさんが面白くて、思わず笑ってしまいそうになるのを堪える。
よく思い返してみれば、この部屋に来てからというもの、シャルロッテさんは明らかにテンションが高かったしあがっていた。
一人男子寮に来る緊張とか、恐怖とかもあったのかもしれない。
しかしそれを押してシャルロッテさんは一人でここまで来てくれたという事だ。
俺は手先でペンを回しながら、目を瞑る。
「……そこまで急に距離を詰めようとなんてしなくても、俺も、皆も、どこにも行かないよ。シャルロッテさんはシャルロッテさんだ。これは何も悪い事じゃない」
「………でも、私は皆とは違って、何も……」
「何も特別な事なんてなくていいんだよ。そんなものなくても、俺達はシャルロッテさんを信じているし、シャルロッテさんも、俺達を信じてくれてる。それでいいんだ。そのままでいいんだよ。………これが俺の名言。どう?」
「……ほんとに名言みたいな事言うのね」
「あぁ、俺が1.8秒で本気で考えた名言だからな」
「なに私の名言と張り合ってるのよ」
シャルロッテはむくりと起き上がると、目を擦りながら、少し笑みをのぞかせる。
うん、やっぱり笑っているシャルロッテさんの方がいいな。
俺は立ち上がり、乾いた喉を潤わせようとコップに水を入れようとした時、唐突に扉が開かれる。
「シエル!!わしが事務の仕事に出向いている間に女がこの寮に入って来たという噂が……あ?」
「あ」
その時、慌てて入ってきたルーベルトさんを見ながら思い出すのはあの日、入学初日に親切な寮の先輩に言われた言葉だ。
『女子を連れ込もうものならすぐさま寮長による嫉妬100%往復ビンタ3000発が飛んでくるから、やるなら絶対ばれないように』
完全に忘れてたけど、ちゃんと後の展開の伏線だったのかよ!?
ルーベルトさんは恐らく100%俺ではないであろうと思って、相談でもしに踏み込んできたのだろうが、まさかの俺こそが犯人という現実に目を丸くしている。
しかし、これはチャンスだ!
「よし、今すぐノートはそこに置いて、窓から逃げよう!」
「え?なんでよ」
「理由は後で言うから!」
俺はすぐさま窓へ駆け寄り、思い切り窓を開く。
ルーベルトさんも状況がつかめてきたのか、その目がどんどん嫉妬に染まっていく。
そして急いで立ち上がったシャルロッテさんへ向かって手を伸ばす。
「いったい何で……」
「いいから!来いよ……シャル!」
「……っ!……そういうの、ずるいのよ」
「いいだろ、たまにはカッコつけても」
俺は急いでシャルの手を掴み引っ張ると、浮遊魔法を発動させる。
そして腕の中にシャルを抱きかかえて、一気に飛ぶ。
ルーベルトさんは紙一重で俺に逃げられたのを、窓から悔しそうに嘆いていた。
「……それであなた、段階が大事とか言いながら、しれっと私をお姫様だっこして抱きかかえているけど、ここから一体どうするつもり?」
「……そうだな、どうせここまで来ちゃったのなら、浮遊魔法の練習ついでに空中デートでもします、か?」
「カッコつけるなら、最後までカッコつけなさいよ。ま、それでいいけど」
ぶっきらぼうに言うシャルは、決して俺と目を合わせようとはせず、かくいう俺も恥ずかしさでずっと顔を背けていた。
俺達の関係らしい、そんなやり取りだ。
「……それじゃあ、屋上まで目指して」
「……よろしく頼むわ」
それ以上何か会話をすることはなかった。
俺はひたすら浮遊魔法に集中して、急アクセル、急ブレーキにならないよう気を付けて魔法をコントロールする。
デートと言うにはあまりにうぶな逃避行ならぬ逃飛行は、すぐに終わった。
しかしその時間は俺にとっては特別な時間だった。
俺の腕から、風に揺れるシャルの髪、そして青い海に浮かぶ白い雲々、その景色に笑顔を見せる女の子。
それら全てが俺にとって特別で、不思議とこれまでやって来た全てが報われたようなそんな気持ちになれた。
次回、幕間!!(ドンッ!?)




