第47話 『英雄になるために!』
「……こ、これが冒険者カードですか」
リアラは冒険者ギルドを離れながら、カードを手に取り、後ろを振り向いて言う。
「だね。僕らは一番下のFランクだから、比較的軽い依頼しか受けれないけどね」
「シエルもシャルロッテさんも来ればよかったのになー」
ヘンリは頭の後ろに手を組みながら、空を見上げて言う。
今アレク達一行は、冒険者登録を済ませ、街中を散策しながら、薬草採集を行う郊外を目指して歩いていた。
「な、なにか、あったんですかね?」
「……まぁ、シエル君はちょっとおかしかったからね。力不足って本人は言ってたけど、多分心の問題だと思うな」
「心の問題?そんな繊細な奴だったっけ?」
ヘンリは顔を顰めながらアレクの方へ向くが、アレクは目を瞑り、思い出すように答える。
「うーん、僕もよくは分からないけど……まぁ大丈夫だとは思うよ。シャルロッテさんがついてるし」
「し、シエルさんとシャルロッテさんって、そ、そういう関係だったんですか!?」
「いや、違うからね。あの二人はそういう恋人みたいな甘い関係ではないけれど、なんて言うんだろう……シエル君がいたからシャルロッテさんがいるし、シャルロッテさんがいるからシエル君がいる、みたいな?」
「うん、全く分からん」
ヘンリと同じくリアラもアレクに対して首を傾げるが、アレクは少し微笑みを浮かべて早足で二人を追い越す。
「つまり、今はあの二人に任せればいいって事!来週からはきっとシエル君も復活してるはずだから、少しでも冒険者としての差をつけておこう!」
「アレクさんがそう言うなら……私、頑張ります!!」
「確かに、奴らには負けたくないな!よっしゃ!!」
リアラとヘンリも、アレクに追いつこうと早足で、人通りの少ない街中を駆けていく。
小鳥が5羽並んで飛び立つ。
日は昇り、時刻は昼に突入しようとしていた。
外はぽかぽかあたたかな陽気に溢れているはずなのに、俺の部屋は冷たく、重苦しい雰囲気だけが支配していた。
「……よし、窓を開けよう!やっぱり喚起は大事だよね」
そう言って俺は立ち上がると、窓へ駆け寄り、勢いよく窓を開ける。
すると外はそれなりに風が吹いていて、窓を開けた瞬間に俺のノートや本がペラペラと音を立てて床に落ちたので、俺は急いで窓を閉めた。
そしてさっきよりさらに気まずさを増しながら、自分の座っていた場所へ戻って、ノートを元に戻す。
これ以上悪くなることはないだろうと思っていた雰囲気が、さらに悪くなる事ってあるんだな。
「……あなたは何がしたかったのよ」
「……俺にも分からん」
俺は正座に居座ると、シャルロッテさんは何かを見つけたように、俺の部屋の一角を指さす。
「……あれ、さっき落ちてたけど、随分古臭いノートね」
「……え?あー、これか」
俺は立ち上がり、ノートを拾うと、その懐かしい表紙を見て気付く。
『英雄になるために!』
これはこの世界のシエルが、熱心に書き込んでいたノートだ。
俺ではない、シエルが。
「……別に大したものじゃ……」
「見たいわ、なにやら面白そうなタイトルだし」
どうやら既に表紙をシャルロッテさんに見られていたらしい。
俺は隠すのをやめて、そのノートを持ってシャルロッテさんの方へ向かう。
「……これは俺がこの学園に来る前に書いてたやつなんだよ。中を見れば、大分恥ずかしい事も言ってるし、まぁ、若気の至りだよね」
「え、ホントに見ていいの?あなたの黒歴史ノートだったら、流石に遠慮してあげようと思ってたけど」
「意外と中二病には優しいシャルロッテさん…」
俺はノートを机の上に置くと、手でジェスチャーして、シャルロッテさんに読んでもらう。
シャルロッテさんはノート捲りながら、どんどん顔が険しくなる。
俺は立ち上がって、水だけ入れたコップを二つ、机に持っていく。
俺がコップの水に口をつけると同時に、シャルロッテさんは顔を上げる。
「……これって…」
「それは俺が子供の時に考えた、未来予想図、らしいな。学生のうちにSランク冒険者になる、だとか、お姫様を助ける、とか、まるで夢物語みたいなことを考えていた…らしいな」
「…らしい、らしいって。これはあなたが…」
「俺はさ、その時の記憶がまるでないんだよ。というか、この学園に来る前の記憶がなんにもない。……って言ったらどう思う?」
「………どういうタイプの冗談?……ってなるわね」
「だよね……」
俺はコップを机に戻すが、もちろんここから話が膨らむことはない。
シャルロッテさんもノートに目を落として、怪訝な顔を浮かべたままだ。
「いや、俺がしたかったのは、こんな話じゃなくて……なんというか……」
「……合点がいったわ。そしてまとまった」
「え?まとまった?」
「ええ、あなたの胸を打つ名言、思いついた」
……シャルロッテさん、まだ考えてくれてたんだ。




