第45話 冒険者と突然の訪問
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ダンジョン演習が終わり、1週間が経過した頃。
アレクは俺の席の方まで近づき、その机を叩く。
「冒険者登録をしよう!!」
俺はアレクの言葉を聞いてキョロキョロと周りを見渡す。
「………」
「………え、俺?」
「シエル君以外に言ってたら、僕唐突に他人の机を叩いた、ただの変な人だから!?」
昼休みで、次の授業まで時間もあまりないというのに、アレクは元気に声を張り上げる。
しかし、冒険者か……。
いよいよ、原作ストーリーの始まりに足を突っ込みつつあるようだ。
ここで原作ではアレクとヘンリの仲良しコンビが、フレアさん、イレーナさんを誘って本物のパーティーを結成するんだったな。
「……リゼ先生からの許可もこの前出てたっけ。ほんとよく、こんな俺に許可を出したもんだとは思ったけど」
「……そこまで卑下しなくていいから。先週のダンジョン演習は事故みたいなものだったし」
俺は腕を組みながら、考える。
冒険者の稼業は、ネット小説でもおなじみの、薬草採取からダンジョン探索まで、多岐にわたる。
学生の中には程よいアルバイト感覚で冒険者登録をする者も少なくはないらしいが……ここは、どう動いた方がいいのか。
「……ヘンリ君とかは?」
「ヘンリ君とリアラさんには声を掛けてみたけど、オッケーだって」
「え、リアラさんが?」
「そ、そうだけど……」
俺は思わず身を乗り出してアレクに聞く。
リアラさん…本来原作でも全く出てこないはずのリアラさんが、ここにきてストーリーに絡んできた。
これは……やっぱり俺の介入によって物語が変わったと、考えてもいいのだろうか。
「……また何か騒がしいようだけど、何かあったの?」
「あ、シャルロッテさん!ちょうど、シエル君に冒険者登録を一緒にしようって声を掛けてたんだ。シャルロッテさんもどう?」
トイレから戻って来たらしいシャルロッテさんは手をハンカチで拭きながら教室に入って来る。
シャルロッテさんは席に腰掛け、ちらりと俺の方を見ると、アレクに向き直る。
「……私は別に構わないけど、この男はなんて言ってるのよ」
「いや、それはまだ……」
「俺は今回はパスするよ」
アレクとシャルロッテさんがこちらを見ると同時に俺は即答する。
「え?なんで?」
「別に今回焦って登録する必要もないんだろ?いつでも登録はできるなら今回じゃなくても……」
「あら、あなた入学初日に誰よりも早くダンジョンを全部攻略するって大見栄を切ってたはずだけど」
そういえば入学初日の自己紹介の時、そんな事も言っていた。
しかし、俺には今回ばかりはアレク達に参加する事ができない理由があった。
「でもマジな理由を言うと、前のダンジョン演習で、俺自身の力不足を感じたからだな。もっとルーベルトさんから魔法の基本とかを勉強してから参加するつもりだったから」
「…そっか、それなら仕方ないね」
アレクは若干顔を俯かせて納得するが、シャルロッテさんはまだどこか訝しむように俺を睨む。
俺はそんな視線から目を背けるように、自分の目を閉じる。
だが今アレクに語った事には何一つ嘘はない。
それに現時点でもし、ヘンリ君とアレクだけのパーティーであれば、俺も無理やりにでも参加したかもしれないが、今回に関して言えばリアラさんがいる。
原作の未来を変えるために、俺が今無理に参加する必要性はないという訳だ。
「それに、もうすぐ中間テストも近い事だし、俺は中間テストが終わったら冒険者登録する事にする」
「…今までテスト勉強なんてほとんどしてこなかったくせに?一夜漬けこそがテストの醍醐味やでぇ、とか言ってたくせに?」
「……俺そんな恥ずかしい事関西弁で言ってたっけ」
シャルロッテさんは俺を見て大きくため息をつくと、首を捻って改めてアレクの方へ向く。
「……やっぱり私も今回はやめておくわ。今は私も冒険者とかそういう気分じゃないわ」
「そ、そう?ならとりあえずは僕とヘンリ君、リアラさんで登録しに行ってみるよ」
「そうして頂戴」
アレクはどこかいつもとは違う俺とシャルロッテさんに違和感を感じながらも、渋々自分の席に帰っていく。
リゼ先生も教室に入って来て、教室の喧噪もおさまり始める。
俺はちらりちらりとシャルロッテさんの顔色を伺うが、全くこちらを気にすることなく、前だけを見つめていた。
翌日。
今日は週末の休みという事もあり、俺は布団から飛び起きると、自分の部屋で腰を伸ばしてストレッチをする。
朝ごはんを作るような気もしなかったので、取っておいたパンを一口ほおばりながら、窓の外を見る。
「……アレクは冒険者、ギルドかな?」
眩しい陽光に目を細めるが、部屋の中を見ていてもつまらないのだからと、しばらくぼーっと外を眺める。
冒険者ギルドとはまた、お決まりのテンプレではあるが、この世界にももちろん存在する。
受付所もいればギルドマスターもいる、まさしくテンプレ通りだ。
学園からも結構近い所にも位置している為、学生の多くはそこで冒険者登録を済ませる。
アレクも確か今日の早いうちに冒険者ギルドに行ってみると言っていたので、もうこの学園にはいないのかもしれない。
少し喉が渇いてきたなと、ようやく窓際族を卒業した手前、唐突に俺の部屋の扉がノックされる。
俺はルーベルトさんでも来たのだろうと予想し、手櫛で髪を整え、目を擦りながら扉をほんの少しだけ開ける。
「……新興宗教の勧誘だったら隣に………………え?」
「邪魔するわ」
ルーベルトさんとの愉快なやり取りでも始めようとボケをぶっこんだところで、扉の隙間に足を入れられ、そのまま足だけで強引に、部屋の扉が全開にこじ開けられる。
そしてそれをやってのけた犯人はすたすたと、俺の部屋の中へ足を踏み入れる。
上品に玄関で靴を揃えてらっしゃって……
「……いや、なんでいるの!?といか何をしに!?」
「何って……あなたも言ってたじゃない?勉強よ!」
こうして俺の平和な休日は突如として崩れ去った。
そして始まる、シャルロッテさんとのドキドキわくわく勉強会に、俺はただ戦慄していた。




