第44話 ダンジョン演習の終わり
「……まさか、あなたが来てくれてるとは」
「やはり入学してたったの1月でやらかしおったな貴様。またしても呪いの部屋伝説が受け継がれてしまったか……」
「……ぐうの音も出んです」
俺達が引き上げられたそこには、俺の寮の寮長ルーベルトの姿があった。
呪いの部屋否定派だった俺だが、実際こうやって厄介事に巻き込まれてみると、もはや呪いなんじゃないかと本気で思えてくる。
しかしルーベルトさんの魔法は、主に身体強化の魔法だったはずだ。
入学初日のドアの引っ張り合いしかり、この人の馬鹿力があったからロープも早く引き上げてもらえたのだろう。
「……どこか、怪我はない?」
「こちらの怪我は多分寝てたら治るタイプの怪我なので……それよりリアラさんは大丈夫ですか?」
「……傷はあまり残らないように丁寧に治療はやろうと思ってる。あなたが大丈夫なら、そっちに専念するわ」
「そうしてください。あと、そんな元気無くさないでいいですよ。俺もリアラさんも全員生きてるんだし」
「そう言われても……後でしっかり謝らせてもらうわ」
そう言って決まりの悪い顔を浮かべるリゼ先生は、頭を下げると、そのまま顔を俯かせながらリアラさんと、そのそばで魔物を見張るヘンリ君の方へ駆けよっていく。
自分のミスのせいで生徒が危険な目にあったと考えるとリゼ先生が罪悪感を抱くのも分かるが、今回に関しては何重にも不幸が重なった結果であり、むしろダンジョングッズを多めに渡していた事が全員生還という結果を呼んだことに繋がったと考えて欲しい。
「……リゼの奴は昔から責任感だけは人一倍じゃったからな。弱みに付け込みたいなら今がチャンスじゃぞ!」
「最低だ!?俺だってリゼ先生に何か文句言える立場じゃないですし、それはまたの機会ですね」
「今じゃなくても、リゼ先生の弱みに付け込もうとしたら駄目だからね!?」
俺がルーベルトさんの横で寝転んでいたら、座り込んだアレクがルーベルトさんの反対からつっこみを入れる。
「ジャック君の班は?」
「一足先に帰るって」
「そうか、もっとお礼言っときたかったけどな」
今回の件に関してはジャック君達がいなければ、もっとつらい戦いを強いられていただろう。
アレク、ヘンリ君、シャルロッテさん、そしてジャック班の面々、全員が揃ってなければ俺はまだここにはいなかったかもしれない。
「……改めて、大分綱渡りだったんだな」
「ほんと最初から最後まで、良いも悪いも、何かに仕組まれたみたいな、そんな感じがしたよ」
「……確かにな。……ところで君は誰だ?」
「僕だよ、僕!」
「そんなボクボク詐欺をされても、俺の所持金なんて58円だぞ」
「前より減ってる!?君を助けた命の恩人を忘れないでよ!アレクだよ!」
アレクはそんな俺の冗談にツッコミを入れながら、立ち上がると、ルーベルトさんに声を掛ける。
「ルーベルトさん、帰りはどうなりますか?」
「やはりここはリアラというお嬢ちゃんの回復と、シエルの回復をある程度待ってから帰還する事になるじゃろな」
「それまでここは魔物が入ってこないようにしないとですね。……シャルロッテさん!僕とルーベルトさんとで交代するから休んでて」
アレクは考える仕草を見せると、魔物がやってこないか、座りながら見張りをしていたシャルロッテさんの方へ手を振る。
シャルロッテさんはほんとに疲れているのか、息をつきながらゆっくり立ち上がると、こちらの方へ歩いてやってくる。
アレクとルーベルトさんはシャルロッテさんに入れ替わるようにして、持ち場につく。
「……あなたもう10分も休んだんだから、すたすた歩けるでしょ」
「無茶言わないで、シャルロッテさん。もう足も、ついでに肩も限界なんだから」
「…こんな事はもうこりごりね。体力的にも精神的にも疲れてしょうがない」
「まったくだ」
そう言うと、シャルロッテさんは、俺の寝転がるすぐ隣に腰を下ろして、はあ、と大きく息を吐く。
そして訪れる沈黙。
(……なに、この状況。この何か気の利いた事を一つは言わないといけない様な……)
「ところであなた……」
「へ?あ、は、はい!はい!!何でしょうか!!」
「……返事がすごくテンパってるけど」
「いや、俺沈黙耐えられないタイプだから、何かここで一つシャルロッテさんの胸を打つ名言でも言ってやろうと考えてたから」
「……沈黙に弱いタイプはよくいるけど、気まずくなると名言考える奴は初めてだわ」
シャルロッテさんは体育座りに座り直すと、自分の膝の間に顔を埋める。
「……今回、あなたは班のリーダーのくせに勝手に行動し、勝手に厄介事に突っ込んでいき、勝手に私達すら巻き込んだわけだけど、何か言い残した事はある?」
「……………えーと、皆さんに助けていただいたこの命だけは、恩赦をいただけないかな、と」
「それはあなたの行い次第ね」
「行い?」
すると、シャルロッテさんはいたずらな笑みを浮かべ、自分の体の位置をずらして、俺の膝元にまですり寄る。
そしてそのまま俺の膝のあたりに頭をのせて寝転がる。
「何を…」
「このくらいいいでしょ。私だって寝転がりたいのよ」
「なにも俺の膝じゃなくても……」
「なに?文句あるの?」
「いいえ、むしろご褒美をいただいたと、嬉しく思っております!!」
「…まあいいわ」
シャルロッテさんはぎろりとこちらへ睨みを利かせると、今度は顔を背けて、俺に背中を見せるかたちになる。
(いや、さっきから状況がどんどん難しくなってるんだけど)
俺は混乱しそうな頭を振って、目を瞑る。
そろそろ沈黙が気まずくなってくるが、少しでも体を回復しておかないといけないのだ。
しかし再びその沈黙を打ち破ったのは、背を向けたままのシャルロッテさんだった。
「……リアラさんの事、色々ありがとね」
「……別に俺は何もしてないよ。俺だってできなかった事の方が…」
「でも……本当はそれは私の役目だった。あの子は私を頼って来てくれたのに、肝心な時にいつも傍にいてあげる事ができなかった。私はあの子に偉そうな事を言いながら……全部あなたに押し付けてたのかもしれない」
「…………」
「だから私……ほんとは怖かったの。全部を押し付けた、あなたと、リアラさんが死んでしまったらって考えると、何度も震えが止まらなかった」
「………そっか、シャルロッテさんにも怖いものはあったんだな」
「ええ、私はほんとは怖がりなのよ。……だから、これは私を余計に怖がらせた罰よ。いいから膝くらい貸しなさい」
細かく震えながら、それでも背中を向けて喋るシャルロッテさんは、ほんとに、俺とリアラさんを心配してくれていたんだろう。
きっと色んな後悔もあったと思う。
シャルロッテさんは原作ではいつも着丈で、強くて、カッコいい、そんなキャラクターだ。
でもここに小さく寝転がる少女は、きっとそんなキャラとか以前に、ただの人間なんだ。
俺と同じように悩むし、傷つくし、怖さを感じる。
「……やっぱり今日はお互い、疲れたって事だね」
「……結局そういう事ね」
俺とシャルロッテさんは、そこからリアラさんが意識を取り戻すまで、一言もしゃべる事はなかった。
でもそんな沈黙が、今の俺にとってはどこか心地よいような気がした。
こうして、あまりにも長すぎたダンジョン演習が終わる。
次回、幕間!!(ドンっ!?)
やっとダンジョン演習編が終わりました!
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