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第2話 主人公との出会いは唐突に


「マジか……分かってたことだけど」





俺が馬車を降りると、目の前には巨大な城が建っていた。

古くからの城を改装して魔法学園の校舎としたらしく、原作の挿絵を見た時から思っていたがその無駄に大きな校舎は圧倒的な存在感と威圧感を放っている。


しかしあの下手くそな挿絵と多くの共通点を持つこの城は、この世界が『僕最強』の世界だという事をいい加減思い知らせてくれた。


(もう観念するしかないか)


ここまでの道中、何度も『僕最強の世界はやめて、僕最強の世界だけはやめて』と、あるはずのない組分け帽子に願ってきたが、いい加減現実を見て、この世界を生き延びる方法を考えなければいけないだろう。


俺は荷物を全て馬車から下ろすと、その足で学園の寮へ向かう。




*****




俺がだだっ広い学園の中に足を踏み入れた時、俺が入ってきた門とは反対側の門から1人の女の子が沢山に積まれた本を体いっぱいに抱えてやって来るのが見えた。


俺は前世の父親譲りの人見知りを全力で発動し、顔を伏せたままその女の子の横を通り過ぎようとする。


女の子も辛うじて積み上がった本の上から俺の姿を見つけたのか、俺とぶつからないように進路を横にズラそうとするが、その際に足がもつれ1番上の本がスルリと滑り落ちてくる。



「あっ、あぶなっ!……くない」


「失礼」



俺は咄嗟に片手を差し出して、本を受け止めようと体を張ったものの、突如として本はブワッと浮き上がり1番上の元の位置に戻っていく。


勢い余って思わず尻餅をついてしまう俺を尻目に、銀色の髪を揺らす女の子の後姿は消えていく。



(今のが!魔法、か?……それより、ん?今の子どこかで見たことあるような……ないような)



俺は体の埃をはらいながら立ち上がると、頭をかいて歩き始める。

モヤモヤとした気持ちをとりあえず仕舞い込んで、俺は寮へと向かっていった。




*****




寮は城の中に併設されており、既に春休みから帰ってきたのだと話す上級生に案内してもらいながら部屋まで歩く事となった。



「ここが1年生の男子寮だ。女子を連れ込もうものならすぐさま寮長による嫉妬100%往復ビンタ3000発が飛んでくるから、やるなら絶対ばれないように」

「そ、そんな事しませんよ!」



そんな先輩とのフレンドリー?なやり取りを終えて荷物を全て部屋へ搬入した俺は思い切りベッドへダイブする。

明日はもう入学式だ。


恐らく奴は、明日入学してくる。

それは現在の世界情勢、そしてまだ奴の名が世界に轟いていないという事実からして明らかだ。

まさに原作の状況そのままなのだ。


ここで奴、つまり『パーティーに追放された僕は、最強の能力に目覚め、レベル9999で世界を無双する。するとツンデレ美少女に懐かれ、人生逆転しました。今更パーティーに戻れと言われてももう遅い』の主人公アレックスについて語っておこうと思う。


アレックスはエンドレッド魔法学園に通う、所謂普通の学生でありながら、クラスメートで陽キャラを絵に描いたようなお調子者ヘンリ達一行と共に冒険者としてパーティーを組んでいた。


真面目なアレックスは必死になってパーティーに貢献していたが、ヘンリにパーティー追放を言い渡されてから、タイトル回収へと物語は動いていく。


唐突に出てきたレベルの概念や主人公の行動の動機、周りのキャラクターの頭の悪さなど、設定のガバさについては最早説明不要だと思うが、要するにここで言いたいのは、主人公アレックスが学園に入学してからヘンリとパーティーを組み、追放を言い渡されるまでにそれなりのタイムラグがあるという点だ。


入学が明日ならアレックスがパーティーを組むのが1か月後、そして追放されるのは約4か月後、夏休みの時だ。



「…もし俺が明日アレックスを殺したらストーリーはどうなるのだろうか」



誰しもが一度は考えたことのある、ifストーリーと言うやつだ。

原作ストーリーに俺が介入しようとすると、果たしてその後のストーリーはどう変わるのか、それとも運命の強制力のようなもので、改変する事ができないようになっているのか。


アレックスを殺すというのはやり過ぎだが、何か試してみる必要はありそうだ。



バタバタと、俺と同じように寮へやってきた1年生で部屋の前の廊下が慌ただしくなってきた。

コンコンという扉のノック音で俺はむくりと体を上げ、急いでベッドから立ち上がる。



「どちらさm…」

「寮長のルーベルトという者だ!待てど暮らせも誰一人挨拶に来るものがいなかったから逆にこちらからかけつけてやったわ!普通菓子おりの一つや二つ持参するのが常識じゃろうに、最近の若者は…」

「それはそれは…」



扉を開けるとそこには眉間に皺を寄せ、髪をぼさぼさに伸ばした白髪の老人が立っていた。



「…なぜ寮長のワシが来たというのに扉を5㎝しか開けんのじゃ」

「いや、怖い人が来たらとりあえずこうしろ、って習ったので」

「誰がこの街の暗部を裏から取り仕切る黒幕の若頭じゃ!?」

「そんないいように言ってない!?それにあんた若くないだろ!」

「んなっ!いいから中に入れんかい!このアホ、茶髪、バカ!」

「悪口のボキャブラリー0か!?いいから人の話を聞け!このじじ…」



こんなやり取りをしながらお互い扉を引っ張り合っていたのだが、



(このじいさん思ったより力強い…見た目はひょろひょろなのに、どこにそんな力が)



すると一瞬の隙をついてルーベルトさんは一気に扉の隙間から手を伸ばし、一気に扉を開けてしまう。



「…はあ、はあ、最初からこうすればよかったものを…。ワシを疲れさせやがって…」

「はぁはぁ、俺だってここにきて一日目でこんな疲れるなんて思ってなかったですよ。まあ見られて困るものもまだ何もないのでいいんですけど」



ルーベルトさんはそれを聞いてフラフラと部屋の中に入るとカーペットの真ん中でどかっと腰を下ろす。



「酒はないのか?酒だ酒、酒を持ってこい」

「セリフがただの駄目親父じゃねえか。そんなのあるわけないでしょ。未成年だし」

「なんじゃ?お主16じゃろ?立派な成年ではないか」



そうだった、この世界ナーロッパなの忘れてた。

主人公のアレックスも酒場みたいな所で酒飲んでる描写があったっけ。

っていうか俺16なの?

元の世界では18だったからそんな違いは分からなかったが、どうやら2歳ほど若返りもしてたようだ。



「仕方ない、ワシの酒を飲むか」

「変なひょうたん持ってんな、って思ってたけど、それ酒だったんですか?俺は飲みませんからね」

「貴様寮長であるワシのいう事が聞けんのか?!けつ出せ!けつ!けつから飲ましたらぁ!」

「なにこの時代にパワハラ、セクハラ、アルハラの全部コンプリートしてんすか!絶対やらないですから!」



するとルーベルトさんは渋々といった感じでひょうたんの栓を開け、一人がぶがぶ酒を飲み始めた。

ほんとになんなんだ、この人?



「それで一体何しに来たんですか?酒飲みに来たわけじゃないでしょ」

「…ん?そりゃ顔合わせに決まっとるだろ?この部屋に来た奴がどういう奴か見極めるためにな」

「この部屋?」



何か特別な部屋なのだろうか。

いたって普通のワンルームに見えるが、もしかして事故物件とか!?

俺はお化けもめんどくさい寮長も、クソジジイも皆ノーセンキューなんだが。


ルーベルトさんはそんな反応を楽しむようにひょうたんを置くと、話を続ける。



「というのもこの部屋、エンドレッド魔法学園北棟303号室にやってきた新入生は、まるで何かに導かれたように、皆揃って学園にトラブルを持ち込んでくる」

「へえ…」

「それをきっかけに名を挙げた者もいれば、一気に闇へ堕落した者もいる。ここはそういう部屋なんじゃ」



ルーベルトさんは昔を懐かしむようにひょうたんを見つめる。

そういう部屋、ねえ。


十中八九偶然だとは思うが、確かにそれが続けば呪いの部屋扱いにもなってもおかしくはない。

まあ、それより…



「あの……言いずらいんですけど、ここ303号室じゃないんですけど……」

「は?……ここ階段上がって三つ目の部屋じゃろ?」

「いえ、四つ目の304号室なんですけど……」


「「………」」


お互い見つめ合いながら、気まずい沈黙がその場を支配する。

なにこの先に口を開いた方が負けみたいな雰囲気。

するとルーベルトさんは何か閃いたかのように口を開く。



「…そうじゃ、お主が元々隣の部屋だった事にすればいいんじゃ!そうすればお主が部屋を間違えた事にできる!」

「やだよ!なんで引っ越し初日に引っ越さなきゃいけないんですか!?」

「ワシに恥をかかせるつもりか!」

「120%あんたが悪いでしょうが!?」


「あーあー、ワシと仲良くなって置いたらテストの過去問とか横流しできるんだけどなー、そんなこと言われたらなー…「その言葉忘れないでくださいよ!」



そんなわちゃわちゃがあって、結局俺は隣の呪いの部屋に引っ越すことが決まってしまった。

どうやら元々その部屋に来る予定だった子がまだ来ておらず、また、俺自身もめんどくさいからと持ってきた荷物を全く広げずに置いていただけだったので、引っ越し作業はあっけなく終わった。



「よし、一件落着!」

「…入学式前日になんでこんな疲れてるんだろ?」



俺はどしりとベッドに腰を下ろすと、ルーベルトさんに尋ねる。



「そういえばここ、元々誰が来る予定だったんですか?隣の部屋って事は同級生として後々世話になる事も多いと思うので」

「あぁ、ここか。ここは確か、パッとしない普通の名前の……。誰じゃったかな?」



俺がルーベルトさんの話に首を傾げていると、またしてもドアがノックされ、今度は勝手に扉が開いた。

恐らく今話していた、元々この部屋の割り当てられていた子だろう。

俺は急いで立ち上がると、その顔を見てぎょっとする。



「……あれ?この部屋僕の部屋じゃありませんでしたっけ?」

「…いや、今日突然部屋が変わったんだ。君は隣の部屋…」

「あぁ、そうなんですね!ありがとうございます。あなたは?」

「俺はシエルだ。…君は?」


「僕はアレックスって言います。アレクって呼んでください」




…よりによって主人公かよ。



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